世界終末理論少年とスタンガン少女

藤倉(NORA介)

第❶論 強襲の捻くれスタンガン!

 帰りのHRホームルームを終えて、教室が解放的な雰囲気に包まれた。


 騒がしい彼らに目を向けると、別の席の友人の元に馴れ合いに向かったり、同じ部活の仲間と共に笑い合い、教室を後にする。


 それを眺めている自分の目が酷く冷たいものであると自分でも良く分かり、思わず鼻で笑ってしまう。


 高校ここで同じクラスになった奴と仲を深めたとして、殆どの連中とは卒業して、早くても来年になって学年やクラスが変われば疎遠になる。


 それなのに、そんなに時間を使うなんて御苦労な事だ。


 我ながらひねくれているな、とは思う…いや、俺だって昔からこんな捻くれた考え方をしていた訳じゃない。


 …だけど人間とは、直ぐに他人を裏切る生物である。他人に合わせ、群れを作り、孤独を恐れ、我が身可愛さに誰かを爪弾つまはじきにする。


 しかし俺…南野みなみや律斗りつとは、奴ら有象無象共とは違う。


 俺は孤独も孤立も恐れない、空気なんて読む気は無い…正直、お前ら有象無象に嫌われても知った事じゃない。


 そして、俺は人間の醜悪を嫌と言う程、見てきたのだ。これで捻くれるなという方が無理な話である。


 俺は人間という種が嫌いだし、『滅んでしまえ…』と本気で思っている。明日…いや、今直ぐでも隕石が降って来て欲しいくらいだ。


「…──南野くん、お疲れ様!また明日ねー!」


 …何て考えてたら、教室の入口から出て行く女子の声が降って来た。…そういや学年が変わって一人だけ声を掛けてくる物好きが居た。GWゴールデンウィーク明けだし、完全に忘れてたな。


「お、おう…お疲れ様?」


 直ぐに返事は返した…けど、その女子はもう居ない。教室では、残った連中が楽し気に話してた。


「…俺も、そろそろ部活行くか」


 …と言っても、真面マトモに活動なんてしてないし、部員も俺しか居ない天文学部なんだけどな…


 自分の席を立ち、何も持たずに教室を後にする…──俺が向かったのは3階の右端にある図書室の手前…天文学部の部室である。


 正直、今日も外から聞こえてくる陸上部の声をBGMに、部室でスマホをイジるだけの活動なんだけどな…


 そんな、いつもの活動内容に飽き飽きしつつ部室の扉を開いた…──。


『…その肌けたカッターシャツの隙間から覗く、初めて見る水色の布地は…何かとてつもない魔力で俺の視線を引き寄せる。長くつややかな黒髪も相まって…──。』


 …待て、脳内で短編小説を書き上げるのは別に良いが、目の前には何故か着替え中の女子が居た。


 これは不味マズいと思い、咄嗟に目をそららして机の上を見る…そこには、四月に入学して来た一年生の証であるピンクのリボンと可愛らしい水玉模様のスタンガンがあっ……


「──…ナゼニ・何故にスタンガン!?」


 そして天国かと思われた光景が、彼女と目が合った事で地獄に変わった。ヤバい、本気で天国に送られてしまう…


「まっ、待て!…話せば分かる!」


「本当にそうでしょうか?…明らかな覗き魔に、それは過ぎたものではないかと…」


 そう淡々たんたんと言い放った後、彼女は無言でボタンを締めて、スカートを履いて、それからしっかり机の上のスタンガンを握り締めて、こちらを見据える。


「さて…覚悟は良いですか?」


 そう言って彼女はスタンガンを「ビリビリッ…」とうならせる。青白い光がピカピカと視界でひらめいた。


「ちょっと待って!?…いや、これは不可抗力だ!…だいたい、此処は天文学部の部室だ!何でお前は此処に居る?!」


「それが遺言ゆいごんですか?…貴方の最期の言葉は、ちゃんとメモしておきますね」


「待て、お前はアレか!?…ターゲットの最期の言ノ葉ラスト・メッセージをコレクションするタイプの殺人鬼か何かか!?」


「面白い事をのたまう死人ですね、肉塊は喋らないんですよ?」


「まだ死んでないし、マジで不幸な事故なんだ!…それでお前は人を殺すのか!?」


「私は、未来から来ました」


「急なカミングアウト!…えっ、もう俺の死は確定してる!?」


 …という感じで取り付く島も無い。どうする、逃げるか?…いや、逃げても訴えられたら終わりだ。しかし…


「…──やあやあ諸君しょくん、どうやらそろっている様だね!」


 この窮地きゅうちに救世主が現れた!…この陽気な声と語り草な喋りは、我らが…ていうか部員、俺一人しかいないけど…天文学部の顧問で現国の担当教師である松井まつい理歩りほだ。


「松井先生!それ没収して下さい!学校に関係ない物持って来てますよ!?」


「いや、最近は何かと物騒だからなぁ…別にに良いんじゃないか〜?」


「アンタはそれでも教師かよ!?」


 思わず、適当過ぎる顧問にツッコミ入れた。実際、死には…しないだろうが、気絶は…と思えば彼女はスタンガンを止めていた。…あれ、助かった?


