side:セシリア 秘密協定

※セシリア視点


「ふぁ〜あ……」


 朝日が新しくなったアジトの窓から差し込んで、キラキラしてる。


 前のアジトじゃ考えられないくらい、日当たりの良い部屋だ。


 これも全部、レオンのおかげなんだよねぇ。


 レオンは今朝も早くから、新しい依頼を探しにギルドへ行っちゃった。


 あいつ、自分のことよりあたしたちのことばっかりで、たまにはゆっくり寝てりゃいいのに。


「セシリアさん、おはようございます。レオンさんはもうギルドへ?」


 リビングに行くと、リリアがいつものように分厚い魔導書を広げていた。


 こいつも相変わらずだ。


 でも、最近じゃその魔法理論がとんでもない威力を発揮するんだから、文句も言えない。


「おはよ、リリア。そうみたい。あいつ、あたしたちが寝てる間にいっつもいなくなるんだから」


「ふふ、レオンさんは本当に働き者ですわ。おかげで、わたくしたちもこうして新しいアジトで、不自由なく研究や鍛錬に打ち込めますもの」


 リリアが淹れてくれたハーブティーは、前よりもずっと良い茶葉を使ってるのが分かる。


 こういう細かいところでも、生活レベルが上がったんだって実感する。


 前のアジトなんて、雨漏りしないだけマシって感じだったし。


「……レオン。すごい」


 いつの間にか、ミーナもテーブルについてた。


 こいつの気配を消す能力は、覚醒してからますます磨きがかかってる。


 あたしの「剣気解放」も、リリアの「聖域創生」も、そしてミーナの「影潜(シャドウダイブ)」も、全部レオンが見つけて、開花させてくれた力だ。


 あいつがいなきゃ、あたしたち、今頃どうなってたか。


「ほんと、あいつの『鑑定スキル』ってやつは規格外よね。おかげで、厄介な依頼も片っ端から片付けられて、懐もホクホクだし!」


 最初の頃なんて、明日のパンにも困るくらいだったのに、今じゃギルドからの指名依頼も増えて、報酬も桁違いになってる。


 全部、レオンの的確な指示と、あたしたちの力を信じてくれたおかげ。


「ええ。レオンさんの鑑定眼は、わたくしの魔法理論に新たな境地を切り開いてくださいましたわ。あの方の導きがなければ、わたくしの『聖域創生』も、きっと完成には至らなかったでしょう」


 リリアの頬が、ほんのり赤らんでる。


 こいつ、レオンの話になるといつもこうだ。


 分かりやすいったらありゃしない。


「……アタシも。レオンがいなかったら、今もドブネズミのままだった。あいつが、アタシの力を信じてくれたから……『影の舞姫』なんて、柄じゃないけど」


 ミーナも、ぶっきらぼうな言い方だけど、その声には隠しきれないくらいの感謝と……それ以上の何かが滲んでる。


 あたしも、もちろんレオンには感謝してる。


 あいつがいたから、騎士の家を飛び出した意味があったって思えるし、自分の剣に誇りが持てるようになった。


 レオンを追放したやつらと同じように、彼をただの荷物持ちだってバカにしてた連中を見返せたのも、正直スッキリした。


 でも、それだけじゃないんだよな。


 最近、あいつのこと考えると、胸の奥がなんか……こう、むず痒いっていうか。


 もぞもぞするっていうか、今まで感じたことがない感覚に襲われる。


 こいつらも、もしかして……あたしと同じ?


 こちらを見て、ニヤニヤと笑いを嚙み殺してる二人に、あたしはカマをかけてみることにした。


「ま、レオンもさ、あたしたちみたいな可愛い女の子に囲まれて、まんざらでもないんじゃないの?  特に、リーダーって持ち上げられてるわけだしさぁ」


 リリアは飲んでたハーブティーを吹き出しそうになって、顔を真っ赤にしてる。


「なっ、セ、セシリアさんっ! 何をいきなり……! レオンさんは、そのような邪な方では……! で、ですが、わたくしたちの成長を喜んでくださっているのは、確かですわ……!」


 ミーナは、プイッと顔をそむけたけど、耳まで赤くなってるのが丸分かりだ。


「……別に。レオンは、ただ……見る目があるだけ」


 ビンゴ!


 思った通りだ。


 こいつら、あたしと同じ気持ちなんじゃないの。


 そりゃそうだ。あんな風に自分のことみたいに一生懸命になってくれて、才能を信じて引き出してくれて、おまけに料理まで上手いなんて 、意識しない方が無理ってものだもの。


 でもなー、それはそれ、これはこれだ。


「ふーん?  ま、あたしは別に、レオンが誰を特別扱いしようと気にしないけどねー?  リーダーと一番長く一緒にいるのは、やっぱり前衛のあたしだし?」


 わざとらしく髪をかき上げながら言うと、リリアが「そ、それは役目柄であって……!」と慌てて反論してくる。


 ミーナも、じろりとあたしを睨んでる。


 やっぱ、みんな意識してる。


 釘を刺しておかないと。


「ま、とにかく!  レオンはあたしたち『星影の羅針盤』のリーダーで、あたしたちはそのメンバー。あいつのおかげで、今のあたしたちがあるんだから、変な気を起こしてパーティーの輪を乱すような真似は、なしだからね!」


 あたしがビシッと言うと、リリアもミーナも、一瞬キョトンとした顔をした後、お互いの顔を見合わせて、それから真剣な顔つきで頷いた。


「……もちろんですわ、セシリアさん。レオンさんへの感謝の気持ちは、わたくしたち共通のものですもの。個人的な感情で、この素晴らしい関係を壊すようなことは決して……。もちろん、セシリアさんも同様ですよね?」


「……抜け駆け、禁止」


 ミーナの短い言葉に、あたしとリリアは思わず吹き出してしまった。


「そ、そうね! 抜け駆けは絶対禁止! それでいこう!」


 なんだかんだ言っても、あたしたちはレオンを中心に集まった仲間だ。


 この心地良い関係を、今はまだ壊したくない。


 まあ、いつかは……なんて考えなくもないけど、それはまだ、ずっと先の話だ。


 今は、あいつと一緒に、もっと強くなって、もっとでかいこと成し遂げるのが先決だ。


「さて、と! レオンが帰ってくる前に、今日の晩御飯の材料でも買い出しに行きますか!」


 あたしがそう言うと、リリアもミーナも嬉しそうに頷いた。


 レオンの作る飯は絶品だけど、たまにはあたしたちが腕を振るって、あいつを驚かせてやるのもいいかもしれない。


 そんなことを考えながら、あたしたちは賑やかな街へと繰り出した。

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