召喚獣はじめませんか?
ももぱぱ
第1話 召喚獣はじめませんか?
「おい遊真、止めとけよ。危ないって」
親友の
学校からの帰り道、その子猫を見つけたのは偶然だった。昨晩からの大雨で増水した川の中に、一人取り残されか細い声で鳴いていた子猫。川のすぐ横にあった木が水につかってしまい、辛うじて水面から出ている枝にしがみついていたのだ。
僕は持っていた傘を隣にいた宗佑に手渡し、川岸を落ちるようにかけ降りていく。そして、ベルトを外し、近くの木に巻き付けた。その先端をしっかり握りながら、身を乗り出して子猫を助けようとしたのだが……
手を伸ばした僕が怖かったのか、はたまた体力の限界だったのか、もう少しで届くというところで、子猫が枝から落ちてしまった。僕は咄嗟にベルトを手放し、地面を蹴って子猫を片手で受け止める。
「遊真!」
後ろで宗佑叫ぶのが聞こえた。その声を頼りに、振り向きざまに宗佑に向かって子猫を放り投げた。
ドボン!
僕の身体はそのまま川に転落した。
(川の流れが速くて身動きが取れない! く、苦しい……)
勢いを増した川の流れに身動きが取れず、さらには流木なんかが身体に当たりその度に力が抜けていく。泳ぎには自信はあったのに、自然の力の前では全く無力だった。
(ああ、ここで死ぬのか……父さん、母さん、ごめんなさい。あの子猫、助かってるといいな……)
最後に心の中で両親に謝って、僕は意識を手放した。
▽▽▽
「今日はあなたをスカウトしに来ました! 私が作った世界で召喚獣になってみませんか?」
(だとすれば、この状況はいったい……)
今僕の目の前には、きれいなドレスを身に纏った怪しげな女性がいる。見た目はすごくきれいだけど、それがかえって警戒心を高める結果となっている。
(高校でも地味で目立たない僕が、こんな美人な外国人に日本語で話しかけれらるなんて、もしかして夢でも見ているのだろうか?)
「聞いてますか? それとも召喚獣に興味はないですか?」
夢にしてはすごくリアルだな。女性の息づかいまで感じられる。よし、とりあえずこの人の話に付き合ってみることにしよう。夢なら途中で覚めるだろうし。
しかし、いきなり召喚獣始めませんかと言われても答えようがないな。もう少し、詳しい状況を教えてもらいたい。
「えーと、ここはどこで、あなたはどなたでしょう?」
「ああ、そういえば説明していませんでしたね。私の名前はミスティル。地球とは別の世界の女神です。残念ですが、あなたは地球で一度死んじゃいました。そこでこの私がスカウトに来たわけです」
この女の人は大層怪しいが、はっきり言われたことで思い出した。僕は子猫を助けようとして川に落ちたんだった。
そうか、やっぱり僕は死んでしまったのか。仕方ないとはいえ、両親には悪いことしたな……
「えーと、聞いてますか? 死んでしまって悲しいのはわかりますが、私の世界で召喚獣として第二の人生を送ってみませんか? あ、人生と言っても人にはなれませんけどね」
召喚獣? 第二の人生? それよりも僕が助けたかった子猫は無事だったのかな?
「それより、あの子猫は無事でしたか?」
「へぇ、自分のことよりあの猫の方が心配なんだ。今時珍しいくらい自己犠牲の精神なのね。それであの気まぐれで有名なバステトが、珍しく加護を与えてるのね。あ、あの猫はあなたのお友達が無事に受け止めて助かったわよ」
そうか、無事だったか。よかった。命を懸けたかいがあったというものだ。さて、心配事がなくなったところでこの状況について考えてみよう。
目の前の女性は、自分のことを異世界の女神だと言っている。つまり、これが夢じゃなければ僕は異世界転生しないかと誘われているわけだ。しかし、それは人間としてではなく召喚獣としてだ。
つまり、この女神が創った世界には召喚獣が存在するということか。もしかして、魔法なんかもあるんじゃないのか?
「えーと、あなたの世界についてもう少し詳しく教えていただけないでしょうか?」
「おっ! ようやくその気になってきたわね! いいわ、ちゃんと教えてあげるからしっかり聞くのよ!」
この女神によると、転生先は『アドラステア』といい、僕の予想通り剣と魔法が存在するファンタジーの世界のようだ。そこに住む人々は、生命を脅かす魔物に対抗するために、召喚獣を呼び出して戦わせているというのだ。
また、召喚獣は普段、アドラステアとは別の
暮らしているといっても、召喚獣は大気中に魔素さえあれば食事を取らなくても大丈夫だし、排泄なんかもしないらしい。随分便利な身体だけど、食事ができないのはつらいかも……
アドラステアで召喚魔法が使われると、
召喚獣がアドラステアに召喚された場合、殺される(実際は傷口から魔素が流れ出し身体を保てなくなる)か、100日経つと
召喚した者は、一度召喚魔法を唱えると次に使えるようになるのは100日後だから、冒険者なんかはなるべく強い召喚獣が出ることを期待しているとな。そりゃそうだろう。
つまりだ。普段は
と思ったら、戦闘目的じゃない召喚もあるらしい。それこそ、ペットとしてや農作業の手伝いで召喚される何てこともあるみたいだ。
なんだか実感はわかないけど面白そうだな。酷い召喚主に当たっても、最悪100日我慢すれば
「話はわかりました。こんな取り柄のない僕を選んでくれてありがとうございます。ぜひ、召喚獣として雇ってください」
最初はおかしな話だと思ったけど、一度死んだ僕にチャンスを与えてくれるというのだ。こんなにありがたい話はない。しっかりとお礼を言って、召喚獣にしてほしいとお願いする。
「うんうん! あんたなかなか礼儀正しいじゃない! 大抵は『召喚獣じゃなくて人にしろ!』とか『頭がお花畑なんじゃないか?』なんて言ってくるのに、初めてだわ、あんたみたいな人間は。よし、私もあんたに何か一つ加護を与えてあげるわね!」
「あ、ありがとうございます。そういえば、その加護というのは何なのですか?」
最初にバステトの加護って言ってた気がする。加護だから悪いものではなさそうだけど、気になったので聞いてみた。
「加護はね、最初から貰える特典みたいなものね! バステトの加護は私の管轄外だから何かわからないし、私の加護は現地で確かめてみてね!」
「わかりました。重ね重ねありがとうございます」
どうやら、僕は最初から特典を二つも貰えるようだ。慣れない異世界だろうから、少しでも生き残るのに有利になるなら、これほどありがたいことはない。
「それじゃあ、
「えっ? なに? 最後に何か言いましたかぁぁぁ?」
最後にものすごく不穏なことを言っていた気がするが、よく聞こえないまま僕は光に包まれて、再び意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます