第8話

 東矢を担ぎ、薬を持ち、言う通りに進み、やって来た場所は地下室の扉が地面にある場所だった。

「マイノ……ここは?」

 地下室の存在が気になってマイノに恐る恐る、地下室について聞く。

 というかここでやり過ごせるのだろうか?

『ここは“あたし達みたいなのが”警察から逃げる時に使う場所よ。よかった……この森にもあって。あ、今ここでやり過ごせるかって思ったでしょ? それは大丈夫』

「……本当?」

『本当』

 “あたし達みたいなのが”という言葉が引っかかってしまうが、まあいい。

 早く入らねば。

 ドアを開けて下へと続く階段を下っていく。

 すると。

「ん?」

 ゴゴゴという音と共に、後ろにあったドアが無くなっていた。

「は……ちょ、ちょっと! どういうこと!?」

 戸惑う那奈。

 そこにマイノの声が響く。

『那奈、安心して。そのドアは木に変形したの』

「はあ!? 意味分かんないだけど!?」

 この人は何を言っているのだろうか?

 ドアは木に変形しないものだ。

 緊急事態で頭がおかしくなったのかもしれない。

『落ち着いて……あのドア……いや、ここの地下室と言った方がいいわね。実は全部の物が違う物に変形、あるいは生物に擬態するの。名は“ミミクルルーム”。地下にも地上にも、敵から逃げるために多く作られているわ』

「……本当?」

『本当』

 どうやら、そういう事らしい。

 信じられないが、今のテクノロジーでは実現できる気がする。

 そこまで人類の技術は進歩している。

 だが、こんなタイプの物が作られているとは知らなかった。

 いや、知らなくて当然なんだろう。

『さっきのドア、今は地上からは木にしか見えないけど、那奈がまた近づけばドアへと変わるように、こっちから遠隔で指示しているわ。さ、早く進んで』

「……分かった」

 東矢の事もある。

 早く進もう。

 止まっていた足を進ませる。

 階段を降りきると一つの部屋にたどり着いた。

 部屋は灰色の壁に覆われており、真ん中に手術台、右側に普通サイズの天蓋付きベッド、左側に食料や水が置かれた棚、奥にエレベーター……いや、なんでエレベーターがここにある?

 しかし、それよりも東矢の事を優先せねば。

 ここは幸い手術台がある……いや、なんで手術台がある?

『ここに手術台がある理由知りたい?』

 マイノがこちらの考えでも見えているのか、ちょうどいい事をなげかける。

 でも、ここは。

「いい……なんか知りたくない」

 ということにしといた。

 まあ、とりあえず東矢を手術台の上に乗せ、上半身の囚人服を脱がせる。

 異性の体を見るのは恥ずかしい気持ちがあったが、脱がせるとそんな気持ちは飛んでいった。

 なぜなら、右脇腹に思わず目をそらしたくなる程の傷があったからだ。

(ううっ……血だらけ……でも!)

「マイノ、ここに薬を塗ればいいのよね?」

『そう。東矢くんの傷を治すにはちょうど使い切るぐらいの量が必要な筈よ。大丈夫、これは誰でも出来るから』

「ありがとう、教えてくれて」

 すぐに薬の蓋を開け、薬を手術台の空いているスペースに置き、薬を手に付け、傷に塗っていく。

 すると傷が少しずつ治っていく。

 しかし、普通の塗り薬と違い、直ぐに乾燥してしまう。

 次へ、次へと薬を手に付け足し、東矢の傷に塗っていく。



 そして、塗り始めて十分ぐらい経っただろうか、薬は全て無くなり、東矢の傷は完治した。

「ふぅ……」

 那奈は安堵のため息をつく。

 すると。

「…………な、那奈……?」

「東矢!?」

 東矢が目を覚ました。

『……どうやら、成功したみたいね。もう、大丈夫よ』

 ずっと励ましの言葉をスマホ越しに掛けてくれたマイノも安心したようだ。

「ここは一体……? それに何で……俺は手術台に……?」

「そ、それは……」

 なんだか説明しずらかった。

 どう言えばいいのだろうか?

 この地下室について。

 と、なんとか言葉をひねり出して言おうとした瞬間、手術台に二つの鍵とカードが出現した。

「わあ!?」

「ん……? なんだそれ……?」

 驚く那奈。

 疑問を抱く、東矢。

 するとマイノの声が響き渡った。

『それはあなた達の首に付いているリングを解除するための鍵と、花巻真に会うために必要なカードよ』

「花巻……真」

 東矢がボソッと声を出した。

 そう、花巻真は東矢の両親を殺して、東矢を地下送りにした人物だと聞いている。

『後、これも』

 と、次の瞬間、赤のTシャツと青の長ズボン、赤のスニーカーがベットに出現した。

『それ、東矢くんの着替えよ……。もう話さなくても分かると思うけどあたしは瞬間物体移動装置、“ワープ”で物を送っている。ワープは聞いたことあるでしょ?』

「まあ、一応」

「俺もです」

 ワープとは一部の人間しか持てないという超高価なアイテム。

 今の日本に住むものなら誰でも聞いたことがあるだろう。

 まあ、実を言うとそんなわけないと思い、可能性から排除していたが、ワープを使っているのだと思ってはいた。

『そして、できれば二人にこんな事を任せたないのだけれど……』

「マイノ、どうしたの?」

 マイノが黙りこむ。

 よほど言いにくい事らしい。

 しかし、マイノは声を出した。

『花巻真は那奈の両親も殺している。そして、私はあなた達に花巻真を殺してほしいの』

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