いらっしゃい、春海さんのバタバタ生活へ。

あじせ

第一話:大到着!

電車はゆっくりと遠ざかり、山から吹く冷たい風に混ざって、細かいほこりの跡を残していた。

ガタンゴトン…線路のリズムが、心まで引っ張っていくみたいだ。


晴美は額を窓にくっつけ、深呼吸してニヤリ。

ちょっと歪んだ、ちょっと不安げで、でも「ああ、私何やっちゃったの…?」って顔の笑みを浮かべた。


「着いたね、泉…」

自信ありげに言おうとしたが、契約書の小さい文字を読まずにサインした新人社員みたいに聞こえた。


妹の泉は、自分より大きな箱を抱えてヨタヨタと降りてきた。今にも倒れそうな足取りだ。

「写真も見ずに家買うなんて、やっぱり無茶じゃない?」

ヨタヨタ歩きながら文句を言った。

「幽霊とか出たらどうするの?」


晴美は荷物棚からもう一つ箱を取って笑った。

「幽霊は最高の隣人だよ。騒がないし、砂糖も借りに来ない。」

「ただし、いびきかかないならね。」泉はフゥと息を吐く。

「だってあんた、もう二人分はいびきしてるでしょ。」

「してないって!ただ…呼吸に熱意を込めてるだけ!」


冷たい風が二人の髪をぐちゃぐちゃにしながら、狭い道を歩いた。

桜の木々はまだ少し花びらを残していて、「ようこそ!」って言ってるみたいに見えた。


小さな町は、まるで古い映画のワンシーン。

開いた窓から味噌汁の香りが漂い、門のそばで老人たちが談笑し、太った猫は「全部の季節をもう何回も見たぜ」って顔でのんびり歩いていた。


そして、通りの突き当たりに──


新しい家があった。


晴美は門の前で両手を広げ、まるでテーマパークのアトラクションを紹介するかのように叫んだ。

「ジャジャーン!私の新しいお家へようこそ!」


泉は首をかしげ、伝統的な日本家屋をチェックした。

木造の屋根、狭い縁側、障子…そして、「今すぐリフォーム必須!」という殺人的オーラ。


「うわ…想像以上に古いね。」

「ドラマのセットみたい!」


「でしょ?!性格あるでしょ!」晴美は門をドンドン叩き、誇らしげだった。


「性格とホコリの香り付きね。」泉はくしゃみをしながら付け加えた。

「ハックション!」


晴美は目を転がし、鍵を差し込む。

「さあ、入ろう!」


回す。

回らない。

もう一度。

やっぱり回らない。

力を込めて回す。

鍵がぐにゃっと回った。


そして──


ガチャッ!


ドアノブが手の中に落ちた。


二人はそれを見つめ、まるで家族全員に「ざまあみろ」と言われた気分になった。


泉はゆっくり瞬きした。

「…いいスタートだね。」


晴美はドアノブを掲げ、絶望のギリギリでニヤリ。

「ただの…ちょっとした技術的ハプニングよ。新しい家には“ウェルカム儀式”が必要でしょ?」


泉は腕を組んだ。

「へぇ?その儀式の名前は、『おめでとう、ドアが人生を諦めました』?」


「文句言わないの。」晴美は肩でドアを押した。

「ちょっと手伝えば──」


ドアが思いっきり開き、二人は半分中、半分外に落ちた。

箱や自分の足につまずきながらヨロヨロ。


埃が舞い上がり、畳が砂漠みたいになった。

カーテンは傾き、空気は放置された詩のような匂い。

夕暮れの光が障子の穴から差し込み、舞うほこりをキラキラ照らしていた。


泉は周りを見渡し、目を丸くした。

「わぁ…予想以上にひどい。」


晴美は壁をポンポン叩き、まるで馬を試すかのように確認した。

「完璧!あとは愛とお手入れ…あと、必要ならエクソシストかな。」


泉は眉をひそめた。

「見ずに買ったの?」


「うん!」晴美は胸を張った。

「オンラインオークション、激安だったの!」


「激安!?晴美、古い物が安すぎるときは理由があるんだよ!」


「理由は私が賢いから!」


「理由は誰も欲しがらなかったから。」


晴美は劇的に体を反らせた。

「私は自立した女よ、泉!新しい家が必要なわけじゃない!倒れなければ──」


ドンッ!


内部のドアが突然落ち、「もうやめる!」って言わんばかりに床に転がった。


二人はそれを見つめた。


沈黙。


泉が指差す。

「これ…トイレのドアでしょ?」


晴美はため息をついた。

「そう。」


「じゃあ、使うときは…宣言しなきゃいけないの?」


「姉妹はすべて共有するの。トラウマもね。」


泉は笑い出した。

「生き残れるかな…?」


晴美は心から笑った。

「ちょっとおかしいけど、これが私の人生だもの。」


「もちろん大丈夫。これはただの第一段階。」


泉は箱を持ち上げた。

「第二段階は?」


晴美は深呼吸し、大舞台に上がるみたいに構えた。

「私が何してるか分かってるフリして、あなたが信じてるフリする段階。」


泉は笑った。

「それなら私、得意よ。」


二人は家の中に入り、箱を廊下に置き、つまずき、避けながら、床のきしみを聞いた。


晴美は腰に手を置きため息をついた。

「新しいスタートへ、ようこそ!」


泉は混乱した温かい景色を見て微笑んだ。

「うん…確かに、始まりって感じだね。」


家がまた軋んだ。


二人は顔を見合わせた。


晴美は言った。

「…手間しかかからない始まりだけどね。」


そして、電車を降りて以来、初めて二人は声を出して笑った──

大声で、安心して、そしてこの壊れた奇妙な家が、ちょうど二人に必要なものを意味していることに笑った。


新しい出発の場所。


少し歪でも、それは“家”だ。


そして何より…


これから始まる全ての混乱の序章。

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