第10話:少年と時空の光

翌朝、昨夜の激戦が嘘のように、基地は静まり返っていた。


神殿に戻ったカナタは制服に身を包み、広間で静かに祈りを捧げていた。

だが胸の奥には、不安の影がまだ残っている。


増え続ける翼竜――

そして、昨日、自分だけが反応した新たな“次元の裂け目”……


神殿の隅では、科学者たちが翼竜が増え続ける原因を議論していた。


「翼竜の増殖は、単なる生態異常ではありません。

時空の歪み……

2057年の大地震以降、過去と現在が干渉し始めています。

恐らくKAGUYA――」


その言葉を、霧子が静かに手で制した。


「このような場でその話はしないように」

優しくも、有無を言わせぬ一言だった。

霧子はカナタに気づくと、柔らかな笑みを向け、科学者たちと共にその場を後にする。


残された言葉が、カナタの胸に引っかかった。


「かぐや……?」

なぜか、先日、自分だけが反応した小さな次元の裂け目を思い出していた。


そこへ、服部が現場報告に駆け込んできた。

「カナタ、火の地区で被害が拡大している。君の力が必要だ」

「はい」

短く頷き、二人はすぐに出動する。


向かう途中、翼竜の増殖と次元の歪みについて、初めて科学的な視点で話し合った。


「昨日の裂け目……あれから気にしているのか?」


「はい……最近の翼竜は増え方が急激すぎます。

……うまく説明できないんですが……

これは、次元の裂け目と何かが干渉する“パラドックス”的なものかもしれません。

………ひょっとして昨日のあの裂け目も……時空の、裂け目……?」


カナタの最後の言葉は小さく自分に問いかけているようだった。

先日の新たな裂け目と先程耳にした「かぐや」という言葉が、カナタの中で引っかかっていた。


服部は、カナタの横顔をそっと見つめた。

カナタの力に救われている事実と同時に、どこか言葉にできない不安が胸に残る。

服部は改めて、上層部の命令を思い出させられたのだった。


現場では、翼竜が建物に群がり、人々を追い詰めていた。

カナタは瞬時に光を放ち、梁を動かして、負傷者の傷を包み込む。

その正確で繊細なカナタの力の操作に、服部はいつもながら息を呑む。


「……本当にお前は凄いな」

「必要な時だけです。使いたいわけじゃありません」


その言葉には、何か全てを受け入れてしまった、どこか不安げな響きがあった。

服部は上層部への報告が必要と思いつつも、カナタをそっとしておきたいという思いが強くなっていた。


遠く神殿の高台から、霧子は二人を優しく見守っていた。

「……カナタ。あなたは、今日も頑張ってるわね」

その声には、わずかな切なさが含まれていた。


翼竜の脅威は消えない。そしてカナタ自身はまだ気づいていない。


自分が、未来から来たことを――

全てに関わる存在であることを――

歴史と、パラドックスの狭間で使命を果たす、ただ一人の月神子であることを――


全ては、ゆっくりと核心へ向かい始めていた。

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