推理アイデア04

@1o27

第1話 未完成の論理パズル

※登場人物

 ・雅 有珠(みやび・ありす)

 ・三井 幸(みつい・こう)


※以下本編

↓↓↓


予備校からの帰り道。


幸は、同じく電車に揺られている有珠へと話しかける。


「よしじゃあ、次の問題だ」


有珠は鬱陶しそうに、視線を横に向けた。


「…いい加減しずかにね」


それじゃあ、と、幸は小声で言う。


「……じゃあ…次の……もんだーい……」


その声は、消え入りそうなほど静かだ。


──しかし、有珠は言った。


「別に周りに迷惑だから言ったんじゃないの。“私が迷惑している”と、言いたかっただけ」


幸の表情が深く──どこよりも深く、沈んでいく。


「……わかった。話してみて」


流石に居た堪れなくなったのか、有珠が問題を出すように促す。


幸はパッと顔を上げて、意気揚々と話し始めた。


「とある部屋に、お互いを殺したがっている人間が閉じ込められた。

しかし、部屋には次のような文字が書かれている。

ーーー

以下のうち、二つの条件を選んで守ること。

第一条・人を殺してはいけない

第二条・人を痛めつけてはいけない

第三条・この三条を絶対遵守する

※例外は一切、認めない。

ーーー

この部屋では、これを破ろうとしても手は出せない。──だけど、部屋には死体が残った。

さて、どうしてだと思う?」


幸が言い終えると、有珠はすぐに言う。


「そうね。まず、“部屋に死体が残った”としか、言っていないから、最初の時点で死体があった──というのは、答えになるかしら?」


「ああ…そういうズルいのは辞めてくれない?」


幸は困ったようなポーズで、諭すように語りかける。


有珠の口から、思わず声が漏れる。


「なによ…ズルいって…」


「詐欺師が使いそうな手のことだよ」


有珠は額に手を当てた。

……考えているのではなく、呆れ返っているのだ。


彼女は仕方なく返答を続ける。


「それなら、“手は出せない”けど、“足は出せた”というのは?」


「うーん。特別に『違う』ってことにしてあげよう」


“ワーオ、小粋なジョークだ”── 有珠は、蹴りを一発、お見舞いしたくなった。


内心、有珠の忍耐は、我慢の限界に近づいていた。


彼女は才能ある人間ではあるが、こういった問題は不得意なのだ。


これが最後だとばかりに、有珠は言う。


「…文理解釈によれば、第三条は何も規定していないと言えるわ。

“一条から三条までを守る”ように言っているのではなく、“第三条を遵守する/第三条を遵守する”…と自己言及していると読める。

さらに、『※例外は一切、認めない』という文も、“条件”に含むと考えれば、これで二つになる。

──どうかしら?」


「フッ──正解」


幸は、そう言って有珠に拍手を送った。


車内の静寂を切り裂く拍手の音を聞きながら、有珠は思う。


『…もうコイツとは電車に乗らない』──と。

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