大傑作『三体』の初見の感想・考察

米田 菊千代

第1話 『狂乱の時代』を読んで

読みながらメモをしているので、印象に残った部分を箇条書き&考察。

最後にまとめの感想・考察を述べる。



葉哲泰イエ・ジョータイ……学者、父。

葉文潔イエ・ウェンジエ……娘。主役?

紹琳シャオ・リン……学者、母。

阮雯ルアン・ウエン……学者。



【マルクス主義】

・受け取る者によってひどく単純化しやすい。


本来のマルクス主義は洗練された哲学的な内容だが、それを利用する者や受け取る人間の知性の程度によって『資本家』と『労働者』の対立に至りやすい内容。

この話では『思慮深い人間』と『衝動的=狂乱する人間』としても表れている。


※ 資産家と労働者の両方が社会に必要。片方がいなくなれば社会は停滞して成り立たない。少なくとも人間社会としての豊かさは消滅する。


※今の日本は衰退しつつあり、その鬱憤もあって、マルクス主義は最悪な形でSNSを中心に受け入れられて広がっていきそうに思う。



【女性キャラの多様さ】

・意図的に女性キャラをさまざまな立場・年齢で出している。


政治、闘争、知性……すべてにおいて社会的に男性が主役である。

作者は男性だから、自分と同じ性別のキャラクターのほうが書きやすいはずだ。

だが、そうしなかった。


◇ 時代に流されて共感、共鳴して熱狂する少女たち→

四・二八兵団の旗を翻す少女(思想の元に死ぬ)

紅衛兵の中学生少女4人(思想の元にリンチをおこなう)


◇ 知性がある女性たち→

紹琳(賢くて聡いからこそ、保身に走り夫を糾弾する)

阮雯(賢く信念があるからこそ、最後は自決する)


◇ 文化大革命に翻弄される→

葉文潔(賢く、流されず、怒りや悲しみがある。)

彼女はエンタメにおける、主人公的立場にあると思う。



【文書】

・中国らしい流麗さ。


花や風を思わせる詩的な雰囲気もある。

SFはお堅いイメージがつきやすいが、物語としての柔らかさを感じる。



【全体の感想・考察】


この小説は、よくある昔ながらの古風なSFではないよ、ということを表したくて、あえて女性を多く出しているのだろうか?


登場人物が男性ばかりだと、やはり革命の暴力面が強くならざるを得ない。

それは、男性=男らしさ=強さ、権威、堂々とした振る舞い……というテンプレート可したイメージが世界中にあるからだ。


知性と思慮深さがありけっして暴力に屈しなかった葉哲泰( 葉文潔の父)が闘争の中で死んだように、もしも葉文潔が娘ではなく息子だったなら、「お前も男なら戦え」と周囲に言われて、本人が嫌がろうとも闘争に巻き込まれて渦中から物語を語っていくことになっただろう。

この物語はフィクションだが、現実にあった出来事を下敷きにして書いてあるので、現実的な流れを無視できないからだ。


作者は暴力を書きたいのではない。あくまでも知的に、時に感情を交えて物語を書こうとしていることが文章からうかがえる。

そのためには、暴力的な闘争から一歩だけ外にいられる女性を主体にして書くほうが都合がよかったのかもしれない。


また、この本はとても分厚い。文化大革命はあくまでもスタート地点であり、この先、長いながい物語が紡がれていく。

この作品は長期的な視点で描かれており、短期の爆発的な出来事を描いたものではないのだろう。


現代の医療や科学において、子どもを産めるのは女性の体を持つ者だ。

女性を主役にしたのは、その子孫がどんどん未来に続いていくイメージではないだろうか。


つまり、この物語は今後子孫へ、そのまた子孫へと代々続いていく、長い歴史の暗示ではないだろうか?

なぜならばすでにこの物語中で、死んだ父・葉哲泰から葉文潔へと物語がシフトしている。


たった15ページの中で、作者はこの物語の全体像と行く末をすでに描いていると思われてならない。

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