第33話
ヴァイオリンのアレンジも完成し、手直しした曲のデータをメンバーみんなに送る。
これからスタジオでも練習して完成度を上げていかないと。
しかし、本番までの期間を考えるとあまり時間がない。
かなり厳しいとは思うが、なんとか一週間で仕上げてもらえれば……。
そのことを神宮司さんに伝えると、
「一週間?……三日で仕上げて見せますわ」
神宮司さんは、にやりと笑みを浮かべそう言い放った。
ヴァイオリンが入るとなると、同時に天音のギターアレンジも少し見直さないといけなかった。
曲のデータは送ってある。天音なら問題ないだろうと思ったのだが。
「三日!?無理ですよぉ……」
……こっちはかなり心配だった。
そして、ヴァイオリンが入った2回目の練習
神宮司さんは今日も早めにスタジオに来ていた。
「おはよ」
「おはようございます」
アレンジはどうだっただろうか、まあ半分以上は一緒に作っていた。
おそらく完璧に仕上げてきているだろう。
天音に関しても自信はなさそうだが、絶対に仕上げてきている。
今日の練習はすごいものになる、俺は確信していた。
「お、おはようございます」
天音がいつもの通り、少し自信なさげにやってきた。
また美容室に行ったのだろう、またもや妖精になっていた。
そんな天音をいじっていると、灯火と未来もやってくる。
「よし!みんな揃ったな!じゃあ、練習始めるとするか!」
練習室に入り、各自セッティングを始める。
神宮司さんは少し緊張しているように見えた。
演奏ができるかではなく、みんなに受け入れられるか、それが心配なのだろうと思う。
そしてみんなの準備が整った。
「じゃあ、一曲合わせてみますか!初めは天音ソロのやつね!」
天音がはいっ!と言いながらギターを鳴らしだす。
そして、未来の声が響き渡る。
次の瞬間、俺もびっくりしていたのだが、メンバーみんながさらに驚いていた。
神宮司さんの音が自然になじんでいるのだ。
曲の雰囲気を壊さないように、それどころかきれいな音色が曲の中に自然に入ってくる。
いい感じ。俺は手ごたえを感じていた。
次はギターソロが来る。……と、神宮司さんが脇役に回る、そして天音の音色がより一層輝く。
そして、曲が終わった。みんなぽかーんとしている。
「……このまま、他の曲もいっちゃおうか」
俺はそういうと、別の曲も練習を始める。
一旦、休憩にしようか、そう思った時に未来がテンションを上げて声をあげる。
「すごい、すごい!なんかすごいですよ、雪兎センパイ!」
俺たちの音に神宮司さんが加わった、以前よりも音が厚い。
やっぱり打ち込みとは比較にならない、生の演奏。
灯火も天音も、その音に驚いているようだった。
俺が寝る時間を削ってまで考えたアレンジだ、もっと驚いてくれ。……まあ、神宮司さんにも手伝ってもらったんだけど。
初めはどこかぎこちない感じもあったが、練習を続けているうちに、俺たちは確かに手ごたえを感じていた。
バンドをやっていると、なにか全てが噛み合った、そう思えるような感覚になる瞬間がある。
これでツーマンライブいける。俺はそう確信したのだった。
一旦、休憩しようと言って、休憩スペースに行くことにした。
そこで出来たばかりの、ヴァイオリンをメインにおいた新曲をみんなに聴かせる。
するとデモを聴いている灯火が心配そうな顔になる。
「これ……かなり難易度高くない?」
だが、俺は神宮司さんに問いかける。
「できるよね?」
「……誰に言っているんですか?」
神宮司さんはにやりと笑う。
この子なら必ずできる、そう思って曲を作った。ヴァイオリン部分はかなり難しい。
だけど、この子なら絶対に俺の想いに応えてくれる。
そう思ったからの曲だ。これが形になればきっと楽しい、俺はそう信じている。
それからはひたすらに練習だ。平日でも遅くならなければ、みんななんとか大丈夫だそうだ。
スタジオで空いている時間があれば予約しておいた。
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