第二章 星影の羅針盤 01

「そういう場所を作る、か……」


 セシリアが、俺の言葉を反芻するように呟いた。


 その青い瞳には、まだ半信半疑の色が浮かんでいる。


 無理もない。ついさっき出会ったばかりの、しかも「冒険者崩れ」を自称する男からの提案だ。


 すぐに飛びつく方がどうかしている。


「具体的に、どうするっていうの? あんたのその『鑑定』とやらが、どれだけ凄いのか知らないけど……」


 言葉とは裏腹に、彼女の声にはどこか期待するような響きがあった。


 それは、現状を打破したいという強い思いの現れなのかもしれない。


「レオンさんのご提案、非常に興味深いですわ。わたくしたちの能力を正しく評価し、活かせる場所……それは、わたくしたち自身で創造する以外にないのかもしれません。しかし、そのためには明確な指針と、それぞれの役割分担、そして何よりも相互の信頼が必要不可欠となりますが」


 リリアは、眼鏡の位置を軽く押し上げながら、冷静に、しかしその瞳の奥には抑えきれない好奇心を宿して言った。


 彼女の知的好奇心は、すでに俺の【鑑定スキル】と、それによってもたらされるであろう未来の可能性に向けられているようだ。


 ミーナは、何も言わない。


 ただ、その鋭い緑色の瞳で、俺とセシリア、リリアの顔を順番に見ている。まるで、俺たちの覚悟のほどを見定めようとしているかのようだ。


「俺の【鑑定スキル】は、ただ物の価値を見るだけじゃない」


 俺は、改めて彼女たちに向き直り、力強く宣言した。


「人の隠された才能、モンスターの弱点、ダンジョンの構造や罠の位置、アイテムに秘められた真の力……あらゆる情報を見抜くことができる。それも、他の誰にも真似できないレベルで。君たちの才能は本物だ。セシリアの剣術、リリアの魔法理論、ミーナの隠密技術。どれもS級、いや、それ以上の可能性を秘めている。俺の鑑定がそう告げているんだ」


 俺は、確信を込めて言い切った。


 彼女たちの才能の輝きは、追放された直後の俺の絶望を吹き飛ばすほどの衝撃だったのだから。


「……S級、以上……」


 セシリアが息を呑む。


 騎士の家系に生まれながらも正当な評価を受けられなかった彼女にとって、その言葉はどれほど響いたことだろう。


「わたくしの魔法理論が……? 確かに、既存の魔法体系に疑問を持ち、独自の解釈や応用を試みてはきましたが、それがそこまでとは……」


 リリアは、興奮を隠しきれない様子で早口になる。


 家族に「出来損ない」とまで言われた彼女の努力が、報われるかもしれないという期待が、その表情に滲んでいた。


「……」


 ミーナは、わずかに目を見開いた。


 感情を表に出さない彼女なりに、驚きを感じているのだろう。


 生きるために盗みを繰り返し、誰も信用できなかった彼女が、自分の能力をはっきりと認められたのは、これが初めてなのかもしれない。


「俺が、君たちの目となり、道を示す。どこに危険があって、どこに進むべきチャンスがあるのか。君たちがその力を最大限に発揮できるように、俺の全てを懸けてサポートする。そして、いつか必ず、俺たちを見下した奴らを見返してやるんだ。いや、そんな小さなことじゃなく、もっと大きな何かを成し遂げられるはずだ、君たちとなら!」


 熱く語る俺に、三人はそれぞれの反応を見せた。


 セシリアは、唇をきゅっと結び、何かを決意したような強い光を瞳に宿した。


 リリアは、何度も頷きながら、その顔には興奮と期待が入り混じった笑みが浮かんでいる。


 そしてミーナは、ふいと視線を逸らしたが、その横顔はどこか吹っ切れたように見えた。


「……ふん。そこまで言うなら、少しだけ、あんたのその『鑑定』とやらに乗ってみてもいいわよ。ただし、足手まといになるようなら、その時は容赦しないからね!」


 セシリアが、わざとぶっきらぼうな口調で言った。だが、その声には迷いはなかった。


「素晴らしいですわ、レオンさん! わたくしも、ぜひご一緒させてください! あなたのその力と、わたくしの知識が融合した時、どのような化学反応が起きるのか……考えただけでも胸が高鳴ります!」


 リリアは、満面の笑みで前のめりになる。


「……アタシも、行く。アンタのその『眼』、信じてみる」


 ミーナが、短く、しかしはっきりとした意志のこもった声で言った。


 その緑色の瞳は、まっすぐに俺を見据えていた。


「ありがとう、みんな!」


 胸の奥から、熱いものがこみ上げてくるのを感じた。


 追放された絶望は、まだ完全に消え去ったわけではない。


 だが、それ以上に大きな希望の光が、目の前にいる三人の仲間たちと共に、確かに輝き始めていた。

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