第10話
那奈はとてつもないスピードの右足の前蹴りを放った。
「おっと! 危ない危ない……」
(クソッ!!)
だが、そのスピードに体がついていけず、那奈はバランスを崩し、転倒した。
(まずい!! 狙われる!!)
「死ね」
そして、スコープから覗かれ、動けなくなり、直後、弾丸が頭めがけて解き放たれた。
「那奈!!」
それでも東矢の剣が伸び弾丸を弾き飛ばした事によって、九死に一生を得る。
「東矢、ありがとう!!」
すぐさま立ち上がり、今度は花巻の胴体めがけて左右のジャブを放つ。
「ぐっ!? な……んだ、この威力!」
ジャブではあるが思いの外、効いている。
あのオルノ十一号に大ダメージを与えたのだ。
超人相手でもおかしくないかもしれない。
それに加えて。
「上に居る……コイツは……?」
どうやら那奈の能力で幻覚が見えているようだ。
「東矢!! いくよ!!」
「ああ!!」
那奈は再びストレートパンチを。
東矢は剣を伸ばしつつ、花巻の銃を手に持っているのを含め三つ操り、銃口を花巻に向け、発砲。
「あがあぁぁあ!」
幻覚は見えている筈、なのに花巻は後ろに飛び下がり、弾丸を一つ左脇腹に食らっただけだった。
そして、花巻はすぐに替えの銃を懐から取り出し、銃口をこちらに向ける。
(まずい!)
那奈は花巻が飛び下がった瞬間から、花巻目指して駆けていた。
狙われるのは間違いない。
だが、今は避けられる体勢ではない。
そして、やはり花巻はスコープからこちらを覗いてきた。
一瞬だけではあるが、体が固まる。
「よくも汚い幻覚を……小娘、まずはお前からだ」
よほど幻覚が辛かったのか、那奈への殺意がすまじく高まり、おそらく最大装填数は十二発のこの銃の内、六発を華麗に放ってみせた。
とはいえ覗けるのは一人だけの筈、東矢が銃弾を剣で弾く。
それも六発全弾。
「クソガキ……!」
どうやら東矢への殺意も高まったらしい。
一瞬が長く感じたが動けるようになった那奈は。
「はあっ!!」
右足で花巻の左脇腹を狙いミドルキック。
「ぐっ……あがぁぁ!」
花巻は右にぶっ飛び、部屋の壁に激突する。
筈だった。
花巻はくるりと体を縦に回転し、左腕と左手の爪で、なんとかひっかくような形で、カーペットに痕は残ったものの、やがて止まる。
そして、幻覚のせいか、手が震えながらも、左手でも銃を構える。
「那奈! いいぞ!!」
東矢は褒めてくれながら、伸縮自在の剣と三丁の空中に浮いた銃で攻撃しようとする。
「そっちのガキの方がまずいみたい……だね」
花巻は野放しにする筈はなく、東矢をスコープで覗いた。
それでもこちらは二人。
那奈は駆け、花巻の元へ向かう。
「ぐっ!! はあ……うぐ……!!」
全力で走った。
だけど、花巻の攻撃を止めるには間に合わず、東矢は花巻の右手に持つ銃で胴体目掛け放たれた三発の銃弾を食らい、血を吐き出す。
「やめろぉ!!」
更に東矢へと攻撃しようとする花巻を止めるべく、駆ける。
「チッ! あっちこっちに駆け回って、ウザいんだよ!」
今度は狙いを那奈に変え、那奈は動けなくなる。
まずい。
さっきまでスコープに映らないよう動けていたのに……今はそれが出来ていない。
そのせいだ。
「ごっ……あがぁぁあ!!」
右足に一発、腹部に二発食らい、血反吐を吐き出す。
(でも……殺さないと……!!)
一度は止まった。
それでも再び駆け、花巻の元へと向かう。
「しつこい奴……! あ?」
幻覚が見えていてすぐに気づかなかった。
そう思うのが正しいのだろう。
花巻の右手は東矢により、三つの弾丸で穴を開け、剣で切り落とされていた。
「ひっ! ひぎいぃぃいい!!」
それでようやく死がそこまで迫っている恐怖感を持ち、痛みに悶える姿が見てとれた。
そして、隙だらけ。
どこからでも攻撃できる状態だったので、選んだのは頭部へのハイキック。
「はっ!」
撃たれたのとは逆の左足で、頭を削ぎ落とそうと異常なスピードでハイキックを放った。
「ひいっ……ぶばっ!!」
しかし、花巻は両腕でなんとかガードし、頭は削ぎ落とされずにすんだ。
とはいえ壁に激突し、その壁は大穴が空き、彼は落ちた。
と、思ったが、銃を捨て、部屋の床を左手で掴んでおり、なんとか完全に落ちずにはすんでいた。
だが、とても残っている体力では上がれない状態に見える。
「クソガキども!! 助けてくれ!!」
誰が助けるか。
と、言いそうになったが。
彼には聞きたいことがあった。
もっとも、それは彼自信が言うつもりは元々無かったようだが、この状況では話してくれるかもしれない。
「…………一つ聞く。何でお父さんとお母さん。そして、東矢の両親も殺したの?」
すると花巻は首を横にぶんぶんと振り、言葉を紡いだ。
「言えない……というか、あのバカどももしょせん僕には敵わなかった。ま、仕事とクソガキの育児に大変そうだったから救われたんだよ! さあ、とっとと助け──」
その時、この状況でそんな事を言えるのかと、もはや呆れつつ、花巻の左手を踏み潰した。
そのまま彼は落下。
超人になったお陰でよく見えた。
超人でもこの百階から落ちれば人は死ぬ事に。
……これで復讐は完了した。
爽快感と言うべきなのか、あるいは解放されたと言うべきなのか……まあ、言葉では伝えづらいが、そんな感情が頭の中で渦巻いた。
と、余韻浸っていたいところだが、誰かがやって来た。
まずい。
このボロボロの状態では逃げるにも逃げられない。
しかし、やって来た者の姿を見て安心した。
「千早伯母さん!?」
「え? お、伯母さん?」
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