第2話:月神殿の朝
薄明かりが差し込む
カナタは静寂の中、端末に手をかざし、遠く離れた模擬患者の痛みを和らげる遠隔治療の演習に没頭していた。
画面の向こうで患者の表情が安らいでゆき、カナタは安堵した。
「……良かった」
その呟きは小さく、訓練監督には無口な生徒にしか映らないだろう。
しかし、カナタの力は他の月神子たちの中でも、一目置かれていた。
彼は、それを誇示するわけでもなかった。
人との関わりは得意でない。ひとりで過ごす時間の方が気楽だった。
背丈は百七十cm程度の華奢な姿。まだ青年とは呼べない少年のあどけなさが残る十六歳。
身に纏う訓練服は、まるで月の光の加護を受けた羽衣のようで、動きやすくも神聖さをも感じさせる。
それが、彼の凛とした雰囲気を際立たせていた。
月神殿での生活は規則正しく、外界との接触も最小限となっている。
黙々と訓練を重ねる、それがカナタの日常だった。
たまに
そこでは、霞子から受け継いだKAGUYA計画の資料をもとに、霧子がカナタの力の成長や、地球の危機を回避する研究を進めていた。
しかし、カナタ自身はそのことを知らない。
——
この世界では、ヒーラー(治癒能力者)と科学が共存している。
かつては眉唾とされた力も、生まれてきた子どもたちの間に増え始めた。
能力もまた、科学の進歩とともに進化を遂げたのだ。
カナタも、生まれつき強い力を持つひとりだ。
——
育ての親は霧子。
霧子は、母の霞子の双子の妹である。
控えめで、人と深く関わらない性格は、静けさを好むカナタに似ていた。
「あなたは生まれつき力が強い子だから」
そう幼い頃から言われて育ち、カナタは、その言葉に小さな違和感を残しながらも受け入れていた。
いつも、画面に映る痛みに顔をゆがめる患者を見て、胸がわずかに締めつけられる。
それは自然に芽生えた、他者を守ろうとする素直な思いだった。
「カナタ」
背後から声がした。振り返ると、軍関係である
「カナタ、そちらの対応は順調か?」
「はい、問題ありません」
わずかに笑みを浮かべるカナタを、服部は短く頷きながら確認する。
二十歳で隊長に抜擢され、現在二十三歳。
背丈は一八〇センチ後半、軍服の上からでも筋肉質なのが分かる。
落ち着きのある眼差しは、現場の指揮官としての自信を感じさせた
「では、確認してくれ。急患が入る」
カナタは画面へ意識を戻す。
遠隔治療でも微細な異常を見逃さず、必要以上に力を使わない
——それが月神子の流儀。
ふと、神殿最上階の窓の外に黒い影がよぎった。
翼竜の群れだ。
小さくても、数は増え続ける。
画面を見つめつつ、カナタは心の片隅にその影を留める。
「……もうすぐ、きっと大きな戦いが来る」
静寂に溶けるその言葉は、外はまだ穏やかでも、胸の奥には言葉にできない緊張が広がっていた。
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