第10話:代償の光 ― カナタ章 ―
夜明け前の街は静まり返り、遠くで緊急サイレンだけが鳴り響いていた。
昨日の裂け目から神殿への誘導で少し酷使した手のひらに、軽く痺れるような感覚を覚える。
「……まだ、少し痺れる……」
そう呟き、カナタは手のひらを軽く振る。
その時、月神殿から緊急通信が入る。翼竜の増殖が周辺区を侵食し、一部の地区が壊滅状態になりつつあるという知らせだった。
現場へ向かったカナタの目の前には、翼竜の大群と怯える民間人たち。
服部が指揮を執っていたが、状況は明らかに劣勢だ。
「カナタ!増殖源は地下の裂け目だ。封じ込められるか?」
「大丈夫です。行きます。」
カナタは深く息を吸い、体の奥に押し込めてきた力をゆっくりと解き放つ。
瓦礫が浮き、光の壁が空間を包む。民間人たちの傷は次々と淡い光に包まれていく。
翼竜はじりじりと後退する。
だが、昨夜の無理が確実に体を蝕んでいた。光の壁を維持するたび、手のひらの光は震え、体が重くなる。意識の端に薄暗い不安が漂う。
「限界が来てるだろ。下がれ!」
「僕なら……大丈夫です。」
言葉とは裏腹に、力が入らず指先の震えは止まらない。視界は徐々に狭まっていく。それでも増殖を止めなければ街は崩壊する。 カナタは最後の力を注ぎ込み、眩い光を放ち続けた。
その瞬間、膝から力が抜ける。
「……あっ……」
「カナタ!」
服部は咄嗟に飛び込み、カナタを抱き留めた。
意識が薄れゆくカナタは少年らしい弱音をこぼした。
「……少し、無理を……」
服部はその囁きを聞き、眉を寄せる。
「そんな謝り方をするな。民間人たちは無事だ。……もう十分だ」
その言葉にカナタは、ふっと安心したように微笑むと、完全に意識を手放した。
それを見ていたかのように緊急帰還命令が出た。
――月神子カナタを至急帰還させよーー
命令と共に服部はカナタを抱きかかえたまま、急いで月神殿へ向かう。胸の奥には不安と、微かな違和感があった。
――なんだ、あの帰還命令のタイミング。それにこいつ……やはりただの月神子じゃない。あの光の出力は、普通じゃない……
――
目を開けると、柔らかな光が視界に入る。
「……ここは……」
天井の装飾、壁のモニター、静かな電子音。ここは月神殿の医療区の特別治療室だった。
起き上がろうとすると、体が軽くふらつく。試しに手のひらに力を集めようとするが、力の流れがいつもよりわずかに重い。
その時、扉が開き、服部が心配そうに速足で近づいてくる。
「大丈夫か」
カナタは少年らしい目で笑みを返す。
「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」
服部は腕を組んだまま、困ったように苦笑いした。
「大丈夫かどうかは、本人の言葉じゃなくて状況で判断したいんだが……。昨日のあの力、本当に普通じゃなかったぞ」
カナタは肩をすくめて静かに笑う。
「必要だったので」
その瞬間、神殿の監視室から通信が届く。
「月神子。昨日の任務中の出力は想定を超過。体調管理の指示を受けてください」
「……分かりました」
通信室からの淡々とした声には、明らかな警戒が滲んでいた。
健康管理の名目の奥には、カナタの力の異質さを探る視線がある。 カナタは気づかないふりをして目を伏せた。
服部がそっと肩に手を置く。
「昨日は本当に助かった。ありがとな。」
「こちらこそ……皆さんが無事でなによりです」
言葉は多くないが、二人の間には確かな信頼が生まれていた。
カナタはベッドの上で軽く伸びをして、窓越しに外の空を見上げた。街はまだ混乱している。しかし遠くの月は、何もないかのように静かに部屋へ光を差し込ませていた。
「……守らないと」
その呟きには、静かな決意が宿っていた。
あの力……ただの月神子じゃない、特別すぎる……
服部の視線は、胸に微かな疑問と上層部への警戒を残した。
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