第17話:男性恐怖症?
20××年4月28日(月):桃源郷
:幸徳井友子視点
「ありがとうございます、貴女は命の恩人です。
この命を捧げて恩返しさせていただきます」
気が付いた美青年が、小説の参考にしていたアニメの騎士礼と同じ態度を取る。
慣れない事をされて、直ぐに言葉が出てこない。
身体は治ったけれど、切り裂かれ血と泥に汚れた服が生々しく痛々しい。
そう思えたのは一瞬で、直ぐに悪臭に耐えられなくなった。
命を狙われ逃げ回っていたからしかたがないのだけれど、いったい何日お風呂に入っていないのかと思うくらい臭い。
【家の領主は初心で人見知りなの。
命の恩人だと感謝しているのなら、適度な距離感で接してくれるかな?】
スピーカー機能を強化したのか、普段私に話しているよりも大きな声で言う。
同時に、ロッテが入っているであろう家康君が割って入ってくれる。
「これは申し訳ない、身分有る令嬢に礼を失してしまいました。
これからは、適度な距離を開けて話させていただきます」
美青年が離れてくれたので、鼻が曲がりそうな悪臭が少しマシになった。
ロッテが人見知りだと言ってくれたので、ありがたく距離を取る。
風上に移動したいのだけど、それは無理そうだから、どんどん離れる。
【そうしてくれると助かるわ。
それでフランソワ王子、貴男を助け匿うお礼が欲しいんだけど】
王子、この臭過ぎる美男子は王子なの?
見た目は最高級の美男子だけど、臭いが残念過ぎるから激臭王子と呼ぼう。
「お礼をしたい気持ちはあるのですが、亡国の王子である私には、命の恩人に返せるのは真心と命くらいしかありません」
お礼なんていらない、真心も命もいらないから近寄らないで。
【王城や王領地を奪われても、フランソワ王子が生きておられる限り、国が完全に滅んだわけではありません。
何かあった時にフランソワ王子の名前を使わせてもらいます】
ロッテがとんでもない事を言っている。
私はそんな事望んでないのに、桃源郷仕様のロッテが暴走している。
「地に落ち泥にまみれた虚名で良ければ、幾らでも使ってください」
ロッテが色々と駆け引きしてくれている。
私も悪人が相手なら、男にだって強気に出られる。
善人や普通の人が相手なら、社交的にふるまえる、と思う。
だけど、こんな非現実的な美青年が相手では普通にふるまえない。
実写版の美男子程度なら、緊張しながらも普通にふるまえると思う。
でも、激臭残念王子だけど、アニメから抜け出てきたような超美男子が相手だと、普通に話せそうにない。
「ロッテ、王子様が臭過ぎるわ、お湯で身体と服を洗わせて。
あ、絶対ジャグジーには入らせないでよ、私が入れなくなる」
できるだけ小さな声で、肌身離さず持っているスマホのロッテに言う。
【残念だけど、王子様は着替えを持っていないのよ。
身体と服を洗っている間は、裸になるわよ】
「私は遠くに離れているから平気よ」
【でも、友子の性格だと、服が乾くまで裸でいろとは言えないよね?】
「そんなひどい事言わないわよ」
【そうなると、身体に合わないけれど、友子の着替えを無理矢理着せるか、バスタオルを巻いた姿で過ごさせる事になるのだけれど、それでいいの?】
「……この世界の服は手に入らないの?」
【この世界って、衣服がとんでもなく高いんだよね】
「……ロッテたちが殺したと言う刺客たちの服は?」
【血と泥とアカに塗れて、王子様の服以上に臭くて汚いわ】
「……買いに行く……王子の服を買いに行く!
