第13話 閃光のブルークラウド

 只今、闇のミサ絶賛開催中。


「次は私が名乗らせてもらうわ」

 今度は、とてもいきいきとした表情の九条さんが口を開いた。


「我が真名まなは、サンクチュアリ・エインヘイリアル。二つ名は閃光センコウ青雲ブルークラウド——」

 お墓まいりにでも行くのか?


「——前世ではファンタスティーナ王国で魔導士をしていたわ。王宮付きの宮廷第一師団聖フランチャスカ隊に所属していたの」

 それって…… 『めがふら』の設定をパクってるだけだと思うんだけど……


 正しくはファンタスティーナ王国じゃなくて、ファンタスティア王国だからな。

 俺の出身地をネタに使うのはやめて欲しい。


 では、もう一人の女子はなんて言うのかなと思い、視線を向けると——


「…………川崎貴子です」

 恥ずかしそうに、そう答えた。


 えっと…… 真名まなとか二つ名とかはあるのかなと思い、更に視線を送ると——


「…………東京出身です。趣味は特にありません……」

 これ以上、視線を向けるのはやめてあげよう。

 なんだか、とても悪いことをしているような気がしてきたんだ……


「クックッ、じゃあ、そういうことで——」

 おい、高柳。お前、ちょっと笑ってるじゃないか。

 後でちゃんと、川崎さんに謝れよ。


「——今度はそちらの『設定』…… いや、宿縁について説明してもらおうか」

 おい高柳。お前、今一瞬、『設定』って言わなかったか?


 でも、どうしよう。

 俺、真名まなとか二つ名なんて、考えてないぞ。


 仕方ない、ここは正直に前世の名前を言おう。

 きっとこれぐらいなら、俺が転生者だってことはバレないだろう。



「俺の名前は田中貫太で…… 前世の名前はカンタスだ」


「何よそれ。汝には『姓』がないの?」

 九条さんが不満そうに口をはさむ。


「俺、貴族じゃなかったから、『姓』はないんだよ」


「……なるほど、そうきたか」

 半笑いのまま、うなり声を上げるイケメン高柳。


「……案外やるわね」

 ちょっと悔しそうな様子の九条さん。


「……………………」

『ヤバい、やっぱりコイツもソッチ系だ』と言わんばかりの川崎さん。


 どうやら川崎さん以外には、概ね好評のようだ。



 なんだ、こういうファンタジーっぽい感じで話せばいいのか。

 なら、女神様の試練についても、ちょっとアレンジを加えて中二病風に打ち明けてみるか。


「俺、悪い魔女から呪いを受けて、1日16回女子と話さないと死ぬんだ」


 さて、どうだろう。どんな反応が返ってくるのかな? と思っていると——


「……お前の『設定』、オリジナリティがハンパないな」

 高柳よ。お前、今度は思いっきり『設定』って言い切ってるぞ?

 俺のオリジナリティがハンパなさ過ぎて、もはや訂正するつもりもないのか?


「アンタの『設定』…… チッ、汝が受けし呪いは、本当にスゴいわね」

 九条さんはちょっと高柳の影響を受けたみたいだけど、なんとか持ち直したみたいだ。

 でも、舌打ちはやめて欲しい。


「……………………」

 もちろん川崎さんは無言だ。

 なんなら、早く帰りたいとさえ思っているように見える。



「カンタス、汝のことはよくわかったわ。汝が望みし闇のミサについて、我はここに、その開催を許可することを宣言し——」


「薫子さん、ちょっと待って下さい!!!」

 ノリノリで闇のミサの開会を宣言しようとした九条さんに、川崎さんが待ったをかけた。


「私、高校では世間一般に認知されているような部活に入りたいんです!」


 ひょっとして、中学の時はとても人に言えないような部活に入らされてたのかな……

 九条さんや高柳とは親しそうだし、その可能性は十分あると思う。


「だから、ミサに出席する時間が、その……」

 尚も続ける川崎さん。


 そんな彼女に、

「なんだか私が、無理矢理あなたを誘っているみたいにおっしゃるのね……」

 と、鋭い眼光を向ける九条さん。


 どうやら九条さんって、普段はお嬢様っぽい話し方をするみたいだ。


 九条さんをなだめるように、高柳が二人の間に割って入る。

「まあまあ。今回は俺が貴子に声をかけたんだよ。そういうことなら、貴子はミサに参加しなくてもいいんじゃないか?」

 高柳は二人の間を取り持つような言葉を口にした。


「そ、そうだよ! 俺のせいで、川崎さんに精神的な負担を強いるなんて、とても出来ないよ!」

 俺も高柳に同調する。

 このままでは、川崎さんに一生恨まれることになりそうだ。


「精神的負担って何よ…… 貴子サンは時間的に負担だとおっしゃったのではなかったかしら。まあいいわ。好きにすればよろしいんじゃなくて」

 九条さんはエレガントに、川崎さんのミサ不参加を了承した。


 でも本心は、やっぱり一緒にいて欲しいんじゃないのかな。



 しかし当の川崎さんは、九条さんの気持ちを察する余裕など全くないようだ。

「純也クン、それから、そこの中二病の人、ありがとう! そ、それじゃあ私はこれで!」

 とびきりの笑顔を残し、川崎さんは全力でこの場から走り去った。


 どうでもいいけど、彼女の中で、俺は中二病確定なんだな。

 校内で会っても、変に気を使って『カンタス君、こんにちは!』とか言わないでくれよ?

 高柳と同じく、俺も嬉しくないからな?


 俺たちから、かなり、とても、すごく離れた場所でいったん立ち止まった川崎さんはこちらを振り返り、

「純也クーーーン! 中二病の人ぉぉぉ! 本当にありがとねーーー!!!」

 と、大きな声で再び俺たちに感謝の言葉を述べた後、全力疾走でその場から立ち去った。


 川崎さんは一刻も早く、この場から離れたかったんだな。

 心から闇のミサに参加したくなかったようだ。



 川崎さんを見送った後、高柳が『それじゃあ』と前置きした上で話を始めた。

「早速、闇のミサを始めたいところなんだけど…… 薫子、いや、サンクチュアリ・エインヘイリアルはこの後用事があるんだろ?」


「そうね……」

 悔しそうな顔をしながら、サンク…… なんだっけ?


 そのナントカこと九条さんが、

「残念だわ」

 と、うめくように声を発した。


「それじゃあ、次回のミサの予定はまた連絡するってことで。それでいいよな?」

 そう言って高柳は、九条さんと俺の顔を交互に見つめた。


 俺は『もちろん』と即答し、九条さんはしばらく悩んでから『仕方ないわね』と返答した。


 九条さんってば、よっぽど闇のミサを楽しみにしていてくれたんだな。

 なんだかちょっと申し訳ない気がしてきた。


 よし、次回開催の闇のミサにおいては、必ず九条さんに満足してもらえるようなネタをいっぱい用意しておくからな!

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