白銀のアリシア

朝霧 露

第1話「長い夢」

――耳を裂く金属音。


キィィン! ガァン! キン――!


赤い炎と黒煙が渦巻く戦場。

地鳴り、怒号、閃光。

その中心で――紅い輝きを纏った女が剣を掲げた。


「我が王国に――永遠の勝利を!!」


紅蓮の剣姫、アルマ・フレイヴァン。

その叫びに、呼応するように、騎士団が咆哮を上げる。


「「オオオオオッ!!!」」


騎士たちが大地を震わせながら突撃する。

炎と鋼が交錯する戦場の上空――

淡い青白の髪を揺らしながら、ひとりの少女が静かに舞い上がった。


風に触れた髪と瞳が淡く光り、

氷の粒子のような輝きが周囲に散る。


大気を震わせるほど膨大で純粋な魔力が――

柔らかな光となって少女を包んでいた。


《剣聖》アリシア。


彼女は前へ両手を掲げた。

空間が軋み、冷気が渦巻き、光が収束する。


巨大な氷塊が形成されていく――

星の欠片のように輝く、膨大で圧倒的な魔力の塊。


その頬を――

ひと粒の涙がつたった。


氷塊は戦場全体を照らし、

一瞬、世界が凍りつく。


そのとき。


「アリシアぁぁッ!!」


怒気に満ちた叫び。

男が地を蹴り、剣を振り上げ、空へ跳び上がる。

一直線にアリシアへ――。


アリシアの瞳がその姿を捉え、

目が大きく見開かれる。


氷塊がわずかに揺らぐ。剣が届く寸前の距離。


その瞬間、視界がふっと暗転した。

戦場の情景が途切れ、断片だけが霞のように流れ去っていく。


魔力は底を尽き、

剣を支える力ももう残っていない。

戦場の喧噪が遠のいていく。


少女は――闇のような静寂へ落ちていった。


* * *


――そして。


「…………」


アリシアは、静かに目を開いた。


木製の天井。

淡く差し込む陽光。

小川のせせらぎが静かに流れる、山奥の小屋。


布団をそっとめくり、

木製のベッドにゆっくりと腰を下ろす。


「……ここは……?」


かすれた声は小さく、静かだった。


木の床を踏むやわらかな足音と共に老女が姿を現した。


「……ようやく……お目覚めになられましたか、

 剣聖様。」

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