土俵入り 力士紹介

☆朱割津(しゅわるつ)

「対象の重心位置を解析完了。排除シーケンス、執行します」


【サイボーグ力士】

 全身機械化による演算相撲と内蔵兵器。


 テフロン加工された皮膚と、髷の形をしたレーダーアンテナ。


 ウィィン、ガシャン。重厚な油圧音と共に土俵へ上がったのは、鋼鉄の巨躯・朱割津だ。彼が撒いたのは塩ではなく、潤滑油を含んだ金属粉末だった。無機質なカメラアイが赤く明滅し、対戦相手をただの『処理すべき障害物』としてスキャンしている。その全身からは、生身の力士が持ち得ない冷却ファンの排気音が不気味に響いていた。




☆獏夢掌(ばくむしょう)

「あらあら、もう眠いのかしら? アタシの夢の中で、永遠に四股を踏んでなさいな」


【催眠力士】

 視線と吐息による強制催眠・悪夢の実体化。


 常に半目で、紫色の煙を纏ったような奇妙な着流し姿。


 ゆらり、ゆらりと重力を無視したような足取りで獏夢掌が現れると、観客席の意識すら朦朧とし始めた。彼が纏う甘ったるい香の匂いは、吸い込んだ者の平衡感覚を奪う。その瞳には螺旋模様が浮かび、対峙するだけで世界が歪んで見えるようだ。土俵の上が、いつの間にか極彩色の花畑に見え始めたなら、それはもう彼の手中にある証拠である。




☆岩力道(いわりきどう)

「俺は相撲を取る。ただそれだけだ」


【力士】

 正統派相撲の力士。


 歴戦の傷跡が残る、ごくごく普通の、しかし極限まで鍛え上げられた肉体。


 周囲を見渡せばサイボーグに妖怪、果ては全裸の中年。そんな魔境において、岩力道だけが唯一、地に足をつけた「力士」としてそこに立っていた。飾り気のない黒の廻しを締め、柏手を打つその音だけが、ここが神聖な土俵であることを思い出させる。だが、その瞳に宿る覚悟は、異能の怪物たちをも圧するほどの静かな闘志に燃えていた。




☆決芽丸(きめまる)

「あははァ! 俺ェ! 力がァ! 溢れてェ! 止まんねェェエ!!」


【ドーピング力士】

 体内を巡る七色の劇薬による瞬間的な身体強化。


 全身に点滴チューブが刺さり、目玉が飛び出しそうなほど血走っている。


 痙攣しながら土俵に這い上がった決芽丸の背中には、極彩色の液体が入ったタンクが直結されていた。ポンプが脈打つたびに筋肉が異常な膨張と収縮を繰り返し、血管が蛇のように肌の下をのたうつ。口から絶えず泡を吹き、定まらない視線で虚空を睨むその姿は、スポーツマンシップなどという言葉を薬液で溶かし尽くした狂気そのものだ。




☆覇王(はおう)

「頭が高い。余を見下ろしてよいのは、天のみぞ」


【最強力士】

 王気による重力操作と絶対防御。


 金糸で刺繍された化粧回しと、物理的に発光するオーラ。


 彼が歩くだけで、土俵の土が恐怖に震えるようにひび割れていく。覇王。その男は、対戦相手を見るまでもなく、悠然と腕を組んで仁王立ちしていた。背後には後光のような黄金のオーラが立ち昇り、凡百の力士ならばその威圧感だけで土下座させられてしまうだろう。まさに、この世の頂点に座るべくして生まれた、絶対王者の風格である。




☆舌(ぜつ)

「へへっ、旦那。ここはひとつ、あっしの勝ちってことで手を打ちやしょうや」


【八百長力士】

 審判買収、ルール改変、隠し武器の交渉術。


 痩せこけて猫背、常に揉み手をしている卑屈な男。


 戦う前から行司に何やら耳打ちし、袖の下に茶封筒をねじ込む男、それが舌だ。ひょろりとした体躯は一見弱そうだが、その廻しの裏には無数の契約書と凶器が隠されているという噂が絶えない。卑しい笑みを浮かべながら、彼は常に抜け道を探している。まともにぶつかり合うことなど、最初から彼の辞書には存在しないのだ。




☆弁慶(べんけい)

「オレっちの相撲は、ちいとばかり派手だぜ? 千本目の獲物はアンタだ」


【武器力士】

 廻しから無限に湧き出る重火器と冷兵器。


 背中にロケットランチャー、腰に日本刀を差した世紀末スタイル。


 「武器持ち込み禁止」というルールなど、彼にとっては紙屑同然だ。弁慶はサングラスを輝かせ、土俵入りと同時にアサルトライフルを構えた。背負った巨大な鉄扇とミサイルポッドがガチャガチャと音を立てる。力比べ? 技の応酬? 否、彼がこれから始めるのは、土俵という名の戦場で行われる一方的な殲滅戦である。




☆最鬼区八世(さいきっくはっせい)

「僕の『絶対領域サイキック・フィールド』に触れられるとでも思ったかい?」


【念動力士】

 念動力サイコキネシスによる遠隔攻撃。


 学ランを羽織り、片目を眼帯で覆った美少年。


 彼は土を踏んでいなかった。数センチ浮遊した状態で、優雅に腕を組んでいる。最鬼区八世にとって、肉体労働など野蛮人の所業らしい。眼帯の下に封印されし魔眼(と本人が主張するもの)が疼くとき、触れることなく相手を吹き飛ばす超常の力が発動する。中二病全開の難解な言葉を呟きながら、彼は冷ややかな視線で対戦相手を見下ろした。




