星の雫、砂の王

雨水卯月

プロローグ

砂の海 星座の瞬き 眠る夜

風が歌うは 遠き砂漠の果て 遥かなるアルカトラよ


灼熱の太陽が、果てしない砂の海を容赦なく照らしている。風が吹くたび、砂嵐が立ち、旅人たちの姿を瞬く間にかき消す。


その砂漠の真ん中を、三人の影が歩いていた。先頭の男が、後ろのふたりを無言で急かす。

足枷と鎖に繋がれたふたりの奴隷。その一人、少女・みのりは、焼けた鉄の重みと、砂で擦れた皮膚の痛みに耐えながら、一歩ずつ足を引きずっていた。


どれだけ歩いたのだろうか。


ぼんやりとした地平線の先に、ぼやけた街の影が浮かび上がる。

奴隷商の男が指を差す。「あそこが目的地だ」と言いたげな仕草。


――もう少しだ、がんばれ。


声に出さずとも、そう言っているように感じた。

この男には、言葉にできないほどの恨みがある。


けれど、あのとき――砂漠で行き倒れた自分を拾い、旅装束まで与えてくれた。

旅の途中も、みのりの足並みに合わせ、歩調を緩めてくれていたのは事実だった。

どこかで、それが悔しかった。


みのりは、静かにうなずいた。


希望などなかった。


街にたどり着いても、助けを求めようとは思わなかった。


機械のように足を前へ出す。意志ではなく、習慣のように。

隣には、もう一人の奴隷。


その姿は――獣だった。


もし彼が人の姿をしていたなら、少しは希望を持てたかもしれない。


だがここは、地球ではない。


みのりの知る世界とは、どこまでも違っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る