第3話 法王の正位置「ルール」





スミとヒロトに向かって、

男が長い丸太を振り下ろす。


スミ「きゃあ!」


ヒロトが丸太に向かって剣を振る。

切っ先は丸太の手前を空振り。

しかし、その直後に、

丸太が何かに押されるように軌道をそらす。

強い風が吹いて、砂利が舞い上がる。


男「お」


ヒロトの横の地面に振り下ろされる。


男「その細い剣でよく弾けるな。見た目によらず、まあまあパワーあんね。もっと力込めるか」


男が振りかぶって、再度振り下ろす。

ヒロトが逆方向に剣を振って、また軌道をそらす。

吹き荒れる風。


男「はあ?なんだ?今、剣は当たってなかったろ」


ヒロトが切っ先を男に向けて“突き“。

切っ先は男に届かない。

しかし、何かに男は突き飛ばされる。


男「うわ」


男は後ろに転げながら、丸太から手を放す。

丸太は、ぼんやりと輝きながら小さくなり、カードに戻る。


男「くそ」


カードを拾い上げようと、男が駆けだす。

切っ先を向けるヒロト。

足が止まる男。


ヒロト「あんたの負け。カードは置いて帰りなよ」


男「はあ?」


ヒロト「お前のカード集めは、これで終わりってこと」


男「なめんなよ、ガキ」


ヒロト「カードなしで何が出来んの?」


男「そんなもん無くなったってな、誰かから奪えばいいだけだろ。その女みたいに弱そうな奴からカードを奪って、お前に復讐してやるぞ。この学校も、お前らの顔も覚えたからな」


