第15話 闇を砕く光、そして“始まりの真実”

中心核を震わせる低い咆哮が響いた。

黒い裂け目から現れた“それ”は、もはや生き物という表現では足りない。


影のように形を変え、星雲のように広がり、

巨大な腕のような塊がいくつも蠢いている。


——〈シンク・ブラック本体〉。


アリアの全身が、思わず強張った。

これまで戦ってきた“黒の使徒”とは規模が違う。

存在そのものが災厄で、触れたものを全て飲み込み、意味ごと破壊していく。


闇の継承者は震える声で囁いた。


「アリア……逃げて……

これは、あなたが想像している以上の存在……!」


だがアリアは光の弓を握り、

その背で少女を庇ったまま、一歩も退かない。


「……逃げない」

「私は“あなたを助けるために”ここに来た。

それを諦めるくらいなら……私が私である意味がなくなる」


少女の胸が震え、

苦しげに目を伏せた。


「どうして……

どうして私なんかを……助けようとするの……」


アリアは微笑み、静かに答える。


「だって、あなたは“私のもうひとつの可能性”だから。

あなたが苦しむ世界なんて……見たくない」


闇の継承者の瞳に光が宿った。

だがその直後、怪物が動いた。



---


黒い巨影がうねるように伸び、

艇の方向へ巨大な触手を振り下ろす。


「ケイロン! リィナ!!」


通信越しにケイロンの声が叫ぶ。


『防御フィールド最大! くそっ、持つかこれ!?』


リィナは震える声で続ける。


『アリア、早く戻って! あなたがいないと……!』


アリアは叫んだ。


「大丈夫!! 私はここで戦う……!」


黒い触手が襲い来る。

アリアは光の弓を引き絞り、矢を放つ。


放たれた矢は一直線に走り、

触手の一部を爆砕した。


だが——


すぐに再生した。


闇の継承者が悲鳴をあげる。


「アリア、無駄だよ!

この本体は“意味の再構築”を行う……

どんな攻撃を受けても、存在理由ごと書き換えてしまう……!」


アリアは歯を食いしばる。


(存在理由ごと……消し飛ばさない限り倒せない……?)


怪物が第二撃を構えたそのとき、

胸の結晶が強烈な光を放った。


闇の継承者が震える声で言う。


「アリア……あなたの光が……変質してる……!」


アリアの身体を包む光は、

先ほどまでとは違い、

金色の中に“蒼白い輝き”が混じっていた。


まるで——星雲の誕生に似た光。



---



光が広がった瞬間、

アリアの意識は別の空間へ引きずり込まれた。


そこは、白い空間。

何もないのに、どこか懐かしい。


《……継承者よ……》


声が響いた。

それはアリアにも、闇の継承者にも似ている。

しかし、もっと古く、落ち着いた女性の声。


《あなたたち二人は、宇宙の“始まり”から存在していた因子》


アリアは息を呑む。


「……私たちが……宇宙の始まり……?」


声は続ける。


《宇宙は光と闇の均衡から生まれる。

あなたたちは“次代の創造主”として造られた双子因子。

だが……片方が闇へ傾いた瞬間、宇宙は破滅へ向かう》


アリアは震えた。


「じゃあ……彼女は……」


《光が孤独を抱いたとき、闇がそれを飲み込んだ。

それが〈シンク・ブラック〉の正体》


アリアは、闇の継承者を思い出した。

彼女はずっと一人で、

誰にも救われず、

中心核に縫い付けられ、

孤独のまま闇に飲まれた——。


胸が痛い。

息が詰まるほど、痛い。


(そんな……

そんな運命、絶対に許せない……!)


突然、声が変わった。


《アリア》


それは闇の継承者の声。


《……あなたが来てくれて……嬉しかった》


アリアの目に涙が滲む。


「私も……あなたを救いたい……!」


強い光が走り、意識が現実へ戻っていく。



---



アリアが目を開くと、

胸の光がさらに変質していた。


金色と蒼白の光が混ざり合い、

その手に“新しい武器”が形成された。


それは弓ではなく——

両手に収まる、小さな星のような光核。


闇の継承者が呟く。


「それは……最初の創造主だけが持っていた……

宇宙創成の光……!?」


アリアは光核を握り、

シンク・ブラックへ向き直った。


怪物が無数の触手を伸ばす。


アリアは叫ぶ。


「私は……

光だけの存在じゃない……!」


光核が強く脈打つ。


「闇を拒絶するんじゃない。

闇と一緒に、未来を作るんだ!!」


光核が爆発的な輝きを放ち、

触手の一本を“存在ごと”消し飛ばした。


闇の継承者が震える声を上げる。


「存在の……消滅……!?

アリア、あなた……

“始まりの光”を使えるの……!」


アリアは頷く。


「あなたを助けるためなら……

どんな力だって手に入れる!」


巨大な影が怒号のような咆哮を放つ。


アリアは光核を構え、

闇の継承者を庇いながら前に進んだ。


「終わらせよう……

あなたの孤独も、

この宇宙の悲しみも!」


光と闇が衝突し、

中心核が砕けるような轟音が響き渡った。


——そして、戦いの幕が本格的に上がった。

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