第40話 決着、ただし延長戦。
言い訳の余地もないくらい完勝する。
そんなスローガンのもと始まった団体決闘最終戦。
リリアちゃん軍から選出されたのは、ユーフィリア殿下の秘蔵っ子、テルプシコラ・ロギアクルス先輩。
《おにーちゃん、どーおもう?》
(足が長い)
《もー! そういうのじゃなくって!》
足が長い。いや本当に。
美脚ってこういう人を褒めるためにあるんだなってレベル。黒色のレザーストッキングにミニスカワンピという組み合わせがさらに拍車をかけている。
《リリアとどっちがかわいい!?》
(リリアちゃん!)
《ならよし!》
などと、話していると、テルプシコラ先輩が近づいてきて、目の前でこてん、と首を傾げた。
「53936b616f、447f8f4b8a7e594b?」
「なんて?」
なんて?
リリアちゃんの発言と思考がハモった。
テルプシコラ先輩はしょんぼりとうなだれて、ユーフィリア殿下を睨んだ。口をとがらせて不満をあらわにしている。
「まあまあ、すぐに理解してくださいますよ、リリアさんなら」
「8f4b635f、5793588b」
ふんすと鼻を鳴らして、決闘場へと足早にかけていく。
「え、え、なにユフィちゃん! テルプシコラちゃんのことばわかるの!?」
「いえ、私は全く。でも、こちらの言葉は通じているようですよ?」
「なにあれ!? どこのくにのことば!?」
「さぁ、見当もつきません。ただ……」
石の台座の決闘場に登ったテルプシコラ先輩は、屈伸運動などをして体をほぐしている。
あれ? いまから行われるのって魔法決闘だよね?
どうして体を動かす準備を?
「彼女はダンジョンで生まれ、ダンジョンで育ちました」
「え?」
「強いですよ、彼女は」
◇ ◇ ◇
試合開始の合図が鳴る。
同時に、テルプシコラ先輩は走り出していた。
速い。
「7e4b4f6f4b44」
石の足場を破裂のような音を立てながら対戦相手に肉薄すると、その長い足をぶん回すようにして蹴りを入れた。
蹴りを入れた。魔法決闘でである。
「チィ……ッ!」
セドリック殿下軍で参戦の対戦相手は舌打ちして、蹴りの進路に腕を挟むことで対応した。
《いった~……》
(ぐぎって鳴ったね)
鈍い音がして、対戦相手の表情が歪む。
「魔法で戦え……!」
いやほんと、その通りだと思います……。
(ん?)
《おにーちゃん? どーしたの?》
(いやほら。僕たちは例外として、普通って魔法の行使に詠唱が必要でしょ? 数字と一部の文字だけで、どうやって魔法を使うつもりなのかなって)
まさか魔物みたいに詠唱を必要としない魔法なんてことはないだろうし……無いよね?
え? いやちょっと待って?
ダンジョン生まれダンジョン育ち?
それってひょっとして――、
「猛き炎の
セドリック陣営の魔法師さんが、火属性の魔法を詠唱する。
炎が巨大な火の鳥の形をつくり、相手に向かっていく大技。
「【フェニックス・ストライク】!!」
大きい。
両翼を広げれば、石の台座のフィールドを端から端まで届きそうだ。
水平方向には逃げ場がない。
回避するには垂直方向、つまり跳躍が必要に思われるが――、回避されることまで織り込んで、相手は対空迎撃用の魔法を詠唱している。
テルプシコラ先輩、どう対応するんだ?
「なっ!?」
対戦相手の魔法師さんが驚愕し、たまらず、詠唱を取りやめてしまった。
傍で観戦していた僕ですら驚いた。
まして、対峙している対戦相手ならなおさらだろう。
(【フェニックス・ストライク】が、自分から避けていく……?)
まるでテルプシコラ先輩を避けるように、大空へと飛翔していくようだった。
術者の魔法制御能力の不足だろうか。
いいや違う。詠唱完了から、術の発動までのディレイは非常に短かった。
そもそも、セドリック殿下がトイレ掃除するトイレ王子になるかどうかの大事な一戦で大将を任される実力者だ。
魔法師としての実力は疑いようもない。
では、なぜ?
