第19話 衝撃
……素晴らしい日だった。
自分の部屋の椅子に座った俺は、今日の出来事を噛みしめる。
楽しいテニスからの、バスケ体験や美術部など。
残念ながらコスプレ……違う違う。
残念なことに茶道部や薙刀部辺りの制服は高価で借りることが出来なかった。
なので、俺は権力を行使することに。
「セバス、今から言うものをすぐに用意しろ」
「畏まりました」
「金に糸目はつけん、最上級の物を用意させろ」
「では、すぐに手配いたします。しかし、お金は……」
「俺の私財から出す。あれを好きに使って構わん」
「左様でございますか」
少し複雑そうな表情をして、セバスが下がる。
確かに俺の私財は、元々を言えば皇太子の座を手に入れるために集めた金。
俺はそれを使い、ユリアを救ったと言うわけだ。
既に皇太子になる気がない今、溜めていても仕方ない。
その後、寝る前にユリアが部屋を訪ねてくる。
赤いパジャマを着て、めちゃくちゃ愛らしい。
「どうした? 言っておくが夜這いは受けん(次来たら断る自信ない!)」
「そ、そんなことしませんっ……でもご主人様なら別に……ただ、どうせならご主人様の方からなんて……」
「ん? 最後がよく聞こえん」
「な、何でもありません!」
「そ、そうか」
叱られてしまった! 何かまずい事を言ったか!?
うーん、相変わらず女心はまるで分からん。
「では、何をしにきた?」
「その、少しお話がしたいなと思いまして」
「ほう、仕方のないやつめ(うひぉぉぉぉ!)」
「顔引きつってますけど……ご迷惑でしたか?」
「いや、そんなことはない(にやけるのを堪えてるだけです!)」
このままでは話が進まないので、全神経を集中させて顔を作る。
推しである彼女に、頼れる男というのを見せてやらねば。
「なら良かったです。それで、今日は楽しかったので……お礼に来ました」
「ふんっ、律儀なことだ(よかった! 俺も楽しかった!)」
「あんな風に動いたり、笑ったりしたのは初めてな気がします。自分にも、あんな感情があったのだと驚きました」
「……これから好きなだけ出来るさ」
良かった、やはり抑圧されていたか。
ならば引き続き楽しめるように努力せねばな。
「……確かにそうですね。今日みたいに皇太子様が来なければ良いですけど」
「来たら俺が相手をするから気にするな」
「ですが……私は何も返せていません。ただでさえ、ご迷惑をかけているのに」
「誰が迷惑だと言った? お主は俺のメイド、つまり俺のモノ。それに手を出す者は、誰であろうと許さん」
「ご主人様……では、私も貴方に相応しいメイドになってみせます」
「ふんっ、期待せずに待つとしよう(無理はしないで!)」
「ふふ、わかりました。ただ、その前に……どうしてもお礼がしたいのです、何かして欲しいことはありますか?」
その目は夜這いに来たような死んだ目ではなく、少し申し訳なさそうな目だった。
やはり、無償の奉仕は気にするか……俺としては推しが幸せであればそれで良いが、不安にさせるのも良くない。
だったら……俺も少しくらいご褒美を貰っても良いだろうか。
「よし、わかった。では、そこに座ると良い」
「は、はいっ」
ユリアは笑顔になり、用意された椅子に座る。
俺は座ることなく、部屋にある簡易コンロに茶葉とお湯を入れ火にかける。
「へっ? な、何を……」
「こら、動くでない」
「で、ですが……」
相変わらず、オロオロするユリアは可愛い。
もう既にご褒美である。
その間に牛乳を足して沸かさないように気をつける。
二、三分待ってこしながらコップに注ぐ。
仕上げにハチミツを入れたら完成だ。
「ホットミルクティーだ」
「わ、私にでしょうか?」
「当たり前だ」
「な、何故です?」
そりゃ、奉仕したいからです!
本当だったら、俺が執事になりたいくらい!
「たまには使用人の気持ちも知っておかねばな」
「……なるほど、ご立派です」
「ふっ、そうであろう(やった! 褒められた!)
「では、有り難く……美味しいです」
「当然であろう。カフェインなしを選んだから睡眠にも問題ないはずだ」
ァァァァァ! 笑顔が尊い!
そして、俺はめちゃくちゃ幸せ!
すると、ユリアが大きな息を吐く。
「はぁ……ご主人様には何もかもお見通しなのですね」
「ん?」
「私が色々な出来事があって興奮して寝れないと思い、こうしてわざわざ振舞ってくれたのですね」
「い、いや……(単純に推しに奉仕したいだけですけど?)」
「いえ、わかってますから。暖かくて……心まで」
……なんか良く分からないが黙っておこう。
うん、その方が良さそう。
その後、静かな時間が流れる。
それは気まずいものではなく、なんだか心地よい。
「ふぅ……お陰様で眠れそうです」
「ならさっさと寝ろ(ゆっくり寝て!)」
「はい、そうしますね。ただ、次こそはお礼を受け取ってもらいますから」
「はっ、出来るならやってみるが良い」
既にお礼貰ってるのですけどね!
いやー、推しに奉仕するの楽しい。
「では、まずはこれで——」
「はっ?」
「お、お休みなさいませ!」
な……な……ほっぺにチューだとぅぅぅ!?
あまりの衝撃に、しばらくの間放心するのだった。
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