side:ガルド 狂う歯車 01


※ガルド視点


 チッ、どうしてこうも歯車が狂っちまうんだ。


 あの日、レオンとかいう荷物持ちのガキを追放してから、俺たち『暁の剣』の調子は明らかに下降線を辿っていた。


 最初は気のせいだと思っていた。


 いや、認めたくなかった。


 だが現実は非情だった。


 斥候のマルコは獲物を見つけるのが下手になり、盾役のゴードンは被弾が増えた。


 魔術師のアリアに至っては、呪文の詠唱タイミングがズレたり、威力が安定しなくなったりと、散々たる有り様だった。


「ガルド様、本当にこちらの道でよろしいのですか?なんだか嫌な気配が……」


 アリアが不安げに俺の顔を窺う。


 以前なら、レオンがあの気味の悪い【鑑定スキル】とかで「この先は危険です」などと進言してきた場面だ。


 俺はそれを一蹴し、自分の直感を信じて進んできた。


 そして、その結果がこれだ。


「うるさい! 俺の判断に間違いはない! つべこべ言わずに黙ってついてこい!」


 苛立ちを隠さずに怒鳴りつけると、アリアは怯えたように俯いた。


 マルコもゴードンも、どこか俺を信用しきれていないような、探るような視線を向けてくる。


 パーティー内の雰囲気は最悪だった。


 以前のような、手柄を立てた後の高揚感など、もう長いこと味わっていない。


 依頼の失敗は、当然ランクの低下に繋がった。


 ギルドからの評価は下がり、受けられる依頼の質も報酬も目に見えて落ちていく。


 かつて『暁の剣』といえば、そこそこの名声と実力を兼ね備えた中堅パーティーとして知られていたはずだ。


 それが今や、Bランクはおろか、Cランクの依頼ですら成功がおぼつかない有様。


 凋落、という言葉が脳裏をよぎるが、必死でそれを打ち消した。


 夜ごと、俺は安酒場でエールを呷り、荒れた。


 酒の勢いで他の冒険者に絡んでは、つまらない喧嘩騒ぎを起こすことも一度や二度ではなかった。


 酔いが回ると、決まってレオンの顔がちらつく。


 あいつの進言を無視した結果、罠にかかって全滅しかけたこと。


 呪いのアイテムとは知らずに装備しようとした俺を、必死で止めたこと。


 それらの記憶が、酒の苦味と共に蘇っては、俺の胸を締め付けた。


 レオンがいれば……あいつの鑑定があれば、こんなことには……。


 そんな弱音が頭をもたげるたび、俺はそれを力ずくでねじ伏せた。


 俺はリーダーだ。


 あんなガキの力に頼っていたわけではない。断じて。


 そんなある夜、いつものように酒場でくだを巻いていると、隣の席の冒険者たちの会話が耳に飛び込んできた。


 それは、聞くと嫌な気分が増すとあるパーティーの噂話だった。


「おい、聞いたか? 『星影の羅針盤』とかいうパーティー、またデカい依頼を成功させたらしいぜ!」

「ああ、知ってる! あの好色貴族ブラド・フォン・エルムガンドの悪行を暴いて、衛兵に引き渡したらしい。なんでも、レオンが伯爵の屋敷に監禁されてた女冒険者たちを見つけ出したという噂だ」


 レオン。


 その名を聞いた瞬間、俺は手にしていたジョッキを握り潰しそうになった。


 忘れようにも忘れられない、俺が追放したあのガキの名前だ。


「それだけじゃねえぞ。最近じゃ、リンドブルムで暗躍してた盗賊団『影狐』を壊滅させたって話も聞いたぞ。斥候のミーナって娘が、頭目の女盗賊と因縁があったとかで、レオンの指示で見事にアジトを突き止め、一網打尽にしたらしい」


「へえ! そりゃ大したもんだな。確か、そのパーティー、メンバーはリーダー以外女の子ばかりだったよな? 剣士のセシリア、魔術師のリリア、それに斥候のミーナ。どいつもこいつも、レオンが見出した才能の持ち主らしいぜ」


「レオンが見つけた逸材たちによって、人気も実力も急上昇で、ギルドも注目してるパーティーだそうだ!」


 ブラド伯爵事件の解決。影狐の壊滅。


 どれも、今の俺たち『暁の剣』では逆立ちしても不可能な、輝かしい功績だった。


 その輝かしい功績の中心にいるのが、俺が「役立たず」と切り捨てたレオンだった。


 悪い夢だ。これは、俺が酒を飲みすぎて見てる悪夢のたぐいだ!


 冒険者たちの会話は止まらない。


 彼らが語るレオンの活躍ぶりは、あまりにも具体的で、疑う余地もなかった。


 彼の【鑑定スキル】がいかに強力で、いかに的確な指示で仲間を導いているか。


 そして、彼を慕う仲間たちがいかに生き生きと戦っているか。


「レオンって奴、以前はとあるパーティーで荷物持ちやってて、役立たずだって追放されたらしいぜ。そいつのリーダー、見る目がなかったんだろうな、あっはっは!」


「おい、声がデカい。そこにいるだろ。追放したやつが」


「おっと、すまねぇ。最近影が薄くて気付かなかったぜ!」


 酒場の客の嘲笑は、確実に俺に向けられているように感じた。


 全身の血が沸騰するような怒りと、自分の愚かさに対する強烈な自己嫌悪。


 そして何よりも、俺が見捨てたはずの男が、手の届かない場所で英雄譚のように語られていることへの、どす黒い嫉妬。


「……くだらねえ」


 俺は絞り出すように呟くと、飲みかけのエールをカウンターに叩きつけ、酒場を飛び出した。


 背後で聞こえる客たちの声が、今は俺を嘲笑う悪魔の囁きにしか聞こえなかった。

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