踊ってから死ね
@AsuAsaAshita
最後
これが最後、最後になってしまうのかな。
壊れた体育館で踊る僕を誰かが見ていた。
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ほんの数日前眠っていた僕は起こされた。
夢を見ているのだろうとその時は考えた。
布団の下で地面が波みたいに唸っていた。
地面が、世界が揺れたかと思えば、家が
倒壊して僕は放り出された。家は消えた。
僕は歩いた。ずっと歩いて歩いて限界が
きてもずっと歩いていた。みんな嘆いて
叫んで慟哭して、まるで絵の中みたいだ。
色も音も、少しずつに無くなって行った。
確か体育館が避難所になっていたはずだ。
そこまで歩かなきゃ、行かなきゃだめだ。
体は冷たい。ずっと前から冷え切ってる。
家族は多分そこにいる。僕を待っている。
途中に、校庭に集まる人たちの列を見た。
泥だらけの手で顔を覆う大人たちそして
何が起こったのかわからず空を見る子供。
膝から崩れ落ちた。体育館は崩れていた。
あんなに頑張って歩いたのに。あんなに。
ステージの上に何人か人が集まっていた。
灯りはなく割れた窓からの薄明かりだけ
人影を淡く、薄暗く、人を照らしていた。
僕の家族もいた。怪我してるけど、でも
みんな生きててくれた。涙が溢れそうだ。
みんな会いたかった。頑張ってよかった。
家族は泣いていた。どうしたのだろうか。
そこには僕の体が寝ていた。死んでいた。
思い出した。僕は、瓦礫に頭を潰されて
死んでいた。遺体を母が背負って行った。
僕は生きていなかった。思い出した途端
体が震えてきた。もう逝こうとしている。
体育館の隙間風が僕の体をすり抜けてる。
誰の影も踏めなくなっている。僕の影も。
家族みんなに声をかけた。ここにいるよ。
ここに来たよ。ここまで来たんだよ。僕。
僕は体の終わりを察知した。もう眠たい。
僕は踊った。前から練習していた踊りだ。
体は軽く瓦礫の上でも冷たい床の上でも
踊りだけはまだ僕として繋ぎとめていた。
家族が、お母さんがお父さんが他の人が
僕を見た気がした。何故かは分からない。
でも、もしかしたら気づいてくれたかも。
踊ってから死ね @AsuAsaAshita
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