第八試合 全裸力士vs高熱力士
「第八試合開始」
第一回戦、最後の取り組み。
それは、地獄の釜の蓋が開いたかのような光景だった。
行司・虚空之守は耐熱服を着込み、さらにその上から「R-18」と書かれた目隠しを装着している。
見たくないのだ。物理的にも、倫理的にも。
「ひ、東ィ~……(嗚咽)……公然わいせつの具現化、不纏……不纏……」
「西ィ~……メルトダウン注意報発令中、核燃了……核燃了……」
ペタペタペタ。
東の花道から、だらしない足音が響く。
不纏だ。廻しがない。布面積がゼロだ。
彼が存在するだけで空間そのものにモザイクがかかったように視界が歪む。
「わしは風だ。わしは空だ。わしのイチモツもまた、大自然の一部に過ぎん!」
ブヨブヨの腹を揺らし、彼は土俵に仁王立ちした。
観客席からは「警察を呼べ!」「いや消防車だ!」という錯乱した叫びが飛び交う。
対する西の核燃了は足元のアスファルトをドロドロに溶かしながら入場した。
全身から放射される熱量は数千度。もはや立っているだけで周囲が発火している。
「俺様の熱で、その汚らわしい肉体を原子分解してやる! 見ているだけで目が腐りそうだァッ!!」
行司が目隠しをしたまま、やけくそ気味に叫んだ。
「待ったなし! 放送コード完全無視! はっけよォォォイ……のこったァ!!」
ジュウウウゥッ!!
核燃了が一気に距離を詰める。彼が通過した後の土俵はマグマのように赤熱し、空気はプラズマ化して稲妻を散らした。
「消えろ変態! 『臨界掌底(クリティカル・パーム)』!!」
触れれば鉄骨すら気化する灼熱の張り手が不纏の腹部へと迫る。
誰もが不纏の焼死を確信した。あるいは、焼肉になることを予感した。
だが。
「ぬるい! わしの羞恥心の欠如に比べれば、その程度の熱などサウナ以下よ!」
バチバチバチッ!
不纏は避けなかった。あえて腹を出した。
核燃了の手が不纏の腹肉に触れた瞬間、猛烈な勢いで「脂」が噴き出したのだ。
人間の限界を超えた皮下脂肪が超高熱によって瞬時に溶解し、大量のラードとなって全身をコーティングしたのである!
「なっ!? す、滑る!? 熱が……内部に伝わらねェ!?」
核燃了が驚愕する。
これは「ライデンフロスト効果」の最悪な応用だ。瞬時に沸騰した脂の蒸気膜が、核燃了の熱を遮断し、不纏の体を守っている!
ジュワワワワワ! という巨大な唐揚げを揚げているような食欲をそそる音が武道館に響き渡った。
「わっはっは! 最高だ! ちょうど揚げ物が食べたかったところだ! もっと火力を上げろ若造!」
不纏は全身を黄金色(こんがりキツネ色)に輝かせながら、ヌルヌルの体で核燃了に抱きついた。
「や、やめろ! くっつくな! 俺様の炉心が汚染される!」
「何を言う! これぞ男と男の裸の付き合い! スキンシップじゃろうがい!」
不纏は逃げようとする核燃了を脂ぎった両腕で強引にホールドした。
熱い。確かに熱い。だが、不纏にとって「服を着る苦痛」に比べれば全身を油で揚げられる苦痛など蚊に刺された程度に等しい。
「うおおおおお! 離せェェェ! 気持ち悪い! 生理的に無理だァァァ!!」
核燃了の精神(メンタル)ゲージが急速に削られていく。
自身の高熱が敵を倒すどころか「敵を美味しく調理してしまっている」という絶望的な事実。そして、目の前にあるドアップの中年男性の笑顔。
「さあ、共にイこうぞ! 涅槃の向こう側へ!」
「イヤアアアアア! 寄るなァァァ! セクハラだァァァ!!」
核燃了の胸部にある制御棒が精神的ショックにより誤作動を起こした。
プシュン……ヒュン……。
炉心停止(スクラム)。
あまりの恐怖と嫌悪感に、核燃了の体内原子炉が自己防衛のために緊急シャットダウンしてしまったのだ。
急速に冷却され、ただの「冷えた放射性廃棄物」と化した核燃了は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
その上にこんがりと揚がった全裸の中年が覆いかぶさる。
地獄絵図である。
行司が目隠しを外し、惨状を見て嘔吐しかけながら軍配を上げた。
「しょ、しょォォォ負ゥありィ!! き、決まり手ェ!!」
「高温猥褻(ディープ・フライド・ヌード)! 高温猥褻ゥ!!」
「ふぅ、一皮むけた気分だわい」
不纏は香ばしい匂いを漂わせながら立ち上がり、もはや誰も直視できないほどテラテラと輝く笑顔で観客席に投げキッスを送った。
悲鳴が歓声を上回る中、第一回戦の幕は混沌と共に下ろされた。
次の更新予定
鏖相撲・終焉場所(おうずもう・おわりばしょ) 不悪院 @fac
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