第33話:月へ帰る者(前編)
裂け目の震えは、もはや隠せないほど大きくなっていた。
カナタが力を使うたび、裂け目からは強い光が発せられる。
それにより翼竜たちの裂け目も増えていく。
それは地球を救うためのパラドックス――
彼自身が最後に導かれて消えていくことは、すでに避けられないものだった。
「……服部、霧子さん」
全てを受け入れたカナタの輪郭は、もう淡く透けていた。
カナタの胸の奥から、静かに温かい光が広がっていく。
霧子は息を呑み、服部は一歩踏み出す。
しかし何もできず足を止め、ぽつりと呟く。
「歴史が……変わるんだな……」
カナタは空気に溶けるように薄くなってゆく自分の手のひらを見つめる。
「そうみたいですね」
そう、静かに笑った。
その言葉には、寂しさと受容が同時に宿っていた。
「でも、僕が消えるということは、歴史がちゃんと変わるということ。
翼竜はもう、消えていく。
……だから……ね、笑って」
霧子は唇を震わせるだけで声を出せずにいた。
服部は奥歯を噛みしめながら言葉を吐き出した。
「そんなの……分かってる……だが……」
そこから続けようとした言葉は、胸の奥で潰れた。
服部の頬を、一筋の涙が静かに伝い落ちた。
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