第三章 星影、最初の煌き 01


 薄暗い屋根裏部屋の、硬いベッドの上で俺は目を覚ました。


 差し込む朝日が、部屋の埃をキラキラと照らし出している。


 決して快適とは言えない寝床だが、昨夜は久しぶりにぐっすりと眠れた気がする。


 隣の部屋からは、まだ眠ってるのか、みんなの声が聞こえてこない。


 身を起こし、背伸びを一つ。


 体は少しばかり軋むが、気分は悪くない。


 むしろ、どこか清々しささえ感じていた。


 そう、俺はもう一人じゃない。


『星影の羅針盤』


 セシリア、リリア、ミーナ。


 個性的すぎる三人の少女たちと、昨日結成したばかりの俺たちのパーティー。


 失意のどん底で掴んだ、細く、しかし確かな希望の光。


「さて、と……」


 まずは腹ごしらえだが、その前にやるべきことがある。


 俺たちの活動資金の確保だ。


 昨日の宿代と食費で、なけなしの所持金はさらに心許なくなっている。


 このままでは、あっという間に立ち行かなくなるだろう。


 そっと部屋を出て階下に降り、共同の洗い場で顔を洗う。


 冷たい水が心地良い。


 簡単な身支度を整え、俺は他の三人が起きてくるのを待たずに、一人でアジトを出た。


 目指すは、冒険者ギルドだ。


 朝日を浴びて活気づき始めた街を歩きながら、俺はこれからのことを考える。


 俺の【鑑定スキルLv.EX】。


 この力を最大限に活かし、彼女たちの才能を開花させることができれば、きっと道は開けるはずだ。


 問題は、最初の実績作り。


 どんなに素晴らしい才能があっても、それを証明できなければ意味がない。


 冒険者ギルドの重厚な扉を押し開けると、朝にもかかわらず多くの冒険者たちの熱気が渦巻いていた。


 屈強な戦士、鋭い目つきの盗賊、ローブをまとった魔術師。


 彼らから向けられる視線には、新顔の、それもみすぼらしい格好をした俺に対する侮りや好奇心が混じっているのを感じる。


 だが、もう以前のような卑屈な気持ちにはならなかった。俺には、信じられる仲間がいる。


「依頼を探しているんだが」


 受付の女性に声をかけると、彼女は少し意外そうな顔をしながらも、手慣れた様子で依頼リストが張り出された掲示板を指し示した。


 リストには、薬草採取からゴブリン討伐、商隊の護衛まで、様々な依頼が並んでいる。


 俺たちの最初の依頼だ。慎重に選ばなければならない。


 あまりに危険なものは避けたいが、簡単すぎても実績には繋がりにくい。


 何より、報酬が安すぎては意味がない。


 一つ一つの依頼票に目を通しながら、俺は密かに鑑定スキルを発動させる。


 依頼内容の真偽、依頼主の信頼性、隠されたリスク……。


 ほとんどの依頼は、見た通りの内容だった。


 だが、いくつか気になるものもある。


「ゴブリンの小隊討伐」と書かれた依頼票には、【備考:リーダー格のホブゴブリンが出現する可能性アリ。危険度C+に上昇の可能性】という小さな文字が、俺の鑑定眼にははっきりと見えた。


 ギルドの公式情報には記載されていない。


(やはり、俺のスキルはこういう場面でこそ活きるな)


 そんな中、一枚の古びた羊皮紙の依頼票が目に留まった。


――依頼:西地区に出没する「彷徨える牙」の調査と討伐――

【依頼主】西地区住民組合代表 バルガス

【内容】ここ数週間、西地区の廃墟街周辺に謎の魔獣「彷徨える牙」が出没し、住民を脅かしている。夜間に家畜が襲われる被害も数件発生。魔獣の正体を特定し、可能であれば討伐してほしい。

【危険度】C(推定)

【報酬】銀貨30枚、および討伐した魔獣の素材(ギルド買い上げ)

【備考】目撃情報錯綜。複数の冒険者が調査を試みるも、成果なし。

危険度C。新人パーティーには妥当なランクだろう。報酬も悪くない。

だが、俺の鑑定は、この依頼票に奇妙な反応を示していた。

――鑑定対象:依頼票「彷徨える牙」の調査と討伐――

【情報】依頼内容に偽りなし。ただし、魔獣の危険度は著しく過小評価されている可能性大。【隠された情報:目撃者の恐怖による記憶の混乱。魔獣の真の姿は未だ不明。複数の「何か」ではなく、一つの強力な個体である可能性。ギルド側も情報不足を認識しつつ、早急な解決を望んでいる。】

【推奨行動】受注には十分な警戒と準備が必要。単独での深追いは危険。


(危険度が著しく過小評価……? しかも、一つの強力な個体……)


 ゴクリと唾を飲む。


 普通なら見抜けないであろう、この情報。


 だが、俺は逆に闘志が湧いてくるのを感じた。


 これこそ、俺たちの最初の試練に相応しいかもしれない。


 他の冒険者が見抜けなかった真実を俺が見抜き、そして俺たちなら解決できるかもしれないのだ。

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