KAGUYA ─月と時の交錯─

霧子ノア

第1話:月から贈られた子

 時間は複雑に絡み合い、静かに未来と過去が交錯する。だから、いつかきっと——


——

月島つきしま研究所に、突如警報が鳴り響く。

通信室に駆け込んだ霧子きりこの端末が、けたたましい音とともに激しく点滅していた。


少し乱れた画面の向こうに映っているのは、双子の姉、霞子かすみこに見えたが、何か違う。


「え?…霞子…なの?」

霧子は息を呑む。


「えぇ私よ、霧子。今の私は60歳、あなたはまだ30歳前後ね」

歳を重ねた姿からは、落ち着いた知性と凛々しさがにじみ出ている。

その声は緊迫する状況の中で、一層、凛と響く。


「時間がないの。聞いて」


背後では月面の一部が崩れ、白い粉塵が舞う。映像は途切れ途切れ映し出される。

「この子は“希望”の結晶よ。霧子お願い。あなたの手で、この子を守ってほしい」


霞子は腕に抱いた赤ん坊をそっと画面に寄せ、手には「KAGUYA計画」と書かれた資料が映っている。

「このポットはまだ試作品。小さな対象しか転送できない。今はこの子を、過去のあなたの元へ無事に送れることを願うしかない」


「どうして?」

霧子の問に対し、優しく諭すように霞子は続ける。


「これは、パラドックスを最小限に抑える為…。あなたの時代の研究者たち……過去の私も含めて、もしこの事実を知れば、この子を霧子の元に送る未来が成立しなくなるかもしれないの」


「そんな…」

霧子の胸は激しく波打つ。

驚き、戸惑い、そして重責——

全てを一瞬にして理解する。

涙を浮かべながらも、確かな決意がその目に宿った。


「分かったわ、霞子……必ず…守る」


月面基地は大きく揺れ、微かな声と映像は途切れた。


画面の向こうで、霞子は静かに言った。

「霧子、お願いね…。カナタ…無事に…」


その瞬間、月島研究所の外で強い光と大きな衝撃が走る。

急いで外に出ると、光を淡く放つポットが漂っている。

中には小さな手首に「prot08 KANATA」と記された先程の赤ん坊が入っていた。

そして、KAGUYA計画というラベルの貼られた、複数の資料が添えられていた。


霧子はそっとその小さな命を抱き上げる。

カナタは小さく欠伸をすると、安心したように再び眠り始める。


未来の霞子から託された希望。

カナタの物語は、霧子の腕の中で静かに幕を開けた。

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