第4話 本物と偽物
――地下から出て、魔王の間にある 骨組みの玉座に座り、大きな溜息をこぼす。
「……どうすればいいの?」
彼女はあたしが知っているメルルじゃない。
――偽物。
本物に近いまがい物。
でも、その高潔なあり方は、あたしの心を激しく揺さぶった。
「 死のう……」
いいじゃないか。どうせ一度 死んだ命。彼女のために使っても。メルルを逃がし、魔王失格の烙印を押されて魔族たちに殺される。最低な人間である あたしにはふさわしい死に方だ。
騙して貢がせて、それをあたりまえだと享受する 度し難い人間だった。
生きてる価値なんてない。
けど―――
「ううぅっ」
涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
「 生きたいぃ……。死にたくないぃ……。あたしは幸せになりたいよぉ……」
純粋なあたしの気持ち。
この気持ちだけは嘘じゃない。
でも そのために誰かを犠牲になんてできない。
彼女を殺した先に、あたしの幸せは未来永劫おとずれないだろう。
あたしは悪にはなれない。あたしがなれるのはたった一つ。
「 配信すればいいにゃ 」
「ねこにゃん?」
いつのまにか使い魔のねこにゃんがあたしの前に立っていた。
「配信って、勇者虐殺配信?」
猫耳娘はにっこり笑い。
「vtuberねこにゃん。それが魔王さまの本当の名前にゃ♪」
いや、佐藤 真猫ですけど……まあいいか。
「なんでそれを?」
「ねこにゃんは、魔王さまの記憶を共有しているにゃ」
「じゃあ、初めからあたしが本物の魔王じゃないってことも?」
「にゃ♪」
「偽物だとわかっているのになんで?」
「ねこにゃんは、前の魔王さまが嫌いにゃ。疑い深く欲深く、いつも魔王を超えた存在になってやると息巻いていたにゃ。そしてねこにゃんを勝手に造って従わせて、魂の入れ物として、いつでもねこにゃんの自我を奪って自分の物にできるようにしているにゃ」
「とてもひどい魔王だったんだね?」
魔王を超えた存在……。女神が言っていたアレだろうか?
記憶も共有させていたのは、自分に何かあった時のバックアップ。道具としてしか見ていない。
「じゃあ、配信っていうのは?」
「べつに魔王さまが虐殺する必要はないのにゃ。vtuberねこにゃんの本領発揮にゃ♪ この身体を、『佐藤 真猫』ちゃんに託すにゃ」
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