第24話 権利書は渡さない

 時刻は午後10時を少し回っている。


 今日は優木さんと一緒に過ごせて楽しかった半面、かなり緊張して疲れた一日でもあった。


 今日はもう寝て、明日からの学校生活に備えよう。

 そう思ってベッドに入ったところ——


「ま、まぶしい!」

 急に部屋が明るくなったと思ったら……



「パンパカパーン!」


 ……また女神様が現れた。

 これってデジャヴ?



「カンタスはレベルが上がった。カンタスは新しいスキルを手に入れた!」

 いつも通り、女神様のテンションが高い。


「ちょっと女神様、今何時だと思ってるんですか?」

 ちょうど寝ようとしてたところなんだ。

 もう少しこちらの身にもなって欲しい。


「ごめんごめん。ひょっとしてエッチなことしてた?」


「そそそ、そんなこと、生まれてこのかた一度もやったことあるものか!!!」


「なに動揺してるんだか……」


 俺は動揺などこれっぽっちもしていないが、ここは諸般の事情を鑑み話を戻すことにする。


「そんなことより、なんでこんな時間にレベルアップするんですか? 突然過ぎますよ」


「なに言ってんの? アタシが今日、どれだけ忙しかったか、アンタよく知ってるでしょ? あれからも大変でさあ。講演会の後、出版社の人たちとの懇親会があったのよ。ああもう、本当に疲れちゃった」


 女神様ってば、なんだかちょっと自慢げに語ってやしませんか?

『アタシって人気者よ』みたいな雰囲気出してるし。


 若干イラッとしたので、俺はとてもソフトに言い返した。

「脱税の穴埋めをしてたんでしょ? そんなの自業自得じゃないですか」


「……アンタの言い方、ホント、イラッとするわ」

 ヤバい、女神様をガチで怒らせてしまった。

 ここはまた話題を変えよう。


「そ、そう言えば、警備員さんにお金を返したんでしょうね? あの人、涙目になってましたよ?」


「チッ……」

 しまった。女神様が更に一層不機嫌になった。


「ねえカンタス。あのオッサンから借りたのは、間違いなく5千円だったわよね?」


「確かに5千円でしたけど、何かあったんですか?」


「アイツ、『俺が貸したのは1万円だ』ってヌカシやがって……」


「でも、あの部屋には防犯カメラが設置されてたんでしょ?」


「お札の種類までは確認出来なかったのよ。もっといいカメラ用意しとけっての」

 やっぱり、ちゃんと確認してたんですね……


 女神様が防犯カメラの映像を食い入るように見てる場面を想像すると、なんだか笑えてしまう。


「これ以上問題が大きくなっても困るでしょ? だから、出版社の人が仕方なく1万円渡したのよ」

 結局のところ、やっぱり女神様はお金を払っていないじゃないですか、と言うのは怖いのでやめておいた。


 だがこれを機に、女神様には是非反省してもらいたいものだ。

「出版社の人には迷惑をかけたけど、これを教訓にして他人からお金を無理矢理借りるのはもうやめて——」


「話は最後まで聞きなさい」


「え?」


「カメラがある部屋を出た瞬間に、あのオッサンに魅了の魔法『チャーム』をかけてやったのよ。そしてアタシは言ったの」


「なんて言ったんですか?」


「『貯金を全額引き出して、今すぐここにもってきなさい』って」


「アンタ、どこまで鬼畜なんだよ……」


「話は最後まで聞けって言ってんでしょ!」


「す、すみません!」



「それからね、土地と住宅の権利書も持って来させたのよ。その後、不動産屋に売却に行って、ホント、大変だったんだから」


「あの…… 大変指し出がましいことを申しますようで、とても恐縮致しますが…… それ、やり過ぎですよ? はっきり言って悪魔の所業だと思いますよ? そのオジサンにもきっと家族があると思いますので——」


「冗談よ。全く、カンタスは本当に真面目なんだから」


 どうやら、警備員のオジサンとそのご家族は、イカれた女神様がもつ魔法という名の暴力の被害に合わなくて済んだみたいだ。


「でも、軽くお仕置きはしておいたけどね」

 そう言って、ニッコリ笑う女神様。

 どんなお仕置きをしたのか、真実を聞くのが恐ろしい……



「さあ、アタシの愉快な話はここまでにして——」

 愉快なのは、きっと女神様だけですよ?


「——カンタスのレベルアップの話をしなくちゃね」


 ここで俺は、恐る恐る女神様に質問する。

 そう、女神様の機嫌を損ねて、我が家の権利書を奪われる訳にはいかないのだ。


「今回からは、レベルアップしても1日の消費HPは変わらないのでございますよね?」


「……なにビビってんだか。心配しなくても、アンタのところのこんなちっぽけな家なんて、巻き上げたりしないから」

 まさか、また『念話』を使って俺の頭の中を覗いてないよな?


