第30話 優勝、しかも最年少。
逆シードスタートの僕たちは次の番がすぐに回ってきた。
「さあ剣舞祭U18部門第2回戦! 青コーナー! 我らが魔王様、リリア・ペンデュラムゥゥゥ!」
リリアちゃん信者席から大歓声が巻き上がる。
「1回戦では相手の技を模倣し、あまつさえ改良まで施して返す離れ業を見せてくれました、続く2回戦でも彼女の活躍に期待です! さあ続きまして赤コーナー、前回大会準優勝! 第1シード! 剣聖、アルテア・フォートライン!」
ん? フォートライン?
「アルテアせんぱいって」
「はい。先日、リリア嬢が救出くださったイライザ・フォートラインの兄です」
「うっわぁ……」
すごい偶然、というよりもきまず、という感じにリリアちゃんが息を漏らす。
「リリア嬢には大変感謝しております」
アルテア・フォートラインさんが深々と頭を下げる。
「……とししたにあたまをさげてはずかしくないの~? プライドとかないんだ♡ なっさけな~い♡」
「恩義ある方に敬意を示すのは、騎士を目指すものとして当然です」
「あ、はい」
この人、すごいぞ!
リリアちゃんに場をわきまえさせた……!
いまはメスガキムーブするタイミングじゃないんだなって、リリアちゃんが理解させられたぞ……!
「しかし、試合が始まれば全力で挑ませていただきます」
「うん、いいね。リリアもそっちのほうがうれしいよ」
そろそろリリアちゃんの語尾が「♡」から「♤」に変わるんじゃないかなって勝手に思ってる。
審判員が僕たちのまえで手を上げる。
「それでは第2回戦、スタートです!」
◇ ◇ ◇
来た、見た、勝った。
◇ ◇ ◇
「勝者、リリア・ペンデュラムゥゥゥ!」
「いえーい」
いやぁ、2回戦のアルテア先輩は強敵でしたね。
基本に忠実、それでいて戦況に柔軟。
僕たちの必勝パターンは基本的に、相手の得意分野を相手より上の練度でぶつける形になる。
必然、相手の練度が高ければ高い程、拮抗した戦いになる。これはヴィルくんも指摘していた事実だ。
まあ、事実だからと言って弱点というわけではないけれど。
「参ったな、本気で勝ちに行ったつもりだったんだけど」
「せんぱいもすごかったよ? ね、わたしといっしょにユフィちゃんの騎士やろーよ! すいせんじょーかくよ?」
「ユーフィリア殿下の? それは光栄ですね」
アルテア先輩がリリアちゃんと試合を振り返り検討している。あそこでああすべきだった、あれは失敗だったといろいろ反省点があるらしいけれど、一番致命的なのは、読みの速さだ。
僕はリリアちゃんが子どものころから並行思考と高速思考を鍛えている。常人が体感する1秒を何倍にも何十倍にも引き延ばし、高速に、無数の選択肢を検討できる。
一方で、先輩の場合は実際に剣を振るいながら、試合の展開を考えなければならない。歌って踊るのが難しいとされているのと同じで、二つのことを高次元で行うのは極めて難しい。先輩は二つを高度に行えていたけれど、僕の足元には及ばなかった。
それが僕たちと先輩の決定的な差だ。
◇ ◇ ◇
3回戦、4回戦、準決勝は楽勝だった。
もともと、逆シードのリリアちゃんが第1シードのアルテア先輩に金星を挙げたのが異常なのだ。
前回大会優勝者が卒業してから最初の大会、優勝大本命のアルテア先輩と比べれば見劣りしてしまうのは仕方ないと言えば仕方ない。
「さあいよいよ決勝戦の始まりです! 赤コーナー、我らが魔王様! リリア・ペンデュラムゥゥゥ!」
会場中から熱狂的な声援が巻き起こる。
(増えてる……)
リリアちゃんの信者が。
「史上最年少の弱冠7歳ながらまさかまさかの怒涛の勝利! そのおかわいらしい体躯のどこにそれほどの力が秘められているのか! 観客全員が固唾をのんで史上最年少優勝記録が塗り替わる瞬間を見守っております!」
ははーん。さては今大会を通じてリリアちゃんの魅力に気づいた新規層がいるな?
