第7話 背後から迫る影
俺は女神様からもらったスキルについて考えながら、帰宅の途についている。
『スキル : 超初級火・水・風魔法 (新規獲得)』
前世の知識によると、確か超初級魔法は相当ショボい魔法だったと思う。
自分の指先から、ほんのちょっと、火や水や風を出せるだけだったはずだ。
水や風なんて、ほとんど使うことはないし、火にしたって指先に灯した炎を使って、周囲を明るくする程度だ。
日本には懐中電灯もあれば100円ライターもあるので、そんな魔法なんて必要ない。
とは言いつつ、前世の俺はこんな魔法でもカッコいいと思っていたのだが……
まあ、でもせっかくもらったんだから、ちょっと試してみるか。
詠唱はなんだっけ。たぶん日本語に直すなら——
「指先より出でよ、炎」
こんな感じかな。
「あ、本当に出た」
詠唱はこれでいいようだ。でもなんだか中二病っぽいな。
ステータスを確認するとMPが100から99に減少している。
なるほど。超初級魔法は1回使うとMPが1減少するのか。
でも…… こんな魔法を使うことなんてないだろうから、あんまり関係ないや。
消すのはどうするんだっけ、なんてことを考えていると——
「ちょっと、何よそれ! それって、『ファイヤーライト』じゃないの?」
と、背後から女性に声をかけられた。
ファイアーライトとは、『めがふら』に登場する魔法の名称なんだけど……
どうやらこの人も、『めがふら』を読んでいるようだ。
いや、今はそんなことどうどうもいい。
俺は周囲の様子も確認せず、火魔法を使ってしまったようだ。
今朝からどうも、俺は集中力を欠いている。
改めて、声をかけてきた人物を見ると、俺が通う高校の制服を着ていた。
カワイイと言うよりも、とても綺麗な顔をしている。
高野さんのぱっちりとした大きな瞳に対して、この人は切れ長の美しい目をしているな。
髪は長めで、とてもサラサラしていている。
あれ?
声をかけてきた女子生徒が、何やらボソボソひとりごとを喋っているんだけど——
「……わたくしとしたことが。……思わずつい。でもここはやはり……」
何やらひとりで葛藤しているご様子だ。
俺が注意して耳を傾けていると——
「チョット! アンタなにアタシの顔をジロジロ見てるのよ!」
しまった。自分でも気づかないうちに、むさ苦しい視線を送っていたようだ。
「いや、そんなつもりじゃないって言うか…… 急に声をかけられて驚いたんだよ」
もう何度目かわからないが、俺はまた苦しい言い訳の言葉を口にした。
「ああもう、ホント、イライラする!」
いや、そんなに不快になられても困るんだけど……
「まあいいわ。それで、アンタがさっき指先から出してた炎なんだけど、あれはいったいどういうこと?」
問いただすように、目の前の美女が俺に迫ってくる。
あ、そう言えば、いつのまにか炎が消えているじゃないか。
そうだ、炎を消すのに詠唱は必要なかったんだ。指を動かせば、勝手に消えるんだった。
「チョット! なに無視してんのよ!」
「いや、そういうつもりじゃなくて……」
ヤバイ、ここはなんとか誤魔化さねば。
「て、手品だよ! 俺の特技、手品なんだ! これでも俺、隣の国の雑技団のファンなんだ」
「……隣の国の雑技団は、手品なんて使わないと思うけど」
うっ、言われてみれば、確かにそうだ。
「まあいいでしょう。きっと近い将来、アンタはアタシと出逢う運命になってるから。その時に、またじっくり話を聞くことにするわ。じゃあ、今日はところは時間がないから、このぐらいにしておいてあげるわね」
そう言うと、その女性は踵を返し、俺の家とは反対の方向へと歩いて行ったのだが、しばらくすると、くるりと振り返り——
「念のために言っておくけど、次にアタシと出逢うまで、ここであった出来事は誰にも言ってはいけないから。約束を守れないなら、アンタとアンタの家族に不幸が訪れて、その…… 全身にブツブツが出来るんだからね!」
謎の女は謎の捨て台詞を吐いて、俺の元から去って行ったんだけど——
この人怖いよ……
ブツブツって何だよ……
でも、命には関わらないようで、ちょっと安心したよ……
今の女、いったい何者なんだ?
取りあえず、魔法はゴマカせたってことでいいんだよな?
しかし、俺はまったく何をやってるんだろう。
今後、魔法を使う時は、十分周囲の状況を確認してから使うことにしよう。
俺は自分にそう言い聞かせた。
それにしてもさっきの女の人、めちゃくちゃ勝気な性格だったな。
前世の俺の幼なじみにそっくりだよ。
だいたい、アイツは俺のことをいつも子ども扱いして…… って、ダメだ。
前世のことばかり考えていると、今日みたいにまたヘマをやらかすぞ。
とにかく今は、窒息死しない方法を全力で考えねばならない。
まったく、女神様は余計なことしてくれたよ……
♢♢♢♢♢♢
家に帰って——
俺は一人冷静に、今後の方針について頭を巡らせた。
まずはHPの増やし方について。
別名、女の子とどうやって話をすればいいかについて。
1日8回ぐらいなら、まだ挨拶なんかで、なんとかなると思っていた。
でも16回ともなると、流石に難しい。
方法は2つ。
作戦1、仲のいい女の子とたくさん話す。
作戦2、広く薄く、いろんな女子と喋って会話数を稼ぐ。
作戦1で行ければ、それに越したことはない。
もちろんターゲットは今日仲良くなった陸上部の高野さんだ。
でも、今日たくさん話せたのは、教室にいたのが俺と高野さんの二人だけだったからだと思うんだよね。
高野さんって人気者だろうから、作戦1頼みでは危ういかも知れない。
だから、作戦2も同時に行った方がいいだろう。
でも俺、人見知りなんだよな。初対面の女子に俺から声をかけるなんて、とてもハードルが高いぞ。
ハァー…… でも、頑張るしかないな。
あとは…… 今日帰り道で会った、あの人だけど……
どこのクラスの人かもわからないし、まして先輩かも知れないからな。
あの人のことは、あまり数に入れない方がいいだろう。
何より全身ブツブツになんて、されたくないからな。
まあ、きっとあれは
『また出逢う運命にある』とか言ってたけど、むしろ次に会ったとしても、注意して接する必要があるな。
それにしても…… 女神様ってば、いきなりレベルアップだなんてヒドイよ。
いったい、どの程度HPが増えるとレベルが上がるんだか。
それって、あまりにもたくさん女子と会話しすぎると、またレベルが上がる危険があるってことだろ?
まあ、今はそんなことを考えるより、まずは確実に1日に16回女子と話すことを目標に頑張ろう。
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