第13話:歪み始めた時
昨夜、裂け目が現れた街は、まだ混乱の痕跡を残しつつも、柔らかい朝陽に包まれていた。
崩れた建物の瓦礫が点在する中、空気には、ひとときの静けさが広がっていた。
カナタは月神殿からの報告を受け、静かに街を歩く。手のひらには昨日の力の余韻がまだ残り、指先がわずかに痺れと熱を帯びる。
いつもの自分なら気にもしない疲労感だったが、今日はどこか違っていた。
( ……何か、おかしい……)
胸の奥で理由も分からない違和感が顔をのぞかせる。
翼竜の気配はまだ見えないが、空気がわずかに揺れるような感覚があった。
隣を歩く服部が街の様子を横目で見ながら声をかける。
「昨日より落ち着いてるように見えるな」
「……ええ。でも油断はできません」
二人は瓦礫の間を進み、小さな空間の歪みや風の流れを観察する。
裂け目の兆候はまだ残り、街を覆う影が徐々に形を帯び始めているのを感じる。
「この裂け目…やっぱり、昨日と同じ場所です」
カナタは指先で微かに光を送り、空間の揺れを抑える。
服部が小さく息をつき、カナタに目を向ける。
「おまえの力があるから、今は大きな被害を防げてる」
「……服部がいてくれるからこそです」
二人の間には、言葉にせずとも通じる信頼があった。
それでも、カナタの胸にはわずかな不安が残る。 自分の力の流れが、少しだけおかしい。身体に残る疲れは普通だが、今日はその感覚がいつもより強い。
服部はカナタの後ろ姿を見つめ、胸の奥に小さな違和感を抱く。
昨日の戦闘で見せた力だけでなく、今日の歩き方や手の動き、視線の動きに微妙なずれを感じる。
(無理をしているのか、それとも……)
服部は深く息を吸い、そっと声をかける。
「大丈夫か?」
「……はい。問題ありません。」
戦場で何度も見た冷静さの裏に、無理をしている兆しが見える。
だが、今はそれだけではない気もする。服部はわずかに眉を寄せながら、説明のつかない不安が、胸の奥をかすめた。
――
午前の光が神殿の窓から差し込む。
カナタはベッドに腰かけ、手のひらに残る疲労をそっと感じ取る。
普通の月神子なら感じない軽い違和感だが、彼の体は確かに何かを訴えていた。
そして思考は、KAGUYA計画へと自然と向かう。 あの赤ん坊は……
だが、服部の静かな声に遮られる
「カナタ、今日は休んでおけ。完璧じゃないだろ」
カナタは微かに笑みを返す。
「……はい。ただ、街の様子も気になりますので、少しだけ」
二人は神殿の観測室へ向かう。
瓦礫の残る街をモニターで追い、裂け目の兆しや翼竜の気配を確認する。 カナタは力をわずかに手のひらに集め、空間の揺らぎを抑えようとする。
力を使うたびに胸にわずかな重さがかかる。 昨日より体が疲れていることを、彼は自覚していた。
「……やはり、少し無理をしているのかもしれませんね」
小さな呟き。
その言葉を聞き逃さず、服部は心配そうに言う。
「街の安全を確認するのはいいが、おまえ自身の体も大事だ」
カナタは深く頷く。
「……はい。力の使い方を、少し工夫しますね」
「…ったく。」
服部は肩を落とし、小さくため息をついた。
――
神殿の監視室では、カナタのデータが静かに流れていた。
問題ないとされる範囲は異常値になりつつある。
体の変化を、霧子は静かに見守る。
板挟みになりつつも、今は記録に留め、彼を静かに支えていた。
身体が言うことをきかなくなりつつある原因に、カナタはKAGUYAという赤ん坊の映像を思い出す。
あれは、僕…?
KAGUYA計画って…
色々な思いが渦となり、カナタの心をも疲弊させていた。
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