第17話 遅かれ早かれだったので、もういいです……
「学級委員として、これから頑張ってまいりますので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
(パチパチパチッ!)
俺の無難な自己紹介に拍手が湧く。
「ちゃんと礼儀正しい男の子っていいね」
「うちのクラスの男子は、女子を汚物を見るような目で見てくるからな……」
「私3年だけど、クラスの男子に『どけ』としか話しかけられてないよ」
「節子……それ会話ちゃうからな」
「いや、2組でも神レベルの男子とか、マジで今年の1年羨ましい」
「……今から、留年できないか切実に悩んでるんだけど」
みんな盛り上がってるな。
ただ、それ以上に盛り上がってるのが。
「しかし、1組の晴飛きゅんはヤバいわ」
「恥ずかしがりながらも一生懸命に自己紹介しようとしてたのが伝わってきて良きでした……。これだけで1か月は戦える」
「今年の1年は1組の子が特にヤバいって聞いてたけど、ようやく意味がわかった」
「いち早く晴飛きゅんの事知れて良かった。あわよくば学級委員会議で晴飛きゅんから、先輩の私を認知してもらえるかもしれないんだよね」
「面倒だけど学級委員になって良かった」
「あんな、ショタっ子で性格も良い男の子とか、完全にラノベの世界から飛び出てきてるじゃん」
「あんな女の理想を煮込んで煮込んで煮凝りにしたような男の子が現実にいるとは……」
「1年1組の奴が部活の後輩できたらイジメよう」
我らが主人公の晴飛は、先輩のお姉さまたちにも大人気な模様。
一方。
「なんだよ……なんなんだよ……同じ学校の同じ1年なのに、なんでこんなに差があるんだよ……」
「うちのクラスの男子は、いまだ姿すら見た事ないのに、1組2組はあんな素敵な男の子がいる青春とか……。ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう……絶対クラス上がってやる」
1年生の他クラスの学級委員の子たちは一様に俯き下唇を噛んでおり、中には唇から出血してる子もいた。
形相がまるで、親の仇を見るようなそれである。
「血出てるよ大丈夫? テイッシュどうぞ」
「え? あ、ありがと……好き……」
手持ちのポケットテイッシュを分けてあげたら急速に彼女たちも落ち着いたが、今度は胸をおさえて苦しそうだ。
早く唇の血を拭いた方がいいよ。
「橘君は本当に色々と……」
「え、何? 多々良浜さん」
「いえ、遅かれ早かれだったので、もういいです……」
呆れたような多々良浜さんが深くため息をついた。
◇◇◇◆◇◇◇
「ただいま~っと」
学校が終わり、一人暮らしなので誰もいない部屋に帰るのは前世でもこの世界でも同様。
───昨日は夜更かししたから眠いな……。もう寝ちまうかな。
昨晩は秘密の部屋を見つけてしまった興奮で寝付けなかったからな。
風呂もメシも、朝に起きたらやろう……。
そう思いながら、ベッドに身体と意識を沈ませる。
───しかし、学校行っている間は忘れてたけど……。
寝返りをうつようにして、俺は例の秘密部屋のある壁の方を見やる。
今はまた、一見すると普通の壁にしか見えない状態に戻っている。
昨晩は、どうやって秘密扉を戻すのか四苦八苦した。
───なんで、貞操逆転ゲームの友人キャラにあんな武装が必要なんだよ……。
考えても分からん。
何やら、晴飛の周りの事を調査しているようなので、とりあえず今日はお助け友人キャラを意識してみたが。
これから一体、俺はどう動くべきなのか?
とりあえず、女の子と仲良くはしゃぐのは、今後控えた方がいい……のか?
悩みは尽きないが、昨晩の夜更かしによる眠気が限界で、意識が沼に沈んで……。
(ピンポ~ン♪)
「なんだ?配達か?」
寝入りばなを邪魔された俺は、ボヤキながら玄関のインターホンへ向かう。
このマンションはオートロックなので、1階フロアで部屋番号を押して呼び出しをするのだ。
寝ぼけた目をこすりつつ通話ボタンを押し、モニターに表示された相手を見やる。
「…………何してるの? エッちゃん先生」
「来ちゃった♡」
来客は、まさかの担任のエッちゃん先生で、一気に意識が鮮明になる。
え、なんで俺の家のマンション訪問してるの?
「今日は家庭訪問の日でしたっけ?」
「昨日、『俺の家に来て家の事をやれ』って言ってたでしょ? だから私、今日は1時間休取ったんだ」
そういや、帰りのホームルームが終わったら、急いで駆けて行ったな。
あれは、有給休暇を取ってたからか。
「という訳で、家に上げてくれ橘」
「え、それは……」
若い女教師が一人暮らしの自分の家に来るというのは、正直シチュエーション的には大好物だ。
だが、俺の家には見られると確実にまずいものがたくさんある。
銃とか、銃とか、銃とか。
自分自身もまだ、自分の部屋の事をよく分かっていない状態で他人を部屋に入れるのは憚られた。
「ひょっとして……。橘は今日は都合悪かったのか?」
俺が逡巡しているのを敏感に察知し、エッちゃん先生が沈んだ顔をする。
「いや、そういう訳では……」
「そうだよな……。いい歳して、私は何を舞い上がっていたんだろうな……」
う……。そう言われると、前世ではサラリーマンだった俺としては心が痛い。
つい、この後のエッちゃん先生の事を想像してしまう。
ウキウキで有休を取ったのに俺に門前払いされて、トボトボと家に帰るエッちゃん先生。
一人暮らしの部屋がいつも以上に寒々しく感じて……。
あかん……。
可哀想すぎる……。
「……散らかってる部屋ですがどうぞ」
「え⁉ い、いいのか⁉ ワ~イ♪」
部屋に上がるのを了承する返事をすると、モニター越しのエッちゃん先生は子供のようにはしゃいでいた。
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成人してる女教師と中身アラサーな主人公なら問題ないよね(ゲス顔)
おかげさまで、ラブコメ日間、週間1位。総合でも日間4位、週間5位をいただきました。ありがとうございます。
引き続きお付き合いいただける方は、フォロー、★評価よろしくお願いします。
そして、書籍第1巻が発売中でコミカライズ企画進行中の
『電車で殴られてるイケメン男子高校生を助けたら女子高の王子様だった件』も
3章の更新中なので、是非こちらもどうぞ。
【書籍情報】
https://kakuyomu.jp/users/maiyo14/news/822139838938771759
【連載ページ】
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