秘密はいつもティーカップの向こう側 ~クリスマス・プレゼント~

天月りん

クリスマス・プレゼント

 ローズメリーでクリスマス・パーティーが開催されることになった。

 残念ながらパーティーは不参加だが、ささやかなプレゼント交換にはぜひ参加したい。


 というわけで。

 時間を見つけるたび、美緒はあちこちの店を回っている。


「うーん、難しいなぁ。あまり高いものはダメって言ってたし、かといってチープ過ぎるのも違うし。こういうのって、地味にセンスが問われるのよね」


 湊へのプレゼントは、すぐに決まった。クリップ付きのブックスタンドだ。

 料理雑誌を愛読している彼には、これがピッタリだろう。


 大好きな翠へは、ガラスのユニコーン。

 手のひらに載る大きさで愛嬌があり、見つけた瞬間に即決した。


「えへへ。二人とも喜んでくれるといいな」


 クリスマスらしい金と銀のラッピングも、花丸によろしい。

 それらを自室のクローゼットに大切にしまい、美緒は「ふぅ」と息を吐いた。


「問題は――師匠用よね」


 こればかりは美緒も、首を大きく傾げてしまう。

 美麗なフードライターが欲しがるものとは、一体――?


(藤宮くんにお菓子を焼いてもらう……わけにはいかないよね。っていうかあの人、私からプレゼントもらって喜ぶのかな?)


 そもそも論なことを考えながら、美緒はあちこちの店を覗き続けた。

 そうして――やっと見つけた。


「くふふっ!これよ、こういうのを探していたのよ!」


 星が描かれた、緑色の包装紙。

 三つの箱を大事に抱え、美緒はローズメリーに向かった。


***


 パーティー当日。

 互いのプレゼント交換が終わったところで、翠はカウンターの下からカゴを取り出した。

 そこに入っているのは、金の小箱と銀の薄い箱、そして緑色の少し大きな箱。


「美緒ちゃんから預かったのよ」


 銀の箱を湊に、緑色の箱を亜嵐に手渡して、翠は自分用に金色の箱を手に取った。


「ふん……美緒のことだ。妙なものが入っているに違いない」

「そんなこと言いながら、楽しそうな顔をしているわよ?亜嵐さん」


 翠の的確な指摘に、亜嵐は軽く目を眇めた。

 その様子を、湊は楽しそうに眺める。


「じゃあ開けましょう!」


 湊の声を合図に、全員が丁寧に包装を解くと……。


「まぁ、かわいいわ!素敵なユニコーンね」

「あっ!これ、欲しかったやつだ!さすが白石さん」


 歓声を上げる二人に対し、沈黙する男が一人。


「どうしたんですか?亜嵐さん」

「何が入っていたの?……あら、それ……」


 亜嵐が持っているのは、クリスマス風のイラストが描かれたハウス型の箱。

 小さな小窓がいくつもついている。


「まあ、美緒ちゃんったら……」

「何ですか?それ」


 湊が覗き込むと、亜嵐はいかにも辟易とした声で言った。


「アドベント・カレンダーだ」

「……アドベント?」


 不思議そうな顔の湊に、翠が簡単に説明する。


「ほら、窓に数字が書いてあるでしょう?カレンダーなのよ。中におもちゃやお菓子が入っていて、クリスマスまで毎日一つずつ開けるの」

「へぇー!面白いですね」

「……何が面白いものか」


 亜嵐は不満げな声を上げた。


「今日がそのクリスマス当日だろう。どうするつもりだ?一気に開けるのか?」

「あっ、そうか」


 湊と亜嵐が顔を見合わせる横で、翠がふとあることに気付いた。


「一気に開けるかどうかはともかく……これ、まさしく亜嵐さん用よ?」


 にっこりと笑って告げられ、亜嵐は眉根を寄せた。


「何がですか?」

「ふふっ、よく見て?箱の横」

「横?――あ」


 亜嵐の視線が一点で止まる。


「これは……」

「ね?亜嵐さんの大好物――チョコレートよ、これ」


 箱の横に描かれていたのは、有名菓子メーカーのロゴマーク。

 特にチョコレートで名を馳せている店だ。


「えーっと、つまり。一個ずつでも一気でも、好きなペースでチョコを食べていい、ってことですか?」

「ええ、そうね」


 湊と翠がくすくす笑い出すと、亜嵐はぷいっとそっぽを向いた。


「それならば、普通のチョコレートを選べばいいだろう!」


 しかしその声はどこか楽しそうで、唇の端も少し上がっている。


「そこが美緒ちゃんらしいんじゃない?」

「そうですね」

「……ふん。そういうことにしてやろう」


 憎まれ口を叩きながら、亜嵐は可愛らしい箱をそっと撫でた。


 温かな雰囲気が、三人を包む。

 小さな好意と小さな奇跡が、それぞれの胸にそっと降り積もる――そんな、静かなクリスマスの夜のお話。



 秘密はいつもティーカップの向こう側

 SNACK SNAP

 クリスマス・プレゼント / 完


 こちらの作品の本編は、アルファポリスにて連載中です。

 ぜひお立ち寄りください☕

 https://www.alphapolis.co.jp/novel/400679482/624998094

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

秘密はいつもティーカップの向こう側 ~クリスマス・プレゼント~ 天月りん @RIN_amatsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