第3話
雨の土曜だった。
「何読んでるの?」
激しい雨のせいで客足は
水切り
「童話……、の原書」
「へぇ、すごいね。もしかして中身全部、向こうの言葉?」
「ううん、ところどころ注訳がついてる。それに、ストーリーは、わかってるから」
利人の感心したような口調に、少女の頬に赤味がさす。パタンと本を閉じて、ためらいがちに口を開く。
「私ずっと、童話って、好きになれなくて」
雨は
「でも、原書は違ってるって、そう聞いたから」
途切れ途切れの声が、細く雨音に絡んでいく。
何気ない問いかけのはずが、少女にとっては不意打ちだったのかもしれない。言葉はまるで言い訳のように重ねられる。
「確かに、微妙に違ってはいるけど、もし好きになるためだとしたら、おすすめはしないね」
「マスター、知ってるの?」
「ちょっとだけね」
思い出せる、記憶の
「悪役に対する
その言葉の意味を問うように、少女が
「ご
利人のちゃかした言い方に、少女の口元にごく微かな笑みが浮かぶ。
「足を切らせたり、目をくり抜いたりしておいて、それはないだろうって思わない?」
少女が笑みが、深くなる。
「主人公だけが幸せになれば、あとはお
最後のグラスを拭き終え、利人がくるりと振り返る。
「僕もね、童話って嫌いなんだ」
次の言葉を待って、少女が利人を見上げる。
「なんかさ、童話の世界って善と悪が、きれいにスッパリわかれてるでしょ? まぁ、そうしなきゃ物語にならないんだろうけど、現実に善の部分だけの人間なんているわけないって思うし、もしいたら気持ち悪い。それに〝どんなに
軽く腕組みした格好で
「僕は思ったね。それは偉いことでもなんでもなくって、ただ単に自分が虐められてるとか、酷いことされてるってことに、本人が気づいていないんじゃないかってね。童話の主人公って、どっか
少女の口元から、笑みが消える。
「彼らはその
そう言って、少女の瞳を覗き込んだ。
「私も、人が
利人の視線をわずかにそらして、続ける。
「人は、善でありたいって願いながら、絶対に善にはなりきれないモノだって思う」
冷めた表情で、言い切る。
「だから良いことばっかり書かれている主人公が、なんだか嘘っぽくて、好きになれなかった」
薄く
「でも、そうだね。マスターが言うように、他人の悪意に気づけない
少女の横顔に、人形のように体温を感じさせない、
「傷つけようとする人たちの悪意を、気づけないことで傷つけ返しながら、童話の主人公はいつまでも、綺麗なままでいられるんだね」
利人の子供じみた意地悪な演説が、少女の言葉と
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