☆金成木(かねなりき)

「わたくしの前では、勝利すらも購入可能な商品に過ぎませんわ」


【富豪力士】

 札束による物理攻撃と、金の力による因果律干渉。


 ダイヤモンドを散りばめた純金の廻し、指には大量の指輪。


 ジャラジャラと不快な金属音を立てて現れたのは、歩く貴金属店こと金成木だ。彼が撒いたのは塩ではなく、最高級の宝石だった。従者たちが扇子で彼を仰ぎ、本人は葉巻をくゆらせている。相手の張り手すらも「これで痛くしないように」と札束でブロックするその戦法は、資本主義の豚と罵られようとも揺るがない、圧倒的な財力の誇示であった。




☆木星(じゅぴたぁ)

「オデ……ツブス。オマエ……チイサイ」


【巨体力士】

 規格外の巨大化と質量攻撃。


 身長5メートル超。見上げるほどの肉の壁。


 ズシン。ズシン。日本武道館の基礎が悲鳴を上げた。木星が入場すると、照明機材が彼の頭にぶつかり火花を散らす。あまりの巨体に、遠近感がおかしくなったかと錯覚するほどだ。知性は感じられないが、その圧倒的な質量は、小細工など一切通じない絶望的な壁となって立ちはだかる。彼はただそこに在るだけで、災害レベルの脅威なのだ。




☆血死吹(ちしぶき)

「……殺……ジュ……呪って……ヤる……」


【怨霊力士】

 呪詛による弱体化とポルターガイスト現象。


 長い黒髪で顔が見えず、足元が半透明に透けている。


 場内の気温が急激に下がった。どこからともなく赤子の泣き声が聞こえ、スポットライトが明滅を繰り返す。血死吹が立つ場所だけ、土俵が腐敗した沼のように黒く染まっていた。生気のない青白い肌、ボロボロの白装束のような廻し。これは試合ではない。除霊だ。対戦相手は、物理的な攻撃よりも先に、正気度を削り取られる恐怖と戦わねばならない。




☆猩々山(しょうじょうざん)

「ウホ。(力とは何か、その問いの答えを君に授けよう)」


【ゴリラ力士】

 野生の怪力と、人間を超越した哲学的思考。


 完全にゴリラ。どう見てもマウンテンゴリラ。


 四足歩行でドラミングをしながら現れたのは、霊長類最強の生物、猩々山だ。観客は「なぜゴリラが?」とざわめくが、その瞳には理知的な光が宿っている。野太い咆哮とは裏腹に、その立ち振る舞いは武道の達人のように洗練されていた。野生の暴力と高度な知性が融合したこの獣に、人類の常識など通用するはずもない。




☆無限鉄(むげんてつ)

「我らは一人にして多数。逃げ場など、最初からないのだ」


【分裂力士】

 細胞分裂による分身と波状攻撃。


 輪郭が常にブレており、残像が見えている。


 一人の力士が土俵に上がったかと思えば、瞬きする間に二人に、四人にと増殖していた。無限鉄。その存在は個にして全。互いに意思疎通するまでもなく完璧な連携を見せるその群れは、さながら肉の津波だ。どの個体が本体か? そんな問いは無意味だ。全員が本体であり、全員が同時に襲いかかってくるのだから。




☆蜃気楼(しんきろう)

「不明。そこはすでに、虚無である」


【幻影力士】

 実体を消し去るステルス能力と幻覚。


 陽炎のように揺らめき、背景が透けて見える。


 アナウンスが名前を呼んでも、土俵には誰もいないように見えた。だが、目を凝らせば空気が歪んでいるのが分かる。蜃気楼は、存在感を極限まで希薄にすることで認識の死角に潜り込む。攻撃しようにも手応えがなく、気づけば背後を取られている。実体があるのかさえ定かではないこの男との取組は、影絵と戦うような不毛さと恐怖を孕んでいた。




☆不纏(ふてん)

「わしに隠すものなど何もない! ありのままを受け止めよ!」


【全裸力士】

 羞恥心を捨て去ったことによる精神汚染攻撃。


 廻しすらつけていない全裸の中年男性。(モザイク不要の不潔さ)


 悲鳴が上がった。観客の半分が目を覆い、残り半分が嘔吐した。不纏、その男は神聖な土俵に素っ裸で仁王立ちしていたのだ。だらしない腹、体毛、そして脂ぎった肌。相撲のルール以前に、公然わいせつ罪で逮捕されるべき存在。だが彼は堂々としていた。「服など拘束具だ」と言わんばかりのその開放感は、見る者の精神を蝕む最強の精神兵器と化している。




☆核燃了(かくねんりょう)

「俺様が触れれば万物は灰だ! 燃え尽きろォオオオ!!」


 体内原子炉による超高熱放射とメルトダウン。


 外見: 皮膚の割れ目から灼熱の光が漏れ、周囲の空気が揺らいでいる。


 ジュウウウゥッ! 彼が足を踏み出すたびに、土俵の土がガラス状に溶解していく。核燃了の体温は常時数千度。もはや人間というより、人の形をした原子炉だ。彼に組み付くことは、すなわち死を意味する。熱波で周囲の酸素すら焼き尽くすこの男は、勝利への渇望だけで暴走し続ける、止まることを知らないエネルギーの塊だった。

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