どうせ完全記憶に保管されているから後で見返せばいい、と決めていた高みの見物を辞め、目の前の戦いに集中する。
テルプシコラ先輩の魔力の流れに全神経を注ぐ。
すると見えてくる。
(うっわぁ……えげつないことするなぁ……)
《おにーちゃん? どーなってるの?》
対戦相手が「魔法で戦え」と非難した、テルプシコラ先輩の蹴り業。あれはきちんと、魔法を使った戦法だったのだ。
(テルプシコラ先輩は、蹴り業を使うときに自分の魔力を相手の魔力回路に残してるんだ。相手が魔法を使うとき、邪魔になるようにね)
例えば、魔力をキャラバン、行使する魔法の回路を交易路とすれば、ある場所で突然、落石事故で通行止めになっているようなもの。
いままで使えていた交易路が使えなくなると、局所的な物価変動や資源不足などが発生する。
この市場の乱れが、魔法制御の乱れとして現れる。
《つまり?》
(テルプシコラ先輩の妨害で、対戦相手の魔法師さんは満足に魔法を操れない状況ってこと)
いや、魔法の制御ができない、程度であればまだマシか。
僕が思うに、この魔法の真の恐ろしさは長期戦。
「46897f6f6a4467594c、4b5f5b66445f604d7e59! 7e4b4f6f4b44!」
「くっ……炎の精霊よ、深紅の灯火で、敵を撃て! 【ファイアボール】!」
再度接近を許してしまった対戦相手の魔法師さんが、距離を取るため、発動の早い初級魔法でテルプシコラ先輩を牽制する。否、牽制しようとする。
しかし、結論から言えば、その目論見は失敗した。
「なっ!? 魔法が……発動しない!?」
やはりな。
魔法を阻害する魔力の残滓に汚染されればされるほど、魔法の制御は難しくなっていく。これが積み重なればどうなるか。結果は明白だ。
魔法の不発。
「7e8a874f4b448d927e72555b5f。82467e7b466f644b8f5b6a44」
魔法の使えなくなった魔法師に、テルプシコラ先輩が肉薄する……!
「ひっ、まっ、やめ――」
長くしなやかな美脚から繰り出された蹴り上げが、対戦相手さんの顎を打ち抜いた。
打ち上げられた対戦相手さんは、全くの無抵抗のまま場外へ。
意識を失っている。
テルプシコラ先輩の勝利だった。
◇ ◇ ◇
「意義あり!」
セドリック殿下が、勝敗に文句をつける。
「この種目は魔法決闘だったはずだ! 肉弾戦など言語道断! 貴様たちの反則負けだ!」
「7e7b46675f5f4b635f」
「意味の分からん数字列を並べるな! 人語を使え!」
テルプシコラ先輩がしゅんとうなだれた。
(リリアちゃんリリアちゃん)
《んー?》
ごにょごにょ。
《おっけー!》
さて。
その気になれば最初の一撃でテルプシコラ先輩の魔法のカラクリは見抜けていた。
だが、そうはしなかった。
それはなぜか。
テルプシコラ先輩が操る謎言語の解析に傾注していたからだ。
だからもう、僕は彼女の言葉を理解できる。
仕組みはこうだ。
彼女の言葉は、2桁ごとに1音と対応している。
たとえば53936b616fは、53,93,6b,61,6fで、こ・ん・に・ち・は、となる感じだ。
この法則に気付いてしまえば、あとは翻訳なんて簡単。
「『まほうでたたかった』って、テルプシコラちゃんはいってるよ~♡」
ハッとテルプシコラちゃんが顔を上げる。
「ふん、適当なことを言ってごまかせるとでも思ったか」
「4263668b」
「『あってる』って♡ え~? ひょっとしてセドリックくんは~♡ まけたってじじつをうけいれたくないからごねてるの~? はっずかし~♡」
「違う! 私はただ、いまの試合に不正があったと指摘しただけで――」
「もう、しかたないなぁ」
リリアちゃんが中指を親指で抑える。いわゆるデコピンの形。
《おにーちゃん》
(おっけー)
パシィンと軽快な音が炸裂して、セドリック殿下の手の甲をリリアちゃんの可愛らしい中指が弾く。
「ぎっ!?」
セドリック殿下は、熱された鉄の熱さに驚く野生動物のように手を引っ込めた。情けない悲鳴とともに。
《ほんとーは、おでこがよかったけど……》
(背が伸びたらまたね)
《うゅ》
さて、お判りとは思うが、彼にはいま、魔法をかけた。
「ほら♡ セドリックでんか♡ チャンスタイムだよ♡ なんでもいいからとくいなまほーつかってみせてちょ♡ できたらぁ♡ こっちのはんそくまけでもいいよ♡」
「……貴様、なにを企んでいる」
急な手のひら返しに、さすがのセドリック殿下も警戒した。
まあ、警戒したところで無意味なのだが。
「おやぁ? セドリックでんかはぁ♡ まほーすいしんなんて言いながらかんたんなまほーもつかえないんでちゅかぁ? そんなちょうしでぇ♡ こんごもでんかをしじしてくれるかしんはできまちゅか?」
「く……っ」
警戒して提案を断るなら敗北を覆せない。
敗北を覆すためには、この提案を呑むしかない。
「いいだろう、見るがいい。炎の精霊よ、深紅の灯火で、敵を撃て! 【ファイアボール】!」
「……」
「……」
「……」
「……は?」
もちろん、魔法は発動しない。
「んぁ♡ だっさぁ♡ セドリックくんはぁ♡ しんいちねんせいでもつかえる【ファイアボール】すらまんぞくにつかえないんでちゅね♡」
「ち、違う! いまのは――」
「まほーがだいじっていっておきながらなっさけな~い♡ こんなかんたんなまほーもつかえないなんてはずかしくないの~?」
「な、何故だ……!」
殿下が詠唱を繰り返すがやはり魔法は発動しない。
「
「えへへ、
「
テルプシコラ先輩が尊敬の……子犬が親分に向けるような憧れ交じりの眼差しをリリアちゃんに向けてくれる。
いやぁ、言語解析をがんばった甲斐があるってもんですな。
「要はですね、お兄様。これが、テルプシコラ先輩の魔法なのです」
「は……?」
「触れた相手の魔力回路を麻痺させ、魔法の制御を乱す魔法です。その恐ろしさは、存分に味わったでしょう?」
「ま、待て……! 認めない、こんなこと、私は認めないぞ……! そ、そうだ! 私は少し、調子が悪いだけで」
「そうですか。ところでリリアさん」
ユーフィリア殿下の視線がリリアちゃんの方に向く。
「お兄様に掛けた魔法、どれくらい持続できますか?」
「いつまでも!」
ユーフィリア殿下が一瞬口角を引きつらせた。
また規格外のこと言い出した、とか思ってそう。
でも、それに気づいたのは、たぶん向かい合っていて、観察力に自信がある僕とリリアちゃんだけで、他の人には、その後に見せた悪辣な笑みしか印象に残らなかっただろう。
「では、お兄様。納得できましたらお声がけください」
「ま、待てユーフィリア……! 冗談だろう!? 魔法を使えないまま過ごせというつもりか!?」
「あら? おかしなことをお聞きしますのね。お兄様が魔法を使えないのは、不調が原因なのでしょう? どうして、私がお兄様に魔法の使えない生活を強いているという話になるのです?」
「ぐ、ぐぐ……っ」
おお、見事なカウンターだ。
これはセドリック殿下、言い返せない。
「……わかった。私の、負けだ」
ユーフィリア殿下が、表情を和らげてこちらを見る。
思いは伝わったので、殿下に掛けた魔法不発の呪いを解く。
「では、これからひと月、美化清掃にお励みくださいね、お兄様」
トイレ王子誕生の瞬間である。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄◥
あとがき
◣_________
テルプシコラちゃんの言葉の翻訳の仕方
1.まず2桁ずつ区切ります
53,93,6b,61,6f
2.それぞれの頭に\u30を付け加えます
\u3053,\u3093,\u306b,\u3061,\u306f
3.Unicodeでアンエスケープすると翻訳完了です
こんにちは
以下に今回のお話の翻訳結果を貼っておきます
今後登場する場合はルビが振られるのでご心配なく!
こんにちは
53936b616f
いみわかりますか
447f8f4b8a7e594b
わかった
8f4b635f
しんじる
5793588b
まかくはかい
7e4b4f6f4b44
うらみはないですが
46897f6f6a4467594c
かたせていただきます
4b5f5b66445f604d7e59
まりょくかいろをまひさせた
7e8a874f4b448d927e72555b5f
もうまほうはつかわせない
82467e7b466f644b8f5b6a44
まほうでたたかった
7e7b46675f5f4b635f
あってる
4263668b
おどろいた
4a698d445f
つかいこなしてる
644b44536a57668b
まほーのもほーはとくいなんだ
7e7bfc6e827bfc6f684f446a9360
すごい
595444
ことばつうじてる
536870644658668b
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます