第6話 敗北
魔王の紅い魔剣と、勇者の白銀の聖剣が打ち合い、魔力の火花を散らす。
舞のように美しい2人の戯れは、視る者すべてを魅了した。
「すごい、すごすぎるにゃあー! この戦いは歴史に残る、さいこーの戦いにゃー! 感動にゃ! この戦いに立ち会えたことを、神に感謝にゃ!」
舞踏会で踊るかのように2人は、息をぴったりに斬り合い続ける。
視聴者数もどんどんと増えていき7000万人を突破した。
双方の表情には敵意はなく、この戦いというダンスを楽しんでいるかのようだった。
「ぐぅっ!」
だが、劇場の幕は降り、終わりを迎える。
勇者が膝をついたのだ。
「勇者がダウンしたにゃ! 数日間も、食料も水もない牢獄にいてよく頑張ったにゃ。でも これでおしまいにゃー」
はあ はあ はあ はあ はあ……。
よろよろと立ち上がり高らかに告げる。
「聞け、人々よ。わたしはここで死ぬ。だが、わたしの意志はおまえ達の中で生きている。へこたれるな。後ろを向くな。心に勇気と誇りを持って生きろ。わたしが望むは、皆のしあわせな笑顔だ……さらばっ!」
細い首筋に、白銀の聖剣を――。
「勇者よ。もう一度チャンスをやろう――」
ピタリと動きが止まる。
「もう一度 我とゲームをしろ。このまま我が勝っても不完全燃焼だ。この様子では、人間どもすべてを絶望させることは できなかったようだしな」
「わたしの意志は伝えた。わたしの意志はいずれおまえたち魔族を滅ぼすだろう!」
覇気を纏った瞳をたずさえ、首筋に当てた聖剣を――。
「逃げる気か?」
「――っ!」
「魔王の挑戦から、まさか逃げる気なのか、勇者よ?」
あからさまな挑発と不遜な微笑みに、勇者は白銀の聖剣を魔王に向ける。
「いいだろう! 次こそ必ずおまえの魅了に打ち勝ってみせる!」
「面白い。
勇者と魔王は見つめ合う。
まるで愛し合う恋人のように熱く。
「た、大変なことになったにゃ……。また、この伝説的な戦いが見れると思うと喜びの極みにゃ。必ず見るにゃ。死んでもねこにゃんは、この戦いの結末を見届けるにゃ。魔王さまが勝つに決まっているけど、勝負の行く末は神のみぞ知るにゃ」
鎖に縛られた勇者が、サキュバス四天王によってコロシアムから連れ出された。
1人残された魔王がコロシアムの中央でまぶたを閉じると、スクリーンで実況配信をしていたねこにゃんの隣に姿が映った。
「あっ! 魔王さまが来たにゃ。どうでした、魔王さま? 戦いの感想は?」
「予想以上に勇者の奴が抵抗したな。勝ちはしたが、真の目的が達成できず不満の残る戦いだった」
「不満? 歴史上初めて勇者に魅了をかけたのにかにゃ? 魔王さまは謙虚にゃ。いや、ある意味 強欲にゃ」
「魔族ども。至らぬ戦いを見せたな。次こそ必ず我の目的を達成してみせよう。刮目して見よ。そして人間ども。貴様らも勇者の次の戦いを見届けろ。貴様たちの英雄の最後を見届けるのは、貴様らの義務だ。勇者の勝利を祈れ。そしてそれを我がへし折ってやろう。はっはっは!」
スクリーン上の魔王を、数千万の人間たちが睨んだ。
「そして魔王さまから『重大告知』があるにゃ」
「次の戦いまで皆 暇だろう? それまで我が余興を用意してやろう。これが今週の配信スケジュールだ!」
スクリーン上に映像が映し出された。
1日目 クイーンサキュバスとサキュバス四天王による雑談
2日目 サキュバス四天王VSクイーンサキュバスとの魅了ゲーム
3日目 ねこにゃんと魔王VSサキュバス四天王の格闘ゲーム大会
4日目 ねこにゃんと魔王の歌コラボ
5日目 魔王のエログロお絵かき配信
6日目 スライムプールでビーチボール大会
7日目 魔界統一腕相撲大会
「 皆 楽しめ 」
「では、魔王さま……いっしょに……」
「「 おつにゃ〜ん 」」
全世界の魔法スクリーンが一斉に プ ツ ン と消えた。
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