第25話 ボッチ飯と応援

 4月16日(月)


 昼休み。


 今日の昼食は弁当ではなくパンだ。

 一昨日の昼休みは九条さんや優木さんと話をしていたため、弁当を食べ損ねてしまった。

 真偽の程は省略するが、カーチャンにはそう報告した。


 そんな俺の話を聞いたカーチャンは、

「気にしなくていいんだよ。明日からはパンにしてあげるから。もし友だちとの会話に夢中になって食事する時間がなくても、そのパンは次の日の昼食に回せばいいからね」

 と言って、グッと右手の親指を立てた。


 どうやらウチのカーチャンは、よほど俺に友だちがを作る能力がないと思っているようだ。

 俺、中学の時だって、弁当を一緒に食べる友だちぐらいはいたんだけど……


 それとも、誕生日パーティーに参加するぐらいの人数は、友人として確保して欲しいと思っているのかな?

 俺は先日16歳の誕生日を迎えたばかり。

 大丈夫、次の誕生日まであと1年もあるんだ。

 きっとカーチャンの願いを叶えることが出来るだろう、たぶん。



 そんなことを考えつつ、カーチャンに感謝しながらパンを見つめる。


「なんだよ…… 賞味期限、今日までじゃないか。これじゃあ、明日の昼食に回せないよ」



 さて、そんなカーチャンからの愛情がこもってるのかこもってないのかよくわからないパンを握りしめ、俺は食事をするための場所を探して学校内をさまよっていた。


 純也が『一緒に食おうぜ』と爽やかに誘ってくれたのだが、純也たちクラスカースト上位と思われるグループは男女混合でご飯を食べるみたいなんだ……


 純也には感謝はしてるんだけど、昼休みの長きにわたる時間を、イケてる女子たちと共に過ごす自信はまったくない。


 純也には心からのお礼を述べた後、丁重にお断りさせていただいた。


 優木さんは、おとなしい雰囲気の女子数人と一緒にご飯を食べるようで、高野さんはスポーツ系女子だと思われる集団に取り囲まれていた。

 九条さんは教室にすらいない。


 純也たちのグループ以外は、みんな男女別々でご飯を食べるみたいだ。


 そういう訳で、俺はソソクサと教室を後にした。

 よくよく考えてみると、男子の友だちって純也以外いないんだよな……



 俺はカーチャンが用意してくれた昼食用のパンを食べるための場所を探して、学校をさまよい歩いている。


 なんとなく、1年生の他クラスの様子を見てみると、九条さんが5〜6人の女子と一緒にご飯を食べている光景が目に飛び込んで来た。


 なんだかお嬢様とその取り巻きといった雰囲気だ。

 九条さんって、闇モードじゃない時はちゃんとお嬢様してるんだな。

 みんなと一緒に優雅な雰囲気の中、お弁当をお食べになっていらっしゃる。


 あっ、あの人は確か、歴代の忠義を投げ捨ててまで闇のミサへの参加を拒んだ川崎さんじゃないか。

 闇の世界以外では、ちゃんと九条さんと一緒にいるんだな、と思っていると——


 川崎さんと目が合った。


 俺の姿を認めた彼女は、ニッコリ微笑み小さく手を振ると、口元を小さく動かした。

 たぶん、『ア・リ・ガ・ト』と言ったんだと思う。

 きっと心の底から、闇のミサに参加したくなかったんだな。



 さて、学校中を彷徨さまよった末、やっと中庭の一番端っこにあるベンチを確保した俺は、パンを頬張りながら今後のことを考えた。


 まずは今朝の状況について。

 昨日まで大量のHP貯金があったのに、レベルアップしたおかげで、HPが1に戻ってしまった。


 このため、午前中、なんとか頑張って女子と会話することを試みた。

 すると、なんと25回も会話出来たのだ。


 この成果は昨日、優木さんと仲良くなったことによるところが大きい。

 今日は彼女とたくさん喋れたのだ。


 特に、講演会の内容をキラキラした目をしながら話してくれたんだけど、俺は原作者のウサンクサさをよく理解しているため、複雑な気持ちであったことはここだけの秘密だ。


 もちろん、『めがふら』の作者に会いに行ったとは言えないので、他の有名ラノベ作家のサイン会に行ったとか何とか、ゴマカしながら話したんだけどね。


 それもこれも、原作者である女神様が、エロい描写なんかを入れるから悪いんだ。まったく、あの女神様ときたら…… って、あれ? 何の話だっけ?



