エピローグ「黄金色の約束」

 あれから、数年の月日が流れた。


 私がもたらした農学技術は、ユリウス殿下の尽力もあって王国全土に広まり、国はあの未曾有の飢饉から完全に立ち直っていた。土壌改良、輪作、堆肥作りは今や王国の農業の常識となっている。


 そして私たちのヴァインベルク領は、「黄金の穀倉地帯」と呼ばれる王国で最も豊かな土地になっていた。多くの人々が移り住み、村は町へ、町は大きな都市へと発展を遂げている。


 そんなうららかな春の日。私は領民たちに祝福されながら、カイとささやかな結婚式を挙げた。


 豪華なドレスではなく、白い麻のワンピース。きらびやかな宝石ではなく、私が育てた花で作った花冠。でも、これが私たちらしいと思った。


 式を終えた私たちは、二人きりでどこまでも広がる黄金色の小麦畑を歩いていた。手と手を取り合って。


「カイ、見て。今年も豊かな実りだわ。本当に、きれい」


「ああ。……だが、お前の方がもっときれいだ」


 ぶっきらぼうだが、心の底からの言葉だった。彼のそんなところが、私は大好きだった。私は彼の腕にそっと寄り添う。


 私のお腹には、新しい命が宿っていた。この土地で育まれていく、カイと私の愛の結晶だ。


「この子にも、この景色を見せてあげたいわね」


「ああ。見せてやろう。お前とこの大地が、俺の宝だと。そして、これからはこの子も俺の宝だ」


 カイはそう言うと、私の膨らみかけたお腹に優しくそっと触れた。


 彼の大きな手が、温かい。


 見上げれば空はどこまでも青く澄み渡り、黄金色の小麦畑が風に歌っている。


 追放されて始まった私のセカンドライフ。それは、私が夢見た以上の幸せと喜びに満ちていた。


 私たちの笑顔を、豊かな大地と優しい太陽がいつまでも、どこまでも照らしてくれていた。

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追放悪役令嬢(中身は農学研究者)の辺境スローライフ。痩せた土地を世界一の穀倉地帯に変えたら、私を捨てた国が助けを求めてきました。 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

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