よきにはからいたまえ。リリアちゃんはリリアちゃんの魅力に気付ける万人を受け入れるでしょう。
ふむ。いろんな大会を総なめにして、リリアちゃんの名前を知らない者はいない状況にするってのはなかなか魅力的な気がする。
「続きまして青コーナー、前回大会U15部門優勝者、ブルーノ・オケアノスゥゥゥ! 今年高等部に上がり初めての大会で見事決勝の舞台まで勝ち上がりました! この勝負、どちらに軍配が上がるのか!」
互いに間合いを取って、間に審判員が割って入る。
おもむろに振り上げた手が、勢いよく振り下ろされる。
「さあ、決勝戦、スタートです!」
「
風船を破裂させたような音とともに、対戦相手のブルーノさんが一息に間合いを詰めてくる。
しかし、これは――、
「おおっと! ブルーノ選手、お得意の超低姿勢からの逆袈裟斬りだ!」
目を見張る速度で、彼の逆袈裟が迫る。が、
「おもしろいわざだね♡」
「っ!?」
リリアちゃんが最小限の動きで躱す。
紙一重の回避ワザ、いわゆる見切り。
見切りの利点は返しの一撃の速度。カウンターの絶好の機会を生み出すこと。
しかし、相手も身軽というべきか。
リリアちゃんが返す刃をひらめかせるより早く、地面を蹴って距離を取ろうとする。
「にがすとおもったの♡」
対戦相手のブルーノさんの目が見開かれる。
「おおっと! これは、リリアさまお得意の昇華コピーだァ! ダックインと呼ばれる特殊な歩法を初見で見抜き、完全に自分のものにしているぞ!」
ブルーノさんが苦虫を噛み潰す。
「くっ、これがダックインだと!? ふざけるな……! こんなの、」
その技術は、水面を泳ぐアヒルが水中に顔を潜らせ、魚を取る動作になぞらえて名付けられた。
斬撃の直前、一瞬だけの超低姿勢、それが本来のダックイン。
だけど、成長期すら訪れていないリリアちゃんが使えば――
「こんなもの、水底の魚を掬い取るレベルじゃないか……!」
いいね。
さしづめ、こう呼ぶべきかな。
《
(
《なまぐっさ~♡》
名付け親が後悔したエピソードまで再現しなくていいから。
さて、アヒルのくちばしも、川底を泳ぐリリアちゃんには届かない。
「くっ」
普段彼が得意としている領域で、彼以上の技量と読みのレベルで圧倒する。
彼の表情はどんどん険しくなっていく。
「すい・けん♡」
「――っ!」
まして、リリアちゃんは大会を通して見てきた技のすべてを使える。
状況に応じて、あらゆる型を、技と技が連結する形で再構築して打ち出せる。
「はい、おしまい♡」
嵐のような連撃が、突然鳴りやんだ。
リリアちゃんが剣を振るのをやめ、鞘にしまったしたからだ。
「ふざけるな、まだ勝負は終わって――っ!?」
言いかけたブルーノさんの表情が凍り付く。
「きづかなかった? たたかいのさなか、隅へとおいやられていることに♡ リリアの狙いが、おにーさんの足場だったってことに♡」
石の台座が、崩落する……!
「っ! くっそぉぉぉ!」
ブルーノさんが何とか跳躍しようと試みるが、台座は既に木っ端みじん。砂上に楼閣が立たないのと同じで、彼もまた大地に吸い寄せられていく。
「じょ、場外……! ブルーノ選手場外です! よって
耳をつんざかんばかりの大歓声が、会場を熱気の海に叩き込んだ。
その灼熱の海の中心で、膝をつき、どこまでも深く沈んでいこうとしている人物の陰がある。
ブルーノ・オケアノスさんだ。
「負けた、俺が、8つも年下の女の子に……?」
「おやぁ? かてるしあいだとでもおもってたの~? なっさけな~い♡ じぶんのじつりょくいじょうにおもいあがるのって、ださださ~♡ はずかしくないの~?」
「……っ!」
ブルーノさんがキッとリリアちゃんを睨み、また、意気消沈した。
「いや、そうか……そうかもしれない。俺はずっと、挑戦者のつもりだった。でもこの勝負に関しては、心のどこかで勝てる勝負だと思ってた、君を見くびっていた」
吸い込んだ息を、燃えるような激情とともに吐き出すブルーノさん。
「俺も、まだまだだな。ありがとう、リリアさん。大事なことを気づかせてくれて」
「あ、うん」
リリアちゃんは首を傾げた。
《おにーちゃん。剣をやってるひとたちリアクションつまんなーい。リリア、タコさんであそびたいー》
(はいはい。あそこにヴィルくんがいるから、それで我慢しなさい。ね?)
《え、ヴィルくんきてるの?》
初等部は高等部より学年が多い。
中等部や高等部は進学しない生徒もいるし、そもそも、魔法至上主義の国で剣技を磨きつつ学園で魔法を学ぶ人間は少数だ。
故に、初等部は高等部よりも試合数が多い。
にもかかわらず、ここにいるということは、
「あれれ~? ヴィルくんどうしてここにいるの♡ 初等部のたいかいはまだまだつづいてるでしょ~?」
「る、るせぇ! ほっとけ! 言っとくけど、一年生で二回戦突破は偉業なんだからな! 偉業!」
「リリアはU18のさいねんしょーきろくをぬりかえたけど♡」
「だーっ! こいつ! せっかく応援に来てやったのにムカツク!!」
リリアちゃんの表情がどんどんつやつやになっていく。
リリアちゃんが楽しそうで何よりです。
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