それまで遠くのテントで休んでもらっていて」
【了解、5人で買い物に行きましょう】
「え、でも、王子1人を桃源郷に残してだいじょうぶなの?」
思わず両方の意味で聞いてしまった。
ロッテたちが全員桃源郷を離れてしまったら、キャンプ地を守る人がいなくなる。
王子を信じきれないのと、桃源郷の敵、両方が心配だった。
【忘れているのね、私たちの本体は各サーバーにいるのよ。
常に友子と一緒にいると同時に、桃源郷でも動けるの。
それに、桃源郷の私たちと日本にいる私たちは、別のサーバーの私たちなの。
スマホやタブレットに記憶させた情報を交換しているから、ほとんど記憶に齟齬がないけれぞ、情報交換できないと、桃源郷と日本の私たちで知らない事もあるの】
20××年4月28日(月):6人乗り2トントラック
:ロッテこと祖母の幸徳井栄子(かでいえいこ)視点
王子の不潔さがよほど嫌だったのだろう。
自動車の運転が苦手な友子が、都内に行ってでも王子の着替えを買うと言う。
幽霊から扶桑の覇霊へと進化した私たちは、生前以上に香りを感じられるが、その気になれば臭いや音だけを感じなくする事もできる。
桃源郷は基本不潔で、王子だけでなく追手も臭かったので、香りを感じ無くしていたのだけれど、友子の事をうっかりしていた。
大失敗だ、友子の婿候補に不潔の烙印をつけてしまった。
一番大切とも言える、第一印象が最悪になってしまった。
王子の印象を変える為にも、入浴と歯磨きのトレーニングが必要だ。
【友子、残念だけど、まだ自動運転3レベルの車が搬送されていないの】
「いい、激臭王子と一緒にいるくらいなら、苦手な運転を頑張る」
【だったら、車が搬送されてくるまで日本で寝泊まりする?】
「安全な場所があるの? 廃村で寝るのは嫌よ!」
【大きなマスクとサングラスがあるし、帽子を深くかぶったら、よほどの相手でない限り、友子だと分からないわ】
「……財閥の連中なら、ロッテ以上のAIアシスタントを使えるわよね?
金に糸目をつけなければ、日本中の監視カメラをハッキングできるわよね?
本当に、車が搬送されてくるまで安全に過ごせるの?」
【安全を最優先にするなら、監視カメラの無い所を選んで移動しないといけないし、寝泊まりするのも監視カメラの無い所に限られるわ】
「そういう場所があるのね?」
【1番安全なのは車中泊になるし、食事も持って来たパウチ保存食になるわ。
ただ、わずかな危険を冒すだけで、古い食堂をやってるお爺さんやお婆さんの温かい手料理が食べられるし、監視カメラの無いビジネス旅館や民宿に泊まれるわ】
「車が搬送されるまで何日かかるの?」
【友子が運転して取りに行くなら、十分な休憩を入れて24時間かからないわ。
ただし、高速道路も使う事になるわ。
100%の安全を前提に、こちらまで車を運んでもらうなら、同じように24時間だけど、安全な場所に隠れていなければいけなくなるわ】
「買い物して待つのは危険なのね?」
【わずかな可能性ではあるけれど、買い物している所を財閥に見つかったら、車の搬送を待っている間に、刺客に襲われるかもしれないわ。
買い物は車を手に入れるとほぼ同時に始めないと、僅かな危険が残るわ。
自動運転3レベルの車を手に入れた後なら、このトラックと併用する事で、逃げる手段が格段に増えるわ】
「どうするのか、しばらく考えさせて」
【もちろんよ、友子の命以上に大切なモノはないけれど、同じくらい友子の意志も大切だから、好きなだけ考えて】
友子の考えがどちらになろうと、最善の行動をしなければならない。
友子の意志も大切だと言ったが、命以上に大切なモノはない。
友子の意にそぐわない事をしてでも、命だけは守る!
そのために、友子の守護霊団を全員集合させた。
私たちとは少し考えが違う、同格の指導霊も無理矢理集合させて、友子を守るために強力しろと言った。
もちろん、私たちよりも霊格の低い補助霊は全員集めた。
最も霊格の高い先祖の守護霊が、友子を守る事を最優先して、消極的な指導霊に強く命じてくれたので、多くの守り手が集まった。
【友子を襲う者は容赦なく祟り殺すんだ、いいね!】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます