ミテコウモン

超町長

第1話

 通勤のため駅に向かう途中。あんなところに信号を渡ろうとする大荷物のおばあちゃんがいるぞ。これは人を集める必要がある。近くにいた人たちに声をかける。

「すみません、通勤中悪いですがちょっと待ってもらっていいですか」

「なんですか?」

「学校行く途中悪いけどちょっとここでお待ちいただけませんか?」

「遅刻しそうです...」

「すみません、ちょっとそこの信号で...」

「今急いでるので」

「坊や、そこの信号で待っててくれ」

「おじさんなに?」

「おじいさんちょっと信号のところにいてくれませんか」

「え?」

...。

よし。役者は揃った。信号が青になった。

「おばあちゃん、お荷物お持ちしますよ」

「本当かい?ありがとうねえ。ここは信号が変わるのが早くてねえ」

荷物を持って渡り始める。おばあちゃんの歩みはゆっくりで4分の3ほど渡ったところで信号が点滅し始めた。さっき呼んだ人たちは横断歩道の向こう側で待っている。程なくして渡り終わった。おばあちゃんに荷物を返す。

「なんだか申し訳ないねえ。助かったよ、ありがとう」

「お安いご用です」

横断歩道の向こう側に戻って言う。

「皆さんもありがとうございました!」

「おじさん偉い」

「もういいんですかね?それじゃ私はこれで」


 朝食はつき家でエンペラー牛丼。出勤前で忙しなく牛丼をかきこむサラリーマンが多く朝セットなどを注文する人が多い。ちなみに俺もこれから出勤なのでこれを並の早さで平らげる。


 仕事からの帰り道、たまたま俺のことを見たらしい小学生の会話が聞こえてきた。

「今朝そこで見たよ、ミテコウモン。信号のとこで人集めておばあちゃんの荷物運んでた」

「マジ?気をつけた方がいいね」

「うん。先生に言った。警察に報告するって」

ミテコウモンというのはおそらく俺のことだ。甘いな小学生たち、警察は市民の味方。従って市民の味方の味方である私の味方なのだ。


 翌朝。今朝はゴミ拾いをするとしよう。

「ちょっとお時間よろしいですか。ゴミを拾うので」

「ちょっと予定があって」

「ほんの数分ですので」

...。人数は集まったな。

「ではゴミを拾うのでついてきて下さい。はい、そこ帰らないで」

協力的な人もいれば不満を漏らす人もいる。

「あそこにもレジ袋がありますよ」

「ついていく必要はないのでは?」

「ちょっと恥ずかしいわ」

少しして袋一つがいっぱいになった。ゴミ拾いを終えることにした。

「それではみなさん、この辺で」

感想は様々だが概ね感謝されている。

「終わったんですか?ではこれで」

「なんだったんだ」

「ゴミ拾いありがとうございました」

「偉いとは思いますよ」


 夕方、スーパーの鮮魚コーナーにて。刺身などが入ったトレーのラップにこっそり穴を開けている輩を発見。このチャンスを放っておく手はねえ。早速人を集める。

「ちょっといいですかあそこを見て下さい」

「あらほんとね」

「ほらあそこ」

「ほんとだ...」

...。俺の後ろには10人足らずのエキストラ。いざ。

「すみません、あなたラップに穴を開けていますよね」

「わ、びっくりした。ひ、ひぃぃぃぃ」

店員さんが前に出る。

「失礼ですが、ちょっと来ていただけますかね」

これにて一件落着。


 翌朝。いつもの駅近くでゴミ拾いをする人影が。ゴミ拾いの日なのかと思って見ていると

「意外とゴミって落ちてるものだな」

「見ているよりはやった方がいい」

どうやら自主的にやっているようだ。人がやってるから自分はやらなくていいと思う人もいるだろう。しかし俺がそうとは限らない。もう一つ見落としがある。ゴミを拾っていれば見なくていい訳ではないということだ。

「お取り込み中のところ失礼します...」

「ゴミ拾うんですよね?もう拾ってるからよくないですか」

「でも、です。お願いします」

「え〜」

...。今回も良かった。ところが少しすると警察官が来た。

「ちょっとお時間いいですか。先ほどこの辺りの方々に声をかけていたと思うんですけど...」

「ゴミ拾いをする際に少しの間お付き合いいただいたまでです。やっていることはそこまで悪いことではないですよね」

「そうは言われましても、やめてほしいという方がいらっしゃいまして。このまま続けられると注意では済まなくなってきてしまうので」

「わかりました」

残念だが次回から場所や時間を変えるしかあるまい。仕事へ向かわねば。


 夕飯はステーキだ。肉こそ我が活力。

「いらっしゃいませ。おひとり様ですか」

「そうですが4人席でお願いします」

「かしこまりました。1名様です」

席に着きメニューを見る。今日は、これにするか。さっそく店員を呼ぶ。

「ワイルドステーキセット4人前ください」

「ワイルドステーキセット4人前ですね」

一人のための料理がテーブルを占めるこの光景。

「ごちそうさまでした」


 その帰り。仕事で遅くなってしまった。辺りに人も見当たらない。そこにおばさんが一人。手が滑ったのか袋の中身が散乱して果物がいくつもコロコロ転がっている。善行の際にはオーディエンスはいた方がいい。今から集めるか?少し迷ったが

「これ落ちてました」

落ちていたみかんやりんごをいくつか拾って差し出した。

「あら、ありがとうね〜。みかん買いすぎちゃったから一個よかったら持っていって」

「いや〜どうもすみません」

よかった、オーディエンスはおばさん一人と少なかったが。


 翌朝。今日もゴミ拾いをしてる人がいるな。それだけでなく人を集めてゴミ拾いを見せてる人もいるな。人を集めてゴミ拾いを見せている人がいる!?あれは同じ志を持つ者というよりパクリか、タイミング的に。新しい扉を開いてしまったか。しかし茨の道だぞ。

「人を集めるのはおすすめしませんよ」

「なんでですか?」

「いや、この前呼びかけをして警察に注意された人を見かけたもので」

「そうだったんですか、注意ありがとうございます。気をつけます」

まぁ老婆心というやつか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミテコウモン 超町長 @muravillage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