第17話 滑稽

その後はコートを一個貸してもらい、ユリアとラリーをする。


それは何だが、とても幸せな時間だった。


そんなに特別なことをしているわけではないというのに。


「上手くなったではないか!」


「ご主人様こそ上手ですね!」


「くく、俺を誰だと思ってる」


「傲岸不遜な皇子様でしたね」


何これ! 楽しい!

そうか! これが青春というやつか!

その後、流石にコート使いすぎると不味いので、キリのいいところで切り上げる。


「アーノルドよ、長く使ってしまってすまんな」


「い、いえ、空いていたので問題ありません」


「そうか……ん? 今更だが、お主怪我をしているのか?」


動きが良かったから気づかなかったが、右足にサポーターをつけていた。


「少し靭帯をやってしまいまして……だから今は無理のない指導係に回ってるんです」


「そうか。ならば——ヒール」


「はっ? な、何を……痛くない! 動くぞ!」


「ふんっ、回復魔法を使ったのだから当たり前だ」


「な、何故アルヴィス殿下が回復魔法を……いや、そもそも何故私に」


「なに、教えてくれた礼と思っていい」


ありがとうございます! お陰で推しのテニスウェアを見れました!

その後、散々アーノルドにお礼を言われる。

どうやら、大事な大会が近かったそうだ。

そして制服に着替えたら、近くにあるベンチに座って休憩を取る。


「ふふ、また人助けですか?」


「俺は対価を支払ったに過ぎん。借りを作るのは好きではないのな」


「なるほど、そういうことにしましょう」


ユリアは上機嫌にニコニコしている。

どうやら好印象を与えたらしい……照れるな。


「それより、良い運動になったな」


「ふふ、そうですね……こんなに動いたのは久しぶりです」


「そういえば体力がなかったのだったな」


「お父様やお母様からお淑やかに、男の後ろを歩くのが淑女の嗜みだと育てられたので。なので、戦いや運動とは無縁の生活でした」


やはり、そうだったか。

抑圧された環境で育った故に、自分の意見の仕方がわからないのかもしれない。

それらが婚約破棄に繋がる結果になったのか。

だとしても、セバスに調べさせたところ彼女に罪はない。

詳細は省くが、俺の予想では兄上の器が小さかっただけの話だ。


「なるほど、つまらん」


「つまらない女ですみません……」


「そ、そうではない!(アルヴィスのアホ! いい方ってもんがあるだろ!)」


「えっと……?」


「そんな価値観はつまらんと言ったのだ。別に女だからと言って男に従う義理もないし、男より優れていても良いに決まってる」


何となく、ユリアの状況が見えてきてイラつきが増した。

おそらく、この子は自分の能力をわざと低くしてきたに違いない。

それは両親であったり、あの兄上の所為だろう。

ならば、俺は強くなって……この子が自分を下げないようにせねばな。


「……ふふ、相変わらず変な方ですね」


「ふんっ、ほっとけ」


「ですが、嬉しいです。ということは、ご主人様は戦う女性や頭のいい女性は嫌いではないということですか?」


「別に嫌いではない(むしろ好きです!)」


前世でも騎士姫とか、しごでき美女が好きだったし。

いわゆる、カッコ可愛いというやつだ。

すると、ユリアがほっと息を吐く。


「どうした?」


「いえ、何でもありません。では、次は何処に行きますか?」


「むむむ、迷いどころだな」


調べたところ、この世界はゲームが元なので俺の知ってる部活が沢山ある。

前世の一般的な高校の部活はほぼあると思っていい。

その中でも茶道や薙刀部、後は剣術部などが気になるか。


「ご主人様自身は何の部活がしたいのです?」


「いや、俺は……(コスプレが見たいだけです!)」


「どうしたのです?」


そう言い、首をコテンと傾げる。

ァァァァァ! 可愛いぃぃ!

その時、視界に邪魔者が目に入った。


「あれは……皇太子様」


「ちっ、何しにきた」


「いた! まだ話は終わってないぞ!」


なるほど、あれでは納得しなかったか。

ただ、俺としては関わるつもりはない。

俺は今、推しと共に青春を謳歌しているのだ。

邪魔をするなら——覚悟しろ。


「大地よ凍れ、アイスロード」


「う、うわァァァァァ!?」


俺が作った氷の道に滑り、兄上が情けない声を上げて転げる。

それはめちゃくちゃ滑稽で笑いが止まらない。


「ふははは! 滑稽だな!」


「ちょっ……いいのですか?」


「これくらい構わん。とどめだ、食らえ——はっ!」


「ぐへぇ!?」


近くにあったラケットでサーブをして、ボールをみぞおちに叩き込んだ。

我ながら見事なコントロールである。

俺はその間にユリアの手を引き、その場を離れることにした。


「さて、面倒なので行くとしよう」


「で、ですが、あんなことしたら……」


「なに、別に怪我を負わせたわけでもない。むしろ、あれくらいで済ませたことを感謝して欲しいくらいだ」


「……私、性格悪いです。その、少しスッキリしてしまいました」


「くく、傲岸不遜たる俺のメイドに相応しいではないか」


「……ふふ、確かにそうですね」


すると、静かに微笑む。


この顔が見れるなら、やった甲斐があるというものだ。


今度きたら、また適当にあしらうとしようか。

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