カメラ越しの君と私の進む道

雨月時雨

思い出を辿りながら

 私の荷物を積んだ引っ越し屋のトラックが走り去っていくのを見送ると、私は玄関のドアの鍵を閉めてから息を吸い込んだ。

 肺の中に空気が通るのを感じていると、フワリと雨が降り始めそうな匂いがした。

 私は玄関を出た隅によけていた持ち手の太い青色の傘をそっと握ると、家だった場所の敷地を出て後ろを振り返った。

 そこには時が止まったように感じる小さな家が眠りにつこうとしていた。

「お世話になりました」

 私はそう呟くと、肩から下げていたカバンの中からフイルム式のカメラを取り出すと、三年住んだ家を写真に収めようとカメラを構えた。

 ピントも合わせることもないが、なんとなく小さな小窓からレンズを通して玄関を見ると、あの日のように彼が、

『行ってきます』

 と玄関の外から出ていく姿が見えた。

 あの日は彼の背中を見ていたのに、レンズを通してみた彼は笑顔だった。

 そんな姿を見た私は思わず涙を流してしまいそうになったが、慌てて袖で目元を拭う。

 私は彼に倣うように、

「行ってきます」

 と言って、傘の柄を握って歩き出した。




 道を南の方角へ歩いて行くと、水の流れる音と遠くから鳥の声が聞こえ始めた。

 私は、音のする方を振り向くと、公園の入り口に置かれている噴水が弱いながらに水飛沫を上げたいた。

 雨の降りそうな雲の下でも水を力の限り水を押し上げ、循環させている。

 私はカメラをそっと噴水に向けて構えると、小窓を覗き込んでハッと息を呑んだ。

 今まで弱々しく水飛沫を上げていた噴水が、比べようもないくらいたくさんの水を吹き上げている。

 そんな噴水を写真に撮ろうとシャッターを切ると、レンズの向こうに彼の姿が見えた。

 彼は私のことを見て微笑んでいる。

 私がカメラを胸の位置まで下げて、噴水を何も通さずに見ると、噴水は力強かったのが嘘と思えるくらい弱々しくなっていた。

 辺りには誰もおらず、鳥の声も聞こえない。

 だけど、雨の匂いを連れてくる風がそっと目元を拭った。

 私は慌てて目元を拭うと公園の入り口を出て、駅までの道を歩き出した。

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カメラ越しの君と私の進む道 雨月時雨 @kuroamemiya

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