「ツッコみなさいよ。全くノリが悪いわね」

 なんだ、いつもの『小さい家イジり』だったのか。

 俺はホッと胸を撫で下ろす。


「1日の消費HPは32のままにしてあげるわ」


「あの…… それなら別に、レベルアップしなくてもいいのでは?」


「アンタ、自分のHPちゃんと見たの? 68になってるじゃない。当然、レベルアップしていいと思うわ。それとも、アタシのスキルが受け取れないって言うの?」

 なんだか酔っ払いに絡まれてるみたいだが……


「とんでもありません。謹んでお受けいたします」

 今日の女神様はいつにも増して機嫌が悪い。

 徹底的に下手に出て、早く帰ってもらおう。


「今日は忙しかったから、何のスキルをあげるか考えてきてないのよね。しょうがないから希望を聞いてあげるわ、何が欲しい?」


「じゃあ、魅了魔法『チャーム』でお願いします」


「……ズルいこと考えてんじゃないわよ。ちゃんと真っ当に女の子と話をしなきゃ、試練の意味ないでしょ?」


「うーん…… ありがたいお話なんですけど、初級風魔法を土曜日に練習したばかりだから、これ以上強力なものをもらっても、今は使いようがないと思うんですよね」


「それなら、この試練を遂行する上で必要なスキルを考えなさい」


「そういうことなら…… そうだ、探索魔法『サーチ』が欲しいです。これがあれば、話したい女子が今どこにいるのかわかって便利ですから」


 俺がそう言うと——


 珍しく、女神様が優しく微笑んだ。



「なんだか積極的になってきたじゃない。アンタが成長して嬉しいわ。でも、ちょっと寂しくもあるかな」


「それって、自分の手の中から子どもが飛び立っていく、みたいな感じでで寂しいんですか?」


「いいえ、全然違うわ」


「え?」


「女風呂をのぞくための透視魔法とか、イヤラしいことをするための時間停止魔法とか、そういうのを答えてくれたら、おもしろおかしくツッコめたのになって思って、ちょっと寂しくなったの」


 フゥ……

 女神様って、怖いのか優しいのかバカなのか、本当によくわからないや。


「それじゃあ、探索魔法だけを授けるっていうのもなんだし…… ああもう、いいのが思いつかないから、身体強化(弱)を(中)に上げておいてあげるわ。じゃあ、今日は疲れたからこれぐらいで。またね!」


 女神様はまたいつものように、自分の用事が終わるとサッサと姿を消してしまった。



 それでは一応、ステータスの確認をしておきますか。



 名前 : カンタス(田中寛太)


 カッコ内は、今回増加分の数値、あるいは補足説明


 レベル : 4 (+1)

 スキル : 超初級火・水・風魔法

    初級火・水・風魔法

 初級探索魔法(新規獲得)(但し対象者は5人に限る)

    身体強化〈中〉[常時発動](弱から中にアップ)

 HP 1

 MP 300(+100 :レベル1上昇につき100追加)

 称号 : 駆け出し恋愛マスター


〈試練〉

 HP減少数 : 32 / 1日


 HP回復方法 : 女の子と会話する(1会話につき1HP回復)


 HP減少時間 : 9時30分から16時30分まで、計8回。1時間につき4HP減少

 但し、平日のみ



 間違いなく、探索魔法が使えるようになっている。


 確か探索魔法は、詠唱の必要がなかったような……

 そうだ、ステータスと同じように、心の中で『サーチ』とつぶやけばよかったんだ。


 一度試してみるか。


 サーチ!


 おや? なんだか初期設定画面みたいなものが出てきたぞ?


『サーチする対象を、心の中で思い描いて下さい 1/5』


 そうか、探索魔法はまだ『初級』だから、最初に設定した5人しか探し出すことが出来ないんだ。


 高野さん、優木さん、九条さんのことを思い描いて、と、これで良し。


 あれ?


『サーチする対象を、心の中で思い描いて下さい 4/5』


 まだ初期設定画面が消えない。


 じゃあ……

 別に女子じゃなくてもいいよな。


 なら、九条さんと親しくなるためには純也の協力が欠かせないから、アイツも登録しておこう。


『サーチする対象を、心の中で思い描いて下さい 5/5』


 いや、もうこれで十分なんだけど。

 よくよく考えてみると、俺って友だちが少ないんだな……


 なんだよこれ。完了ボタンが見当たらないじゃないか。

 友だちが5人いない人間は、この魔法を使ってはいけないとでも言うのか?



 仕方ないので、九条さんと純也の友達の川崎さんを登録しておいた。


 探索魔法と引き換えに、結構メンタルを削られたような気がする。

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