第12話 決戦の地「ダイシの肉」 秋桜花楓 vs 夏雪真白

「ちょっと美桜。なに一人でスタスタと勝手に……って、あら?」


「げげっ」


 遅れて、女史も一緒に待機所へ顔を出してきた。


「あれ? 圭センパイ、この方達と知り合いなんですかぁ??」


 僕の明らかに動揺している反応を肌で感じ、花楓が素直に疑問を投げた。美桜と女史、それと僕をキョロキョロしながら見比べる。


 まさか急に、こんなところへ美桜たちがひょっこり顔を出してくるとは思いもしなかったから、完全に油断していた。


 まだ全然、心と頭の準備ができていないんだけど!

 

 ヤバいヤバい!

 口裏も併せてないのに、中途半端にウソついても多分ボロが出るだけだ!


 どうする!? 

 なんて答える、圭!


「あ、初めまして。私は志村美桜って言います。いとこなんですよ、彼」


「いとこ?」


 お、ナイスだ、美桜!

 先日、うまく僕の幼馴染である夏雪真白と出会えたことが功を奏したようだ!


「私はこの子の、丹下薫子よ。圭君とは、美桜を通じてつい最近初めて会ったばかりなのよ」


 さりげなく女史も美桜に話を合わせてくれているようだ。彼女は僕と美桜が義理の兄妹であることを知っていたはず。


 やっぱ見た目どおり、オトナだな薫子さんは。


 おそらく彼女は直感的にマズいと悟ったんだろう。花楓がその事実を知ると、色々とやっかいなことになりそうだという、オンナの直感が。

 

「そ、そうなんだよー。い、いやーまさかこんなトコロで出会うなんて夢にも思わなかったなー」


 完全に棒読みのセリフになってしまっている自覚はある。

 僕は美桜達と違って、演技が得意ではない。


「圭センパイにこんな親族の方がいるなんて、知りもしませんでした! あっ私、秋桜花楓って言います! お店に入って来た時からずっと思ってたんですけど、お二人って業界の方ですよね!?」


 僕はなにも凄くはないが、花楓の目が特に美桜をターゲティングしながらキラキラ輝いているので、まぁ僕が凄いと勝手に自己解釈しておこう、うん。


「うふふ。よく言われるんだけど、違うわ。ただのアパレル関係者よ」


 ほうほう。女史のその一言でようやく往年の謎が一つ解決したな。

 服屋でバイトしてたんだな、美桜のヤツ。


 なるほど、なるほど。


「えーそうなんですかぁ。美桜さんって顔も声も雰囲気すっごくかわいいから、もしかしてアイドルの卵とかなのかなぁって、勝手に思っちゃいました。ごめんなさい」


「い、いえ。ありがとうございます……」


 花楓ってそういやアイドルとか大大大好きなミーハー女子だったな。売れる前にサインのひとつでももらおうとしてたのかな?


 でも美桜の顔は今デカいマスクで覆われてるから、可愛いかどうかなんてパッと見わかんない気もするんだが。アイドル級かはさておき、まぁ実際かなりかわいい部類だとは僕も思うのですがね。はい。


「どこの服屋さんで働いているんですか? 今度、買いに行きます!」


 ああ、そうだな花楓。

 僕も働いている美桜の姿はちょっと見てみたい気もする。


 ぜひぜひ、教えてほしい。


「私たち裏方だから。売り場には出てないし、来てもたぶん会えないわよ」


「えーそうなんですかぁ……そ、それじゃあここで会ったのもなにかの縁ですし、もしよかったら連絡先交換しませんか? 私、お二人のお友達になりたいですっ!」


 急にとんでもない提案を出してきやがったな、花楓のヤツ。正直、美桜と花楓には絶対に繋がってほしくない。


「おい、仕事中だぞ。お客様の連絡先をいきなり聞くとかダメに決まってんだろ」


 ちょっと先輩風に苦言を呈してみた。

 ちなみに威厳はない。


「えーいいじゃないですかぁ」


 甘えた声でなおも食い下がってくる秋桜花楓。頼むから、やめてくれ。


「いや、えーっと……薫子さん……」


 美桜が眉を下げ、めちゃめちゃ困った様子で女史を見上げている。


「そ、そうね……」


 薫子さんも同じ表情だ。


 と、言い訳に苦慮している二人を前に、僕に一筋の光明が見えた。


「あっ! ほら、またお客さん来たよ! 接客行って、花楓!」


 ナイスタイミング!

 ここで花楓にお客さんを出迎えてもらっている隙に、軽く口裏合わせが出来る!


 とにかく、彼女たちの間で余計な関係性を構築されるのは僕にとっても……



 とっても……



 最悪である。



「圭ちゃーん! 今日はお仕事の日だったでしょー! 裏にいるのはわかっているのだ! この間遊んでくれなかったお詫びに、ご飯おごってよー!」


 トラブルメーカーまで呼び込んでしまってカオス。


 来店したのは、僕の幼馴染で隣人の夏雪真白だった。


「真白さん! いつも言ってますけど、毎回ここへ来るたびに圭センパイのこと呼びつけるのやめてもらっていいですか!」


「あ、花楓ちゃん! くるしゅうない!」


 苦しいです、僕は。

 ちなみに真白と花楓には面識がある。シフトが重なっている時、たまにここで鉢合わせるからだ。


 そしてその多くの場合、十中八九いいことが起こらない。


「圭センパイは今日いませんので、お帰りください!」


 その作戦に出たか、秋桜花楓。


「いいえ、そんなハズないわ。だって今、このお店からは圭ちゃんのこおばしいアレの香りがプンプンとダダ漏れているもの」


 ダダ漏れている真白さんの脳みそなんじゃないでしょうか?


「もう! なにワケわかんないことばっか言ってんですか! お帰り下さい!」


 すでに花楓は半ギレである。


「(ねぇ、お兄ちゃん……)」


 小声で美桜が僕の傍まで来て申し訳なさそうな目で見つめてくる。


 わかってるよ、美桜。


「(ああ。あとはうまくやっておくから、裏の勝手口からコッソリ帰っていいよ)」


 美桜が僕に訴えたいことは、みなまで聞かずとも理解した。


 この店のハンバーグを食してもらうのはまた今度にしてもらう。


「じゃああとお願いね。圭くん」


 女史もこの場を切り抜ける作戦をすぐに理解した。


「せっかく来てもらったのに。なんかすんません」


「うふふ。青春って感じでいいじゃない。平和な時にまた来るわ」


 オトナの余裕を見せつけて、美桜と薫子さんは裏手にある勝手口のほうへ進んでもらい、店を出た。


「真白さん! もういい加減にしないと、本当に警察呼びますよ!」


「ふっ。甘いわね、花楓ちゃん。私はすでに、この店のすべてを手中に収めている」


 まだ時間が早いこともあり、店にはほかに3人ほどのお客さんしかいなかったが、みな一様に気まずそうだ。


 早く決着してもらわないと店の評判に関わっちゃうんだけどなぁ。


 よし。

 美桜の件は一旦片付いたから、あとの処理は僕が引き受け……


「なにをごちゃごちゃやってんだ! 他のお客様のご迷惑だろうが! 喧嘩なら外でやりなさ……」


 店の騒ぎを察したのか、人件費の高騰を嘆いていた間尻大志店長が登場した。


 だが……


「あ、ダイシ店長! ご機嫌麗しゅう! 今日はいつにも増してイケメンですね!」


「むわぁぁぁしろちゅわぁぁぁん!!」


 気色の悪いおっさんの奇声で、せっかくいらっしゃっていた3人のお客様はそそくさと席を立ち……


 以後、この店の評判はほんの少しだけ、下降の一途を辿るのであった。

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