 そう、要するに、今日、優木さんといっぱい話せたのは、昨日のサイン会の話で盛り上がれたからなのだ。

 はっきり言って、今回はボーナスタイムだったと言っても過言ではないのだ。

 このため、明日以降、今日と同じぐらい優木さんと話せるとは思えないのだ。


 高野さんと話したのは、朝の挨拶を含めて数えるほど。

 九条さんに至っては、学校ではひと言も喋ってくれない。


 それに加えて、今日は頑張って純也の取り巻き女子たちとの会話にもチャレンジしてみたのだが、大方の予想通りあえなく撃沈。

 彼女たちが何を考えてるのかわからな過ぎて、会話が続かないのだ。


 結果。

 午前中に16HP消費されたため、現在10HPしか残っていない。


 1日あたりのHP消費量は32。

 1時間に4HPも減少してしまうのは本当にキツい。



「ハァ……」

 ため息をつきなが、今後の方針について考えてみる。


 九条さんは流石お嬢様だけあって、放課後はいろいろな習いごとをしているとのこと。

 闇のミサを毎日開催する気はないようだ。


 優木さんと高野さんだけを当てにしたのでは、1日に32回会話出来るとは限らない。


 また昨日のように、学校が休みの日にたくさんHPを稼げたとしても、稼ぎすぎてレベルアップしてしまうことも考えておかねばならないだろう。


 そう、つまりこのままでは絶対に安全だとは言い切れないのだ。



「ハァ……」

 賞味期限が今日までのパンをかじりながら、再びため息をつく。



 校舎から離れたこの場所には、生徒たちの話し声はほとんど聞こえない。

 俺の耳に届くのは、校舎から楽器の音のみ。

 あれは吹奏楽部の演奏だろうな。

 昼休みまで練習するなんて、本当にスゴいと思う。


「ハァ…… やっぱりやるしかないよな」

 もう何度目になるかわからないため息を吐きつつ、俺は一人口籠もる。


 本当はわかっているのだ。

 安定的にHPを増やす方法を。


 それはとても簡単なことだけど、俺にとってはとても難しいことだ。


 HPの安定供給のために必要ないこと、それは部活に入ることだ。

 部活に入れば、放課後にも女子と会話する可能性が一気に広がる。


 でも俺、中学の頃は帰宅部だったんだよな……

 集団行動って、スっごく苦手なんだよ……

 大勢の人と仲良くやるのって、めちゃくちゃ疲れるんだよ……


「ああもう、迷ってても仕方ない! よし、とにかく行動あるのみだ。俺はやるぞ!」

 そう言った後、手のひらで自分の頬をパンパンと叩いて気合いを入れる。


 今日から部活見学期間が始まると、担任の先生が言っていた。

 授業時間が終われば、いつでも自由に興味ある部を見学してもいいらしい。


 もちろん狙い目は男女混合の部活だ。

 はっきり言って、ウチの高校のどこの部が男女混合なのか、俺にはよくわからない。

 でもおそらく、吹奏楽部なら男子部員もいるはずだ。

 以前、某吹奏楽部アニメで見たから、たぶん間違いない。


 パンも既に食べ終わっている。

 よし、教室へ戻ろう。


 意を決して歩き出したところ——


「よう! 今から行くのか?」

 少し離れたベンチに座っていた、先輩と思しき男子4人の集団から声をかけられた。


「え?」

 俺が困惑していると——


「玉砕しても、俺たちがついてるからな!」

 などと、口々におっしゃる謎の先輩方。


「あの…… 何を言ってるのでしょうか?」


「今更、隠してどうすんだよ」

「お前、あそこのベンチで気合い入れてたじゃないか」

「そうそう、デッカい声で『俺はやるぞ!』ってな」


 ニヤニヤしながら語る先輩方。

 そうか……

 俺、デッカい声で叫んでたんだな。


 ここからでも、俺が座っていたベンチがよく見える。

 この人たち、俺のひとり言を聞いてたのか……


「上手くいったら、俺たちにも紹介しろよな」

「あの…… 本当にいったいなんのことを……」


「え? 君、今からコクりに行くんだろ?」

 フゥ…… 笑えない冗談ですよ、まったく。

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