枕にて踊る

秋野 公一

第1話

私は、純愛がわからない。

 男と女が出会って好きになって枕を交わしてとか、全くそんなものは知らない。

 もし純愛知っていて、今は彼氏や彼女と仲良く暮らしているのであれば、君はこれを読まなくていい。

 さて正直に告白しよう。

 寒い夜。雪が降り頻るあの日。

 私の初夜は三人だった。

 僕と僕の自称親友と、学年一のあばずれ。

 僕はその当時、好きな女の子がいた。

 いたものの、僕の女の子にはならなかった。 違う男と枕を交わし、文字通りの女になった。 

 僕はむしゃくしゃしていたし、だからと言って女を力づくで弾き倒せるほどの腕力もない。

 僕の親友は彼女と別れて、それ以来もんもんとした日々を過ごしているようだった。

 学年一のあばずれは、記すまでもないだろう。読者各位の学年にも一人ぐらいは、誰とでも寝る女がいたに違いない。

 そんな心の傷ついた男と女が集まった。

 最初はカラヲケでお互いに知らぬ歌を歌い、次第にホテルへ行く流れとなった。

 国道沿いの今はなきホテル。

 私は部屋にたどり着くまでに、心臓の鼓動が聞こえた。

 耳の奥からアップテンポな心拍数がビートを刻み、僕の股間は膨らんでいた。

 僕と親友、そしてその彼女は三人でホテルに入った。

 僕が緊張でベッドに腰をかけていると、ニタニタ薄笑いを浮かべる君の悪い親友とあばずれがシャワー室に消えていった。

 僕は今後の流れを考えながらも、何もわからなかった。

 僕は童貞だったから。

 二人がシャワー室から出てくる。

 事を済ませた様子は全くない。

 僕は一人でシャワーに入る。

 二人が流した汗をおもう。

 僕はシャワーを出ると、すでにドンパチが始まっていた。

 僕が数年後に見る東ティモールのそれとよく似ていた。

 ゴムをつけずに腰を振る親友は、何か滑稽だった。

 疲れた親友はぐったりと横たわり、僕の番になった。

 満願。僕は穴の位置を詮索し、痺れを切らしたあばずれが、僕の僕を掴んで穴に挿れた。 

 申し訳ない。本当に。最低で正直に言おう。

 あまりに気持ち良くなかった。

 初めての快感はあったものの、思い描いていたようなものではなかった。

 青空をキャンパスに絵を描くようなものだろうか。 

 人は自分の知らないものに憧れる。

 若きイカロスのように。 

 私は蝋の翼で、快感の向こう側に辿り着こうとした。

 ただ高すぎた理想が僕を太陽まで近づけて、イカロスよろしく墜落してしまった。

 私の名誉にかけて言おう。

 中折れなどしていない。

 ただし絶頂に至ることはついぞなかった。

 ぐったりとして羅生門の婆の如く動かなくなった親友を尻目に、2回戦に挑んだ。

 やはり出なかった。

 好きなあの子がチラついて。

 僕はクズだ。

 僕が腰を一生懸命にヘコヘコふっていると、彼女が一言言った。

 ーあの子としたかったんでしょ。ー

僕は呆然とした。

彼女の膣から僕の僕を抜いた。

ゲンナリとした僕は、朝まで眠ることにした。

朝が来て、親友は一足先に帰った。

僕は、彼女を見送った。

僕は一連のことを思い出し、少し切ない気分になった。

僕が下手に腰を振ってる最中に、彼女が絶頂しているのだとしたら。

僕は眩しい日差しに目を細る。

春の木漏れ日が、木々の間から差し込んでいる。

僕は暖かな風に心を許し、緑道沿いのベンチに静かに腰をかけた。

好きなあの子を諦めて、あばずれを抱いた罪深い男の朝にしては、随分と穏やかだった。

小鳥が囀り、僕は少しだけ口角を上げた。

 

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