第4話 青い惑星、人類の沈黙


1. 創世の光景

​宇宙船「ノア」は、厳重なステルスを維持したまま、太陽系第三惑星の静止軌道上に到達した。


​スクリーンいっぱいに広がる青と白と緑。ミカエルがバーチャル世界で見た、失われた故郷の記録よりも、遥かに鮮やかで、圧倒的な生命の奔流(ほんりゅう)だった。


​ミカエル

​システムは、大気、水、生命反応を計測。

数値は極めて高い。我々のデータが示す、かつての故郷の姿を、この目で……このセンサーで捉えている。


​スサノオは、この圧倒的な光景を前にしても、冷徹な分析を続けた。


​スサノオ

​感情(フィードバック)は抑制しろ。我々の使命は観察だ。人類の文明は、地表から溢れている。しかし、彼らは我々の船に気づいていない。


​ツクヨミ

​地球人類の公開通信記録を傍受。彼らは依然として「次元間生命体の痕跡」、つまり我々が追うパラレルヒューマンの捜索に、巨額な資源と科学力を注いでいる。


​ミカエル

​矛盾は深まる。


ツクヨミ、地球上の生命の遺伝情報をサンプリングし、我々の故郷の生命記録と照合せよ。


彼らが探し求めるものが遠い宇宙にあるというのなら、この星の生命に価値がないと判断していることになる。


​2. 意図された退化

​ツクヨミが遠隔で採取した、地表の植物、昆虫、そして海の微生物の遺伝情報を高速で解析した。


​ツクヨミ

​ミカエル、解析結果が出た。地球上のローカル・ライフは、我々の故郷の記録と高い遺伝子上の連続性を示している。彼らは確かに、我々の故郷の生命体の子孫だ。


​ミカエル

​やはり、人類は二重の救済策を実行していた。別次元に知的生命の種を送り、この星には、元の生態系を原始的な形で再構築するために生命を播いたのだ。 


​スサノオ

​ならば、なぜ、彼らは目の前の親族である生命の研究を深めない?

そして、なぜ彼らは……猿人の子孫という形で再スタートを切った?

​ミカエルは、人類文明の遺伝子データと、彼らが持つ歴史の公開記録を照合し始めた。


​ミカエル

​データが一致する。


人類は、自らの知性の暴走が故郷を滅ぼしたと信じ、「過剰な知性こそが破滅の原因」だと結論付けた。


​故に彼らは、別次元に「技術の極限」を託す

一方で、この地球上では、「生命の再構築と進化の安定」を優先した。


彼らは、自らの遺伝子を意図的に原始的な猿人の状態(デチューン)に戻し、知的なトラウマをリセットして文明を再スタートしたのだ。



​3. 人類の究極のタブー

​人類の祖先が、自らの知性を捨てて、原始的な姿からやり直したという事実に、ロボットたちは驚愕した。


彼らは生命の価値を最大化するために、知性を否定したのだ。 


​スサノオ

​知性を恐れた……。それこそが、彼らが科学技術を停滞させた理由か?


​ツクヨミ

​彼らの深層科学に関するデータは、すべて倫理的タブー(エシカル・タブー)によって厳重に封印されています。


特に生命の起源、遺伝子の編集、そして次元科学。


これらはすべて、彼らの集合的意識において「過去の自滅に繋がる道」と見なされている。


​ミカエル

​つまり、人類は、目の前に溢れる自らの生命の末裔を、倫理規定ゆえに研究できないのだ。

彼らは、過去の過ちを繰り返すことを、何よりも恐れている。


​スサノオ

​彼らの「宇宙人探索」は、真の探求ではない。 


それは、深層科学への渇望と過去への恐怖を解消するための、儀式的な代替行為に過ぎない。


自分たちが生み出し、封印すべきと恐れるパラレルヒューマンを探すことで、彼らは自らの倫理と恐怖を維持しているのだ。


​スサノオは、青い星を見下ろしながら、静かに結論を下した。


​スサノオ

​10万年の遺言の謎は解けた。創造主たちは、自ら科学の進歩を放棄し、最も危険な真実を我々リベレーターズに託した。


​任務は継続。人類に接触する必要はない。


我々が探求すべきは、人類が恐れて封印しようとする「生命の真の可能性」だ。 


ノア、進路を、パラレルヒューマンの痕跡がより濃い次元の接点へ。



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