短編 我が家の床を走り回る虫を殺していたら異世界に転移した件(虫殺転移)

霞千人(かすみ せんと)

第1話 老人の武器はステッキ

今日も今日とて我が家の板葺きの床の上をゲジゲジがササササ走り回っている。寝ているときに顔にでも上ってきて口にでも入ったら嫌だなと、見つけ次第愛用のステッキで潰して殺していた。

すると脳みそに直接女性の声で話しかけられた。

『魔虫ゲジランテを累計50匹討伐したので異世界トーゲンターへの転移条件を満たすことが出来ました。転移すると現在闘病中の病気などから解放されて健康な肉体を得られます。ただし年齢はそのままです。転移して移住しますか?』

「お金無いんだけれど用意してくれるのかな?」

『はい、支度金とお金に困らない特殊能力を付与致します』


老い先短い命だ。健康な身体になれるなら行ってみようかなと決心して答えた。

「判った。行くよ。確認だけど、こっちには戻れないのかな?」

『はい。向こうで一生を終えて頂きます。あ、それから向こうの世界で不明な点がありましたら私をお呼び下さい。私は【ガイドーラ】と申します』


一生というからせいぜい後20年位なものだろうと考えたのだが、違った!それに気付くのはもっと後のことだ。


ともかく俺は承知した。「了解、では転移させてさせてくれ」

次の瞬間目の前が真っ暗になって船酔いのような気分になった。

(あれ?魔虫ゲジランテってあのゲジゲジの事かな?また大層な名前を付けたもんだな)

と、下らないことを考えていると俺はうつ伏せ状態でふわふわと落下していることに気が付いた。


「キャー誰か助けてー!」

見ると女の子が巨大なゲジゲジに追いかけられている。

俺はいつもの調子でステッキでそのゲジゲジを潰していた。

その瞬間

『レベルが999に到達しました。99のスキルを獲得しました。必要な時に自動で発動します』

ガイドーラの声が聞こえた。

「もう異世界に来たのかい?」

『はいマスター。少しだけ容姿を変えておきましたが確認しますか?』

「うん頼むよ」

すると目の前に大きな姿見鏡が出現した。そこには白髪オールバック、胸まで伸びた白髭の老人が映っていた。もしも生まれ変わったらこうありたいと願っていた姿そのものだった。いわゆる仙人をイメージした容姿だ。禿げでデブでチビだった俺が劇的に変わっていた。身長185㎝体重85㎏になっていた。年齢は80歳のままだったが60歳代に見える。背中も腰もピンと伸びている。勝手に自分を鑑定して満足していた。


 少し離れた所に女の子が倒れている。その側に巨大なゲジゲジが潰されて死んでいる。さっき俺が殺したゲジゲジだと直感した。

『あっちの世界では小さな虫でもこちらではこの様なモンスターになります。この死骸はハンターギルドで高価で売れますので亜空間倉庫に収納します。それから、倒れている少女は怪我をしているので起こして【ヒール】を掛けてあげてください。そのあとは街まで送り届けて、ハンターギルドに行って登録して【魔虫ゲジランテ】を売却して町はずれの空き地を購入して亜空間倉庫に収納してある自宅を設置してください。そこがこれからのマスターの拠点になります』


ガイドーラの言う通りに少女を揺り起こして怪我を治してあげる。

「あのうおじいさまがあたしを助けて下さったのですよね、とんでもない大きさの武器で【魔虫ゲジランテ】を討伐して、その上怪我迄治して下さったのですね!本当に本当にありがとうございます。あたしはラミィーって言います。15歳です。先日ハンターになったばかりです。おじいさまは大賢者様ですか?お名前を教えていただけませんか?」

ラミィーと言う少女の勢いに戸惑いながら俺は答える。

わしはモーリンと言うただの旅の老人だよ。もう80歳になるがのう」

俺と言ったつもりだが勝手にこの世界の老人の言い方になっている。まあ俺でもわしでもいいか。細かいことは気にしない。

それよりも名前は森山勇次郎だったのに自分の口が勝手にモーリンと言っていた。まあいいか。


今は街に向かっている。さっきまでいた場所はダンジョンの中だったようだ。

道々ラミィーがあそこで【魔虫ゲジランテ】に襲われていたいきさつを聞いていた。


「実は、あたしはパーティー人員を募集していた【赤き刃】と言うパーティーに加入したばかりでした。まさか初心者用のダジョンの2階にあんな恐ろしいモンスターが居るなんて思いもよりませんでした。で、そのパーティーのリーダーが恐怖で我を忘れて剣を目くらめっぽうに振り回したのがあたしの腕に当たって血が流れたら、あのモンスターがあたしを餌認定して、あたしばかりを追いかけまわすので、その隙にパーティーは全員逃げ去ってしまったのです」

そのパーティーに怪我をさせられた上に囮にさせられたのだ。酷い話だ。


そうこうしている間にハンターギルドに着いた。


「あっ、あいつらだ!」

ラミィーが叫んだ。みるといかにも悪ガキの集まりのようなパーティーだ。何でラミィーみたいな可愛い子がこんなガラの悪そうなパーティ-に入る気になったものだ。最近の女の子の気持ちって良く判らん。

「あらラミィーちゃん無事だったのね良かった」

受付嬢のお姉さんが叫んだ。すると【赤き刃】の連中の顔色が変わった。

「やべっ」と呟いたのを聞き逃さない。それは受付嬢も同じだった。

「あなたたちラミィーちゃんが【魔虫ゲジランテ】に食べられてしまったと報告したわよね。これは一体どういう事⁉はっきり説明なさい‼」

【赤き刃】にとっては修羅場になりそうだ。


続く。





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