第59話 「あの人今、俺のことを『おもちゃ』とか言ったんですけど!?」
『ダンジョンの10層まで案内(キャリー)して欲しい』
そんな俺の言葉に最初はキョトンと、そのあと不審人物を見る目になったカズラさん。
「えっと、あなたってこの一月に探索者になったばっかりなのよね?
そっちのナントカちゃんにいたっては二月からでしょ?
……私が高校一年の間に到達した階層って知ってる?」
「もちろん! 知りませんけど」
「知らないのにどうして威勢のいい返事をしたのかな!?
学生のうちは『ダンジョン泊』があまり推奨されてないっていう理由もあったんだけど……4月のうちに1層から2層、6月になって3層、9月で4層の12月で5層。
6層に行けたのは二年になってからなのよ? それが……10層に行きたいですって?」
そう告げたかと思うと、満面の笑顔で睨んでくるカズラさん。
「まぁ普通はそういう反応になるんでしょうね。
ちなみにですけど、カズラさんってその一年間でどの程度の数の魔物を倒しました?」
「何そのこれまで食べたお米の粒を数えろみたいな質問……そんなの覚えてないわよ」
彼女の視線が俺から中務さんにに移る。
「そうね、私があなたと一緒にもぐってた時は一度のダンジョンアタックで150から200くらいだったのではないでしょうか?」
「おお! 思ってたより多いですね」
「柏木さん、あくまでもそれはカズラ1人ではなく、4人ないし5人パーティでの数値ですからね?」
「つまりソロ換算だと35から45くらいと。
……思ってた以上に少ないですね」
「えっ? 何その反応……。
いえ、そう言えばあなたってダンジョン初日の女の子にスライムを600匹狩らせるような鬼畜(おにちく)だったわね。
でも、スライムなんて数千匹、数万匹倒したところで強くなんてなれないんだから何の意味もないでしょ?」
「甘いですね。カズラさんの知ってるスライムだけがスライムじゃないですからね?
あと、連れて行って欲しいとは言いましたけど、それはあくまでも引率、保険みたいなものですから。
剣を振るってもらう予定はないですからね?」
「葛、最近ダンジョンに入っていない人間が言ってもあまり説得力はないけど、今の柏木さんも小娘……コホン、明石さんも私と同程度の力があるわよ」
「えっ? たかだか2・3ヶ月、一層で魔物をを狩ってただけなのに……ブロンズクラスのショウコ同じ?
あははっ、いくらなんでもそれは盛りすぎでしょ?」
声を出して笑い出したカズラさんに真顔の中務さん。
「……マジで?」
「もしも嘘なら柏木さんを危険な目に合わせることになるのよ?
私がそんな馬鹿なことを言うハズが無いでしょう?」
「……いいわ。それなら10層とは言わず、あなたが最初に言った20層まで付き合ってあげる。
でもあなたってダンジョン内で夜営をしたことはないよね?
片道10日、往復で20日……20層までなら荷物持ち兼見張りに最低でも10人は必要なんだけど、そのあたりのことは考えてるのかな?」
「あれ? 最初に言いませんでしたっけ? 帰り道のことは考えなくてもいいって。
そもそも俺と明石さんは4月の始めに入学式もありますので、途中でお休みも貰いたいですし。
もちろんカズラさんも手ぶらで、何の荷物も持って行く必要はありませんよ?」
「ふっ……ぷふっ……あは、あははははは!」
そんな俺の言葉に先程とまでとは違う、小さな子どものような笑い方をする彼女。
「なんなのよもう! あなたの言ってることがまったく理解できないんだけど!
ショウコ、こんな面白いおもちゃがあるならもっと早く教えてよっ!」
「中務さん! あの人今、俺のことを『おもちゃ』とか言ったんですけど!?」
「えっ? カズはそんなこと言ってないよ?
もしかして『お兄ちゃん』と聞き間違えたんじゃないかな? かな?」
いや、さすがにそれは無理があるだろ……。
「いいわ、まだまだ頼りないところはありそうだけど、あなた……お兄ちゃんのことをショウコの婚約者としてみとめてあげる!
そうね、それと、もし今回のダンジョンアタックであなたが20層まで到達できたら中務の家督はショウコに譲らせるわ!」
「葛、それはいらないと昔から言っているでしょうが……。
それに、私の結婚は私自身が私の愛する人と決めることであなたにどうこうしてもらう必要なんてありません!」
ケラケラと、それはそれは楽しそうに笑うカズラさん。
「何ていうか、そうして笑ってれば結婚したい……とは思わなくとも、一緒に遊ぶくらいならいいかな? って思えるんですけどねぇ」
「柏木さん、思いとどまってください! その女の中身は化け物の類ですよ!?」
「お兄ちゃんのそれはどこから目線の言葉なのかな!?
あと、ショウコのそれは従姉妹に言うことじゃないからね!?」
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