「そういや、南野には紹介がまだだったな。…新しく天文学部に入る事になったあくた夜空よぞらだ」


「…は?そんな話は初耳なんですが…」


「あれ?言って無かったか?…すまんな南野、私は面倒が嫌いだ。ちなみに芥、コレは南野律斗だ」


「反省する気無いなこの人!?…って、コレって言うなよっ!」


 …なるほど、つまり松井先生が報告を怠っていたが、この芥夜空って子は天文学部に入ったから部室に居たと…いや、でも…


「…じゃあ芥は、何でここで着替えてたんだ?」


「訳あって制服がビショ濡れになって乾かしていたので、ジャージで過ごしていたんです」


 制服がって…今日は雨も降って無いのに、何があればビショ濡れになるのやら…


「…というか先輩、この流れで先程の事を無かった事にしようとしてませんか?」


「あれは事故だ、ごめんって…というか、お前もスタンガンはやり過ぎだろ!」


「正当防衛です。着替えてる最中に髪を茶髪に染めた、目付きの悪い不良男子が入って来たんですから」


「この髪は地毛だし、目付きが悪いのも産まれ付きだ!…てか見た目で人を判断するは良くないぞ」


「先輩、危機管理能力が足りないじゃないですか?見た目は貴重な判断材料ですよ。生き物だって、見た目の派手さで自身が有毒だとアピールしています」


「それお前、そこら辺のギャルが毒を持ってるって言ってる様なものだぞ。後、鍵を掛けて無かったお前にも落ち度はある筈だ!」


「…いやぁ、二人が既に仲良くなっている。先生はとても嬉しいよ!」


「どこが!?」「どこがですか!」…思わず二人ともハモっていた。明らかに揉めているのに、どこをどう見たら仲良く見えるんだか…


「まあ、取り敢えず二人は同じ部活の先輩後輩だ、仲良くする様に!」


「松井先生、この人は、あの南野先輩ですよね?暴力事件の…」


 やっぱり知ってたのか、俺のうわさ…まあ、この学校で知らない奴の方が少ないからな。…でも、もう新入生に伝わっているんだな。


「まあまあ、落ち着きたまえよ。確かに此処に居る南野律斗は悪い噂が耐えない学校一の嫌われ者だ」


 …いや、嫌われるほど他人と関わったつもりは無いが、少なくとも全校生徒から避けられてるのは事実なので否定できないな…


「…だが芥、噂を鵜呑うのみにするのは感心しないな…まあ、それはそれとして暴力事件に関しては事実なんだが…」


 その言葉を聞いた彼女は、俺を睨み付けなが先程の可愛らしい水玉水色のスタンガンをこちらに向けてくる。


「辞めろ、こっちに向けるな!危ないだろ!?…てか、その物騒な物を1度仕舞ってくれない!?」


「物騒とは失礼ですね、護身用です。…といかコレ、可愛いでしょ!?…ほら、良く見て下さい!」


「ビリビリさせながら、そんな危ないモンを近付けて来んな!」


 …というか、スタンガンって法律上は合法なんだっけ?…いや、でも何か軽犯罪になる場合もあるってテレビか何かで言ってた様な…いや、それでも校内持ち込みはOUTだろ。


「…まあ芥、それはともかく話してみたら南野は悪い奴じゃなさそうだろ?」


「…こんな短時間で人のしなんて分かりません。人は仮面を被って自分をいつわる生き物ですから」


 そう言いながら後輩は、不服そうな顔をしながらスカートの中にスタンガンを…スカートの中!?…どうやって!?女性スパイみたいに太もも着けてんの!?…めっちゃ気になる。


「人は仮面を被るか…何かそれ詩的で良いねぇ…私は好きだよ、そういうの」


 何か話が脱線しかけてる気がするが…俺が学校内で浮いてる理由は、小学校の頃に起こした暴力事件が原因だ。


 小中は同じ係属の学校に通っていたから、噂が広まるのは当然だが…何故か、入学した七海坂高等学校でも、そんな噂の内容や時期が脚色されて出回ってしまった。


「…俺みたいな危険人物と居たくないなら天文学部を辞めるんだな」


 俺は自然と嫌味事をこぼす、これは俺の悪い癖だ。これに関しては、自分でも良くないとは思ってるんだがな…


「いえ、入りますよ。私にはちゃんとこの部活に入る理由がありますので」


 彼女と再び目が合う…──先程は下着の衝撃で気にならなかったが、星空の様に儚げな青い瞳をしている…思わずだけど、見惚みとれてしまいそうになる。


 しかし、それ以上に…どこか詰まらなそうな…そう、その目には見覚えがある気がした。


「じゃあ…まあ、よろしく。特に先輩らしい事はできないけどな…」


「先輩に期待なんてして無いので大丈夫です」


 そうだ、俺も他人に期待なんてして無い…道理で見覚えがあると思った。俺と同じ…この目は何かを諦めしまった人間の目なんだ。


 …でも、だったら彼女は何を諦めたんだろう。他人に興味の無い俺が、少し揺らいだ気がした。


 これが、俺と芥夜空の出会いだった。これが面倒事になる事は考えれば想像が付く事で、溜息が出そうになる邂逅かいこうだった。



第①話 強襲の捻くれスタンガン!…[完]

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世界終末理論少年とスタンガン少女 藤倉(NORA介) @norasuke0302

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