ロクでもない二人
スイノニ
第1話 すべての始まり
『ねぇ岩崎くん。一緒に帰ろ』
そう言われて俺は声のした方に目をやると、そこにはつい学年一の美少女と呼ばれる
『悪い。呼ばれたからまた明日な』
『羨ましいなリア充め。爆発しろ』
そんな軽口を友人と済ませて俺は足早に彼女の下へ向かう。
学校から家につくまでに数人の男から何度か疑うような視線を向けられた。
それもそうだろう。
自分で言うのも何だが、運動や学業など全てにおいて平凡そうに見える俺と彼女のような非の打ち所のない美少女ではどう考えても釣り合っていない。
俺が彼らの立場だったら同じように疑いの視線を向けるだろう。
どうして、そんな俺が彼女と付き合えているのか。
これには少しわけがある。
学校を出て電車に揺られること十数分、俺の住むマンションについた。
いつものように俺の家に上がって彼女とゲームをしていると、ふと後ろを振り向いた彼女と目があった。
『伊藤先輩⋯』
そう彼女が物欲しげな顔で呟くと、彼女は俺と唇を重ね合わせた。
その後も互いに何度かキスをしてから顔を離し、俺は相手の名を呟いた。
白井さんと。
無論これらは互いの本当の苗字ではない。
互いの実際に好きな人の苗字である。
俺こと
でも、互いを本当に好きな訳では無い偽物の関係である。
こんなややこしい関係になってしまったキッカケはついこの間の出来事だった。
俺には好きな人がいる。
名前を
俺は高校に入学してすぐに彼女へ告白した。
彼氏がいるにも関わらず。
このときの俺が何を思って告白したのかは定かではないが、高校生になったときに彼女からお祝いで放課後に出かけようと言われて思わず舞い上がってしまい、正常な判断ができてなかったのだろう。
結果もちろん拒絶、無論その後のお出かけも却下された。
やらかしてしまったと内心思いながらうなだれて歩いていると、突然背後から声をかけられた。
これが今の俺の偽りの彼女、一条渚との出会いである。
彼女は俺に
『行きたいところがあるからついてきて』
とだけ伝えて俺の腕を掴んで半強制的に、学校近くのファミレスに連れてきた。
『どうして俺を連れてきたんだ』とか『なにか話したいことでもあるのか』など聞きたいことはたくさんあるが、そんなことを聞く前に彼女が話し始めた。
『色々聞きたいこともあるだろうけど、まずは突然連れてきてごめんなさい』
『あなたを連れてきたのは、あなたに一つお願いをしたいことがあったからなの』
謝罪の言葉から始めた彼女はすぐに要件だけを俺に伝えた。
『連れてきたことについては別に構わないけど、そのお願いっていうのは何だ?』
『君、引かない?』
『引くかどうかは、話の内容によるな』
『わかった。じゃあまず⋯』
そう言って話し始めた彼女はとんでもないことを言い出した。
要約すると彼女の話はこうだ。
彼女には好きな人がいて、その人が俺が今日告白してフラれた白井先輩の彼氏であり、告白しても今日の俺のようにフラれて終わるだけなので、告白してフラれる決心がつくまで互いに付き合っているふりをして寂しさを紛らわせたいとのことだった。
彼女曰く本当は誰でも良かったらしいが、どうやら俺がフラれたところを見ていたらしく適任だと思ったらしい。
一通り話終わった彼女は、この提案を俺が了承することを期待していなさそうな目でこちらを見ていた
それもそうだろう。
なにせこんなろくでもない提案、普通の人間なら考える余地もなく断るからだ。
だが、俺はこの提案を何故か魅力的に感じていた。
多分その時点で俺がこの提案を受けるか否かはすでに決まっていたのだろう。
『わかった。君のその提案受けよう』
俺がそう言うと、彼女は驚いた表情をしたがすぐに了承した。
この関係を続けるに当たって、俺達は二つ取り決めをした。
一つ 互いを好きにならないこと
二つ この関係が続くのは互いが告白しに行くまで
ということである。
『じゃあ改めてよろしく。一条さん』
『こちらこそよろしく。岩崎君』
こうして仮初のカップルが誕生したのである。
俺達が恋人になり、数日がたった。
お互い初めて偽ではあるが恋人ができたこともあり、最初は何をしていいのかわからず不慣れだったが数日たった今となってはもうそんなことはなくなった。
また、俺達は自身の思いの分だけ依存していて一緒にいる時間が大半だったことが功を奏したのか、俺達の関係を疑う目がなくなるくらいには完璧に恋人を演じることができていた。
「前から思ってたんだけど岩崎くんってどこであの女と関わり持ったの?一見なんの接点もなさそうに見えるけど」
いつもどおり家で過ごしていた彼女がふと俺にそんなことを聞いてきた。
あの女というのは恐らく白井先輩のことだろう。
「白井先輩は近所だったこともあって昔からそこそこ仲が良かったんだよ。好きになったのはその後だけど、俺が子供だった頃はよく遊んでたぐらいだし。—―告白してからは顔も合わせてないけど⋯」
そう簡潔に話し終えた俺は今日の朝偶然あった時も顔を逸らされたことを思い出して、少し精神的なダメージを食らった。
「そうだったんだ。なんか以外」
「そういうお前はあの男といつから関係があったんだ?」
「伊藤先輩は中学の頃の部活の先輩で中々学校に馴染めなかった私を助けてくれてそれで知り合ったの。あの頃私がどれだけ助けられたか⋯」
そう言って自身の馴れ初めについて長々と話し終えた彼女は俺に構って欲しそうにしてこちらを向いてきた。
その目を見てあの男を演じてほしいのだろうと察した俺は、彼女を白井先輩と思いながら彼女へキスをした。
俺達は似た者同士なのだ。
こうして互いの好きな人を演じて寂しさを紛らわす関係が心地いいと思ってしまうろくでもないところが。
そんなことをキスの音が響くこの部屋で俺は思ったのだった。
ろくでなしな二人のラブコメがこうして始まる。
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