第二話:家が広すぎる、混乱も同じくらい

障子の隙間から差し込む最初の朝日が、黄金の矢のように晴美の額を直撃した。


彼女はまばたきしなかった。


強いからではない。ただ、全く眠れなかっただけだ。


「たぶん…ちょっとアレルギー出ちゃったのかな…」布団の中でこもった声でつぶやく。


隣では泉がいびきをかいていた。普段はお姫様のように眠るのに、この日はまるでトラクターと競争しているかのようだった。古道具屋の呪われた倉庫のような部屋で、どうしてそんなに深く眠れるのか。


晴美はくしゃみを連発。夜中ずっとくしゃみしていた。ほこり、ダニ、花粉、古い家の魂──すべてが襲いかかってきたのだ。


しかし、日が始まった。


晴美はアジア系ドラマの主人公のように立ち上がった。髪は12方向に向かい、くまのような目の下、でも決意は満々。


「よっしゃーー!!」

木のスプーンを剣のように握り、信じきった完全な錯覚の自信で部屋の真ん中で叫ぶ。


腰に手を当て、大きく息を吸い込む…そしてくしゃみ。泉が飛び起きた。


「今日こそこの家を輝かせるんだ…ハックション!!」


泉はびっくりして座る。


「誰か死んだの?!」

「あなた。」晴美はくしゃみをしながら答える。「あなたが死んだのを起こして助けてもらうの。」


泉はあくびをしつつ、周りのカオスを眺める。積み上げられた箱、ほこり、落ちた扉、壊れたほうき3本、怪しい染みのある畳。


「寝なかったの?」


「寝るなんて弱者のすることよ。」

晴美は赤い鼻で答えた。まるでピエロの鼻。


晴美は顔を洗い、髪を結び、玄関を開けた。朝の冷たい風が「頑張れ、あなたには必要だ」と囁くように吹き込む。そして…家全体を見た。


巨大。四角ブロック1つ分の大きさ。


晴美は凍りついた。

泉も凍りついた。

葉っぱが1枚落ちた。

晴美は唾を飲んだ。


「泉…」

「いや。やめろ。」

「泉…」

「やめろって言ったでしょ。」

「この家、住人より部屋が多すぎるの!!」


泉は両手を上げる。


「おめでとう!気付かないうちに古いミニ旅館を買ったね!」


「それ…値段が安い理由がわかった…」


二人は門の前に立ち、果てしない家の側面を眺める。向こうにおじいさんが犬と通りかかり、手を振る。


「おはよう、晴美ちゃん!」

「あ、あ、おはよ…」晴美は自動的に微笑む。後から気づく。

「誰だったの?」

「知らない。」泉は答える。


その後、隣の家の縁側からおばあさんが出てきた。


「晴美ちゃん!やっと来たわね!」

「わあ…ただいま!」晴美は笑顔で手を振る。

泉がささやく。

「知ってる人?」

「たぶん…いや、知らない。」晴美は少し落胆。


さらに三人が「晴美ちゃん!」と声をかけて通り過ぎた。一人は質問した。


「一人でこの大豪邸に住むの?」

「違う!」晴美は即答。「私…私…泉がいる!」


「いや、私は明日の朝には出て行くけど!」


泉は小さく手を挙げて挨拶。

おじいさんは微笑む。

「ああ、妹さんか。子供の頃覚えているかも。」


晴美は固まる。

泉も固まる。


二人は見つめ合った。


「待って…私たちここに住んでた?」泉が聞く。

「覚えてない。」晴美は慌てて答える。


でも晴美は考えるのをやめ、いつものように笑って家に逃げ込んだ。


掃除は希望に満ちて始まった。


正確に8分で終了。


「うわああああ!!」

「何!?」泉は箱を落とす。

「古い人形を見つけて幽霊かと思ったの!!」

「…晴美、それは陶器のタヌキだよ。」


晴美はタヌキを戻し、魂が半分抜けたまま。


10分後:


「うわああああ!!」

「また?!」

「踏んだ、ふむ、ふむ、フス…」

「何を踏んだの?!」

「…固定されていない畳に踏んづけられて、3メートル飛んだの。」


泉は大笑い。


晴美は部屋を掃除した。

くしゃみ23回。

礼儀正しい二匹のクモに遭遇。

埃の溜まった棚を拭く。

奇跡的に割れなかった花瓶にぶつかる(でも尊厳はほぼ破壊)。

途中で自分のバケツに足を取られる。


「助けて…家具の一部になっちゃった…」泣きながら足首を外そうとする。


泉は猫を木から救う消防士のように助けた。

三時間後、晴美は畳に座り込む。


汗だく、アレルギー全開、フラストレーションMAX、掃除後もさらに汚れていた。


「もっと簡単だと思ったのに…」

「晴美、この家、脳みそより部屋が多いね。」泉は優しく言った。


その時、玄関のノック。慎重に開けると、そこにいたのは…


前の家の向かいの隣人、桜さん。

小柄で優しい笑顔、花柄の着物を着て、「こっそりお菓子をくれるおばあちゃんオーラ」全開。


「おはよう、二人とも!」優しい声。「お茶を持ってきたわ。それと…手伝いも。」


晴美は泣きそうになった。


「ありがとおお…」お茶を抱え、ノーベル賞を受け取ったかのように。


桜さんは中の大混乱を見て、愛情たっぷりに笑った。

「まあ…本当に大きな家を手に入れたのね。」


床に座り、粉まみれの顔で親指を立てる晴美。

「ちょっと…想像より大きいだけ。ほんの少し。3倍くらい。」


泉は果てしない廊下を指さす。

「晴美。この家、反響するよ。」


桜さんは優しく微笑み、膝に手を置く。

「手伝いが必要なら、呼んでね。」


晴美は汗とほこりにまみれながらも、頭を下げる。

「本当にありがとう、桜さん!まだ…ちょっと迷子だけど。」


「まあね。小さな町は最初怖いけど…すぐ慣れるわ。みんな顔見知りだから。」


泉は腕を組む。

「そうね。みんな晴美を幼馴染みみたいに迎えてくれた。」


晴美は誇らしげに微笑む。

「ほら、優しい人ばかり!」


泉は目を転がす。

「いや、人生のどこかで会ったことがあるだけかもね。」


「人は忘れないの!」晴美は反論。


泉は三秒見つめ返す。


桜さんは微笑み、晴美の手を握る。

「さあ、行きましょう。家は待っているけど、もう夕方よ。残りは明日。今日は町を案内するわ。ここがあなたの家なのだから。」


晴美の胸が温かくなる。

家は巨大、混乱も巨大、アレルギーも最大級。でも桜さんの優しさで、すべてがうまくいく気がした。


晴美は深呼吸。

「じゃあ…町を見てみよう!」

この日、初めて、自分のいるべき場所にいると感じた。

迷子でも、汚れていても、間違いなくここが自分の場所だ。

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