第5話
いや、それよりも逃げる事に集中せねば。
幸い、追ってくる警察の足音は聞こえない。
さっきの『クラフトウォール』と、この暗闇の森がこちらにいい流れを呼び寄せているのだろう。
あ、でも逃げながらだが。
「……もしかして、脱獄したの……?」
那奈は東矢に問いかける。
「はい……まあ、そういうことになります。で、でも刑務所で二ヶ月間耐えたんですよ!」
「二ヶ月間……」
なんとも言えない期間で戸惑う。
いや、刑務所で二ヶ月は相当な時間だろう。
なんだか……悪いことをしてしまった気分になる。
だが、聞く事が出来た。
「じゃあ、君の……その……ご両親は二ヶ月前に殺されたの?」
「まあ……それで間違いないと思います」
『ええ、東矢君のご両親が殺されたのは二ヶ月前で間違いないわよ』
マイノも東矢に続き、答えた。
「二ヶ月前……」
十才の頃を思い出す。
まだ、両親を誰かに殺されて二ヶ月しか経っていない内は精神状態がおかしかった。
突然、怒ったり。
突然、泣いたり。
それが当たり前なのだろうけど。
しかし、東矢の顔に精神の大きな乱れは感じられない。
強い子だ。
「俺は……なんで父さんと母さんが殺されたのか知りたい。そして、アイツに絶対に復讐します」
復讐。
この子もそうなるのか。
己と同じ考えに。
『下向いて走っちゃダメよ。那奈』
マイノが注意する。
気付いていた頃にはうつむいていた。
危ない、危ない。
お陰で木にぶつかるところだった。
「……マイノ、ありがとう……ってなんで私の名前知ってるの!?」
少し間をおいて驚く那奈。
それもそう。
今や名前も立派な個人情報なのだから。
『それは東矢君と同じで調べたのよ。だとすれば名前くらい知ってもおかしくないでしょ? ねぇ、舞鶴那奈さん?』
「いい名ですね」
東矢がすかさずフォローに入った。
いや、全然フォローになっている気がしない。
もういい。
「あー、もうホントひどい人。あと君は私の事、呼び捨てでいいから」
東矢とは年も同じくらいのようだし。
「分かったよ、那奈」
……なんだか、恥ずかしい。
言われて気付いたが、同年代の男の子に呼び捨てされるのは初めてだ。
急に頬が赤くなってきた。
「……那奈、大丈夫?」
「大丈夫よ……それよりもマイノ。どこに逃げればいいの?」
『あなた達をサポートするわ』とか言っておきながら、サポートされた覚えはない。
あると考えるならば東矢の事を知れた事だ。
だが──東矢には悪いが──そんな事よりも逃げ道が聞きたい。
ここの森林エリアは広く、入ると中々抜け出せない。
よくここで遊んで迷子になる子が出る。
今、迷子になれば終わりだ。
せめて逃げる方角だけでも教えてほしい。
『ああ、ごめんなさい。つい、あたしの仕事を忘れてしまっていたわ……。! まずい!!』
「……? どうしたんですか、マイノさん?」
東矢が訊ねたその時──。
『ターゲットを確認しました。これより排除します』
空からどしんという地響きと共に低い機械音声を話す大型戦闘ロボットが現れた。
ボディの色はミント色で右腕は細く、剣を持ち、左腕は太くミニガンになっている。
足は両方共に太く、空を飛ぶためのプロペラがチェンジする仕組みだ。
その名は『オルノ十一号』。
地下警察にとって欠かせないロボットである。
「マイノ!! サポートするんじゃなかったの!?」
これにはスマホ目掛けて怒る那奈。
『ごめんなさい……ソイツはあたしが持っているレーダーには引っ掛からないの……うかつだったわ』
反省しているよう。
しかし、ピンチは立て続けにやって来る。
「居たぞ!! おのれ……クソガキと小娘が!! やれ、オルノ十一号!!」
先程まで追って来ていた地下警察三人組がオルノ十一号の出現で気付いたのか、左横の林から出てきた。
そして、オルノ十一号はミニガンをこちらに向けた。
「待って……待って、待って! マイノ!! どうすればいいのよこの状況!!」
焦る那奈。
東矢も同様のようで冷や汗が止まらなくなっていた。
『……ッ! 本当にごめんなさい。でも、仕方ない! そっちに開花水と武器を送るから、倒して!』
「はあ!? 開花水って、あの!?」
『そうよ! じゃあ飲んで!』
すると目の前に開花水が入った小さなボトルと武器に変わるボックス二つが現れた。
どういう仕組みかは知らないが。
しかし、これが本当にあの、適性のある者が飲んだ場合、能力が開花し、超人的な身体能力を手にするというものである開花水なら。
二人は小さなボトルを開け開花水を飲み干した。
しかし、その瞬間。
『発射』
オルノ十一号がミニガンを発射した。
──だが、その弾はあまりにも遅く見えた。
(ど、どういうこと……? ! まさかこれ本当に開花水!? それも私に適性があった!?)
そういうことらしい。
というわけで直ぐに左横へと飛び下がり回避した。
そして、東矢も同じく左横に飛び下がっていた。
「那奈……これって……」
『ふぅ……なんとか二人共、適性が合ったみたいね』
どうやって超レアな開花水をマイノが持っていて、ここに転送出来たのかは分からない。
だが、那奈と東矢は目覚めた事が確かだ。
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