スミ「え……」


ヒロト「へえ、まだ続ける気?」


男「やりようは幾らでもあんだよ。どうする?お前らが、俺のカードを置いて帰るなら、しばらくは手を出さない」


ヒロト「カードを集めたら、願いが叶うって本当に信じてるわけ?」


男「そりゃな。こんな訳のわかんねー力を持つカードだ。何枚もあれば願いも叶えてもらえそうだろ?」


ヒロト「俺がそのカードを置いて帰らなかったら?」


男「取り返すために何だってしてやるよ。お前から奪えないなら、その女から奪う。それも無理なら、お前らがカードを返したくなるまで、他の生徒を殺したっていい」


スミ「そんな!」


ヒロト「そこまでして願いを叶えたいってわけ?」


男「ああ、悪いか」


ヒロト「別にいいんじゃない。でもさ、お前がカード集めを諦めないのは、こっちとしては困るんだよね」


男「だったらどうする」


ヒロト「諦めないなら、ここで死んで」


切っ先を男の顔に向けるヒロト。


スミ「え?」


男「は?」


男に向かって剣を突き立て、駆け出す。


スミ「や、やめて!」


ヒロトの肩がピクっと揺れる。

突き出された切っ先が、男の首筋をかすめる。


男「う……」


地面に尻もちをつく男。

ヒロトが見下ろす。


ヒロト「二度と俺らの前に顔見せんな」


男のカードを拾いあげ、

放心状態でへたり込んでいるスミの腕を掴んで引き上げる。

男から逃げるように、スミを引っ張って行く。




学校の屋上から木々越しにバス停を眺める白衣の女性教師。


女性教師「ふーん……、甘いな~。しかたないか、高校生だもんね」




公園。


ヒロト「ここまで来たらいいか。人気の少ないとこに行くのはやめたほうがいいよ」


スミ「……助けてくれて、ありがとう」


ヒロト「さっき、戦うそぶりもないようだったけどさ、いくら弱くたって、オープンぐらいはしたほうがいいよ」


スミ「オープン?」


ヒロト「カードを武器に変えること」


スミ「あの丸太や君の剣みたいに?」


ヒロト「そう」


スミ「どうやるの?」


ヒロト「はあ、まだその段階かよ。昨日、よく生きてたな」


スミ「地震がおきたから……」


ヒロト「まあいいや。先輩のよしみで教えとく。こっち来て」


大きな木に隠れるようにして向かいあう。

ヒロトがカードを取り出す。

光っているカード。


ヒロト「いい? カードを持って、念じて」


スミ「念じる?」


ヒロト「なんでもいい。敵を倒せとか、守れとか、武器になれとか、そういうの」


スミ「うん……」


ヒロトのカードが、輝き、ぐにゃりと細い剣に形を変える。


スミ「あ……」


直ぐにカードに戻す。


ヒロト「こんな感じ。やってみて」


スミ「うん」


内ポケットから光るカードを取り出し、

両手で持つ。


スミ「……武器になれ」


光を放って、手のひらの上で円盤になる。

金色に光る小さな円盤。


スミ「出来た……」


ヒロト「変わった形だな」


スミ「これ、どうやって使うの?」


ヒロト「わかんね。武器の形や効果は、みんなバラバラっぽいし」


スミ「フリスビーみたいに投げるとか?」


ヒロト「そいつ、地面に落としてみて」


スミが地面に円盤を落とす。

足元に落ちてカードに戻る。


スミ「違うみたい」


ヒロト「やっぱりそうか。手から離れるとカードに戻る。アイツの丸太もそうだったろ。黒瀬先輩も同じだよ」


スミ「どうやって使うんだろ」


ヒロト「わかんないけど、早く使えるようにした方がいいよ。今日みたいなことは、いつ起きてもおかしくないし」


スミ「……そうだね」


ヒロト「武器には魔法みたいな効果があるみたいだから、黒瀬先輩の武器もなんかあるはずだけどね」


スミ「魔法?」


ヒロト「そうとしか思えないってやつ」


スミ「へえ……」


ヒロト「今日はここまで。それとさ、ちゃんと人目のある所を通って帰りなよ」


スミ「うん、わかった。ありがとう」




公園の出口まで並んで歩く。

横に止まっている、黒いスポーツカーから女性が顔をだす。


女性教師「ハーイ!かわい子ちゃんたち、乗ってかない?」


ヒロト「出た」


スミ「あれ?秋穂あきほ先生?」


秋穂「こんばんは~」


運転席の窓に近づく。


スミ「どうしたんですか?こんなところで」


秋穂「たまたま見かけたからさ~」


ヒロト「嘘つけ」


スミ「え?」


秋穂「あら~?お邪魔しちゃったかしら~?」


ヒロト「……別に」


スミ「あ、えっと、もしかして、何か私達に用事でも?」


ヒロト「早く気づけよ。こいつもカード所持者だ」


スミの肩がビクンと揺れる。


秋穂「あ~。ネタ晴らし、早くない?」


ヒロト「隠してる方が怪しいだろ」


スミ「先生も、カードを……?」


秋穂「そ」


胸のポケットから光るカードを取り出す。

身構えるスミ。


秋穂「あ~、ちがう、ちがう。攻撃したりしないから、安心して?」


スミ「……はい」


秋穂「ラッキーだよ。新しい仲間が見つかって」


スミ「仲間?」


秋穂「そうだよ。同じ学校の仲間なんだし、私達で同盟を組まない?」


スミ「同盟……って?」


秋穂「同じ学校の人間どうし、争うのも嫌じゃない? 近くにいるんだしさ、いつ相手が攻めてくるか、気が気じゃ無いでしょ?」


スミ「はあ」


秋穂「私達の間ではカードの奪い合いは禁止。平和な高校生活を過ごしましょうってこと。だ、か、ら、同盟、結びましょ?」


スミ「えっと……」


ヒロト「俺はまだ結んだつもりないけど」


秋穂「え~、ただお互いのカードを取り合うなってだけなのに~」


ヒロト「ちっ……」


スミ「あの……。私、結びます。同盟」


秋穂「やった。さっすが、優等生の黒瀬さん」


ヒロト「俺は保留で」


秋穂「え~。先輩が入るって言ってのに、あなたは断るの?」


ヒロト「前にも言ったけど、アンタのこと、信用してないから」


秋穂「ひどいな~。生徒は教員を信用してくれないとさ~」


ヒロト「じゃあ、俺には手を出さないで。そうしてる内は、こっちも手出ししないから」


秋穂「あの~、それじゃあ、同盟を結んだのも同然じゃない?」


ヒロト「結んでない」


ヒロトが立ち去っていく。


秋穂「素直じゃないな~。そう思わない?」


スミ「え……、ええ」


秋穂「黒瀬さん、家遠いよね? もう暗いし、送っていくよ」


スミ「え? あの、えっと……」


秋穂「乗って?」


スミ「……」


手が震える。


秋穂「大丈夫。私たちは滝見校同盟たきみこうどうめいよ。約束は守るわ」


スミ「はい……」


助手席に乗る。


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